ヤキモチ
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 初夏の気持ちいい日和、なんてものが年々少なくなってきているんじゃないかと思うような暑い日差しの中、俺は今日も学校までのハイキングコースを歩いていた。めずらしく早く目が覚めたのでいつもより早い時間であり、急がなくてもいいのだがついいつものくせで早足になってしまう。しばらく歩いていると、前方に見慣れた姿が目に入った。小柄な姿、ショートカットの髪が風に揺れる。俺は足を速めてそいつに追いついた。
「よう、長門」
 声をかけると長門は声もなく俺を見た。
「早いな。いつもこの時間なのか」
「そう」
 それだけ言うと再び前を向き黙って歩くのはいつも通りの長門である。俺もせっかく追いついてまたわざわざ離れるのも変な話なので、黙って長門の隣を歩くことにした。だいたいこいつが無言なのはいつものことで、俺も慣れちまって初めて会った頃のような気まずさを感じることもない。
 その後、俺が話しかけて長門が相づちを打つという会話をたまにしながら学校に到着し、5組の教室の前で別れた。

 本当にめずらしいことに、ハルヒはまだ来ていない。俺がそれだけ早く来たってことだな、と思っているとそのハルヒが教室に入ってきた。先に座席に着いている俺を見て驚くかとも思ったのだが、ただ入学したての頃のように眉間に皺をよせて俺を睨んだだけ。
「よう、朝から不機嫌だな」
 席に着くハルヒに声をかけると、瞬時に頭を射抜かれそうな視線を俺に投げかけてきた。
「別に」
 それだけ言うと視線を窓の外に固定、取り付く島もありゃしねえ。たまに早く来ていつもより会話する時間が多いってのに、って別に会話したいってわけじゃないがまあいつもの習慣だ。
「何かあったのかよ」
 だから会話したいわけじゃないっていい加減俺もしつこいな。こいつが不機嫌ってことは古泉にバイトが入ったり世界が何かおかしなことになったりしかねないわけで、早いうちに原因を知っておいた方がいいってだけだ。
 ハルヒは黙って外を見つめていたが、俺がそろそろ会話を諦めようかねと思った頃、窓の外を眺めたままぽつりと呟いた。
「今日、有希と来たの?」
「へ? ああ、たまたま会ったからな」
「嘘」
「は?」
 そういやハルヒは俺の後すぐに教室に入って来たから、もしかしたら登校中の長門と俺の姿を見たかもしれない。しかし何でいきなり嘘だと決めつけるのか。いくら何でも失礼だろ。
「何が嘘なんだよ」
「……」
 俺の問いかけにまた黙る。先ほどのように眉間に皺をよせてはいないが、なんとなく落ち着かないような、あまり見たことのない表情をしている。いったいどうしたっていうんだ。
「……有希と一緒に来るために早起きしたんじゃないの?」
「はあ?」
「────何でもないわよっ!」
 突然大きな声を出したかと思ったらまた怒った表情を作って、飽きもせずに窓の外を眺めている。
 つーか何だ? こいつは俺が長門と登校したのが気に入らないって言うのか? 何でまた? 別に俺が誰と登校しようが関係ないだろ、そう言いかけたがそっぽを向くハルヒの頬がわずかに朱に染まっているのに気づいて止めた。
 まさかお前────いや、そんなわけないか。
「今日はめずらしく早く目が覚めて、早く来たんだ。長門がこの時間に登校してるのも今日初めて知ったくらいだ」
 俺がそう言うとチラリと目だけでこちらを見る。
「それにしても、何でそんなに怒るんだ? もしかして、ヤキモチか?」
「な、な何言ってんのよあんたは! あたしが何でヤキモチなんか……!」
 真っ赤になって叫ぶあたり、図星かよ。
「いや、お前も長門と登校したかったんだよな。声かけりゃ良かったのに」
 まったくお前も素直じゃねえな。お前が遠慮するのもらしくないし、長門なら気にしないぜ?

 何故かこの後俺はハルヒのボクサー顔負けのパンチを食らって床に倒れることになったのであった。
 そうだ、人間図星をさされたら怒るんだっけな。肝に銘じておくことにするさ。しかし痛えな畜生。


  おしまい。