涼宮ハルヒの戦国時代 序章
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ちょっと前置きが長くなりますが、一度目を通してくださると幸いです。

この話はタイトル通り戦国時代パラレルのような感じですが、実際の歴史は大幅に改変されております。
大きな歴史の流れは意識していますが、細かい部分は全然違います。
まず、ハルヒの居城を小清水城としましたが、モデルはもちろん越水城です。
戦国時代に詳しい方ならすぐにピンと来るでしょうが、三好長慶が畿内平定をする拠点とした城です。
時代的には三好衆はとっくに四国に追いやられている辺りのつもりなのですが、それにしても荒木村重がこの辺治めているんじゃないかとか突っ込んではいけません。
そんなこと言うから彼は信長に反旗を翻したりするんです。嘘ですごめんなさい。

俺は歴史とか好きですが専門的でもなければ造詣が深いわけでもないので、おそらくツッコミどころ満載かと思いますが、生暖かく見守ってくれると幸いです。
ただ、明らかに知識として間違っていることでもわざとやっていることもあったりしますが。と先に自分をフォローしておくw

時代背景としては、多分信長が上洛して一度は義昭を将軍に祭り上げたにもかかわらず結局追放し、石山辺りと喧嘩しつつ謙信とか別所とか波多野とかと喧嘩してる辺りかなと考えております。

こういう話を書くと仕方ないのですが、オリキャラが出てきます。
ハルヒの父親とか設定してますしね。名前つけるのが妙に恥ずかしかったw

#ちなみに、もともとは実際の歴史上の人物との絡みを結構書く予定だったのですが、かなり破綻したので諦めましたw
つーわけで、歴史的な事件と絡むことはあまりありませんのでご了承ください。

これをハルヒでやる意味あるのかという形而上学的な(嘘)疑問を持ちつつどうぞ。

 序


 俺たちの歩く左手に見える山は赤茶に染まり、空はいよいよ高く空気は少し冷たさを感じさせるように冴え渡り、つまりいよいよ秋も深まり、一年で一番厳しい季節が近々訪れることを予感させている。
 そんな穏やかな秋晴れの下を、俺は自分の主であるところの古泉一樹と共に、西国街道を東へと歩いていた。


 古泉一樹、という呼び方は、本来ならばしない。古泉自身、元服ののち、古泉越後一樹と名乗るわけだが、この時代の武家の奴らがたいていそうであるように、この「越後」にあまり意味はない。一樹が諱(いみな)であるかわりに越後と呼ばれる方が多いはずの古泉は、この物語上その私称している官名もどきの仮名はほとんど出てこないと思ってくれ。織田が信長ではなく上総介であろうが武田が晴信ではなく太郎であろうが、古泉一樹は古泉一樹なのである。
 そして、俺が古泉を古泉と呼ぶこと自体が、この時代としてはあり得ないのだが、俺にとっては古泉は古泉であり、ついでに言えばこんな時代にもかかわらず苗字に「くん」や「さん」をつけることもこの先お目にかかることになる。
 この物語はそういう戦国時代物のお約束を破りながら進行するので、そういうつもりで読み進めて頂けるとありがたい。


 俺は摂津国八部(やたべ)郡のとある村に住む、古泉家に仕える足軽の子として生まれた。この時代、足軽ってのはたいてい戦がないときは百姓をやっているわけで、俺の家も例外ではない。俺自身、このまま百姓として暮らすか、それとも親父と同じく足軽になることで人生を送る物だと思っていたのだが、人生何が起こるかさっぱり分からん。

 古泉家は、摂津国南西部の四郡(八部・菟原・有馬・武庫)を支配する涼宮家の一番家老であり、八部郡にある花熊城の城代家老でもある。古泉家の足軽として花熊城下に住んでいた俺は、古泉家長男である古泉一樹とはいわゆる幼なじみにあたる。古泉家の家風なのか、あいつはその辺の上流武士のように専属に師匠をつけて学問を学ぶのみならず、城を出て村の寺で百姓の子と机を並べて学んでいたのである。俺や同じく竹馬の友である国木田が古泉と身分の差があるにもかかわらず気の置けない仲なのはそういう理由であり、幼い頃から和歌や書をたしなみ、誰に対しても丁寧に接する古泉と俺たちの関係は、端から見れば主従関係だとは誰も思わないであろう。

 その古泉は、元服してしばらくしてから、いきなり俺の家を訪ねてきた。わけを尋ねてみると、俺を古泉の士官候補として預かりたい、とのこと。どういうこっちゃ。
 実は古泉家はこの辺りの土着ではなく、数代前にどこぞから流れてきたらしい。俺はどういういきさつがあったのか詳しくはないが、流れてきた後に一財産築き、人を集めて涼宮家に仕え、あっという間に一番家老にまでのし上がって来た。つまり、新興の家柄と言っていい。
 新興の家に必ずまとわりつく問題が、人材不足だ。古泉の父親は八部ではかなり慕われており、それなりに人は集まるのだが、士官候補となるとなかなかいないらしい。それで古泉自身が人を集めて育てることになった……という経緯を聞かされたのだが、それじゃあ何で俺に目をつけたのかがさっぱりわからん。俺と同様に目をつけられた国木田の方がまだ士官候補としては使えそうだと思うがな。

 まあ、そういう訳で俺は百姓でも足軽でもなく、専業武士としての道を歩き始めることになってしまったのだが、はっきり言おう。俺には向いてねーぞ。


 閑話休題。

 前置きが長くなってしまったのだが、とにかく俺は古泉と共に、主家であるところの涼宮弥三郎輝職を訪ねるべく、涼宮氏の居城である、武庫郡小清水城へと向かう道中であった。
 腹の立つほど晴れ上がった空に百舌鳥がさえずり、俺たちが何の目的で小清水なんぞへ向かっているかを忘れそうになる。
「こうやって空でも見てると、今からしようとしてることが嘘みたいだな」
 いつも穏やかに笑みをたたえている古泉は、俺がそう言うとその笑みの種類を面白がっているかのような物に変化させた。
「乱世であろうと治世であろうと、秋晴れには変わりないと言うことですか。我々が槍を持ち刀を持って走り回ろうが、田畑に種を蒔こうが、百舌鳥は百舌鳥でしかありませんよ」
 こいつがこういう分かったような分からないようなことを言うのもいつものことで、俺はもう慣れっこだ。今更問答しようとすら思わん。
「だがな、何でこうも気持ちのいい天気の日に、わざわざ血生臭い話をしに行かねばならんのかね」
 別に雨が降ったらそういう話がいい、という訳でもないが、こんなのんびりしたい気分の日には話題を選びたいもんだ。
「どのみち、あなたが話をするわけではないのですから、天気は関係ないでしょう」
 そりゃそうだ。涼宮家から見れば俺は陪臣であり、主家のお屋形様に目通りなどかなうわけもない。俺は古泉が弥三郎と会見している間、城の外で待ちぼうけを喰らうってことになる。

 戦を行う。
 今回の話の目的は、その許可をもらうこと。
 準備はすでに整っている。
 行うのは、もちろん涼宮家ではなく古泉家である。そして、この合戦の総大将になるのは古泉自身であった。
 これは古泉の親父殿の命である。曰く、「そろそろ一人で武功をあげて見せよ」とのことであるが、言うことが無茶苦茶だよな。まだ元服してそう経っていない十代の、合戦経験自体が数回という若造が総大将である。経験値の低い者が頭に立って物事が上手く運ぶ試しはそうないだろ?
 それでも、古泉の親父がそう言ったのは、そうでもしないと、まだ新参と思われている者が認められにくいと言うことなのか。
 つくづく思う。
 なんて時代に生まれちまったのかね。
 俺は出来れば戦なんかない時代に生まれて、何か面白いことにぎりぎり巻き込まれない立ち位置で突っ込みを入れつつ傍観者でいるような人生を送れないもんかと夢想するのだが、夢想は幻想であって現実ではない。時々、何か面白いことに傍観者どころか当事者として走り回っている俺がどこかにいるような気になるのだが、きっと気のせいなんだろう。

 またしばらく歩き、小清水城下に入ってきた。
 この時代、城下町なんてものはまだ形成されていない。城自体、茅葺き屋根の大きな家屋という風の物が主流であるのだが、この小清水城に関しては例外と言っていいだろう。
 小さいながらも天守を持ち、城下に与力や被官を住まわせて一応の城下町のような物を形成しているのみならず、北側にある式内社や南側にある神社の門前町と合わさってなかなかにぎやかな街並みを作っている。
 西国街道の重要な拠点であるというのも一つの理由であろうが、もしかしたら涼宮弥三郎の貴族趣味が関係しているのかも知れない。
 俺は古泉に従って何度か来たことがあるのだが、初めて来たときは驚いた。八部は同じ摂津でも田舎なんだ、とつくづく感じた物である。

 ようやく小清水城に到着した。おそらく、古泉は翌朝まで解放されないだろうな。
 俺がそう言うと、古泉は苦笑した。
「おそらく、おっしゃるとおりでしょう。また明朝に」
 そう言って片手をあげ、城内に吸い込まれていく古泉を見送って、俺は考えた。
 さて、これからどうしようかね。

 俺は暇をもてあましてぶらぶらしていた。だいたい、俺みたいなたいした身分でないものが付き添いなんてやっていると、主人が仕事の間は暇なもんだ。小清水の知り合いを訪ねようかとも思ったが、どうせ明日の朝まで時間があるのだし、それはまた後でいい。
 花熊城下に比べてはるかににぎやかな町並みでも散策することにするか、と思って歩いていたのだが、いつの間にか町はずれまで来てしまっていたらしい。ここまで来ると街の喧噪もなく、ただ眼下を流れる川と並木、近くに見える山並みと西に傾き始めた太陽が俺の視界に入る物すべてであった。
  
 いや。

 いるのは俺一人かと思っていたのだが、川沿いの並木の下に座り込んでいる人影があった。
「女……?」
 思わず声に出して呟く。あまり治安のいい時世とは言えない。日が傾いていないときでさえ、こんな人の少ない場所に女が一人でいるのは危ない。ましてや、夕刻が近づいている時間においてや、だ。
「あー! もう! つまんない!!!」
 突然女が叫んだ。変な女だな。
 そりゃ、歌でも詠むつもりでもなければこんなところで一人ぼんやり川を眺めていたってつまらんだろう。分かり切ったことを叫ぶ女に多少興味を引かれた俺は、女のいる方へと向かって行った。
「どうして天から人が降ってくるとか川から河童が流れてくるとか、何か面白いことがあたしの周りでは起きないのかしら!?」
 天から人が降ってくりゃそいつは間違いなく死ぬだろうし、河童が川で流れているとしたらそれは間違いなく河童の死体だ。こいつは一体何をもって面白いだのつまらないだのを判断しているんだ?
「どうせなら五十年後くらいから誰かがあたしのところに誰が天下取ったかなんて教えてくれたら面白いのに」
「そりゃ無理だ」
 別に俺に話しかけたわけじゃないのは分かっているのだが、もうすぐそばまで近づいてしまっていたので、思わず答えてしまった。まあ、俺が五十年後から来てないことだけは確かだしな。
「誰よっ!」
 鋭く叫んで立ち上がった女は、突然現れた男に恐れる風もなく俺の前に立ち、真っ直ぐに俺を睨んできた。
 黄檗色の小袖に包んだ細身の身体、細く白い首の根、鴉の濡れ羽色をした艶やかな髪、意志の強さを閉じこめたような大きな瞳、それを縁取る長い睫毛、きりりと引き結んだ朱い唇。
 立てば芍薬、という言葉が俺の頭によぎる。

 わずかな時間、俺は口をきくことが出来なくなっていた。
 さっきから何やら変なことを言っている変な女だと思っていた相手が思いもよらない美人だったという現実が、俺の思考を一瞬奪った。
「あんた何者? いきなり現れたのに、有希が何も言わないなんて。妖怪変化かなんか? それとも、天から降りてきたの? あっ、それとも本当に未来から来たの? ねえ、世の中どうなってる? 五十年後は? 百年の後は? 今よりもっと面白くなってるでしょ?」
 何だこの女は。
 知らない男と人気のない場所で二人きりなのにまったく怖がらないどころか、俺のことを人外の何かと決めつけて矢継ぎ早に質問してきやがる。しかも、何故か物凄く嬉しそうだ。さっきまでつまんないとか言ってなかったか?
 変なことを言う変な女、という当初の判断は間違っていないらしい。
「残念ながら妖怪でも天から降りてきたわけでもない。単なる人間だ」
 生きていく中で、自分が人間であるとわざわざ自己紹介しなくてはならない日が来るとは思っても見なかったぜ。
 女は空を振り仰ぐと、一つ溜息を吐いた。
「なーんだ。つまんない」
 元に戻りやがった。
「何をもってつまんないと決めつけてるんだ、お前は」
「ねえ、空ってなんで青いんだと思う? どうして夕暮れ時には赤くなるの? 夜は黒いのは何故?」
 俺の話なんかまったくもって聞いちゃいねえ。
「知るか。神さまが染め上げでもしたんだろ」
 別に本気でそう思っちゃいないが、黙ってるのも何なので適当に答えておく。女は俺をちらりと見ると、また空に視線を戻した。
「神さまなんていやしないわよ。染め上げてるとしたら天に住まう誰かに決まってるわ」
 だからなんで決まってるんだ。その「誰か」が神さまなんじゃないのかね。
「天の遠く、お天道様もお月様も星々も下に見下ろすようなそんな場所に、もしかしたら誰か住んでいて、あたしたちを見ている、そう思わない?」
 太陽よりも月よりも遠くか。かぐや姫も真っ青だな。考えたことすらない。第一、毎日毎日空を青から赤、紫から黒へと染め上げてるってどこの暇人だ。
 お天道様は毎日東から昇って西に沈む。
 お月様は日々西から東に場所を変えていく。
 それが当たり前だろ? その向こう、なんて考えをどうして思いつくんだ。
「何でまたそんなことを考えるんだ」
 そう言った俺をじろりと睨むと、女ははっきりと言い放った。

「そっちの方が面白いじゃないの!」
 
 確かに女の考えは正直面白い、と思う。こんな時代、室町はとっくに駄目だし、涼宮家は巨大勢力に挟まれて、どちらに付くかで喧々囂々だ。俺だって明日には死ぬかもしれない。そんな現実を考えるより、女の言うことを考える方が有意義かどうかはさておいて、わくわくするような気分が心に湧き上がって来ないでもない。
 だが、これは現実逃避じゃないか?
「まあ、確かに面白いかもな」
 それでも一応同意しておこう。女は一瞬驚いた顔をして俺を見たが、
「やっぱり! あんたもそう思うでしょ!!」
 蓮の花が開いたように一気に表情を笑顔に変えて、、
「あたしは“はるひ”。小清水城にいるからまた会いに来なさい!」
 と命令口調で言ったかと思うと、そのまま走り去ってしまった。女の後を追うように、木々が風でざわめいた。
「何だったんだ、一体……」
 残された俺は、阿呆面を下げて、“はるひ”と名乗った女の走っていった方向をただ眺めているだけだった。
「小清水城ね。下働きの女かなんかか?」
 それにしちゃ身のこなしがすっきりしていたような……いや、しかしわからん。

 はるひという女が「会いに来なさい」と言った真意は分からない。
 どういう意味にせよ、どうせもう会うことはないと思っていた。

 まさか、あんな形で再会することになるとは、夢にも思わなかった。