昼休み
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 いつもなら昼休みに入ってすぐに飛び出すはずのハルヒがめずらしく席を立たないなと思って振り返ると、
 ……寝てやがった。どうりで背中のシャーペン攻撃がなかったわけだ。
 やけに熟睡しているようにも見えるからには起こすと怒りそうでもあるが、しかし起こさなければこいつは昼飯を食いっぱぐれる恐れがある。
 起こすべきか起こさざるべきか、ザット・イズ・ザ・クエスチョン。などと英国古典を引用している場合じゃなくて、本当にどうしようか。
 こいつは普段食堂だよな。少し考えて俺は席を立った。
「あれ、弁当食わないのかよ」
「ああ、ちょっと用事があるから後で食うよ」
 いつも一緒に飯を食っている谷口、国木田に手を振って俺は教室を出た。

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 夕べは有希に勧められて読んだ本が面白くてつい夜更かししちゃったのが悪かったんでしょうね。
 つまんない授業に身が入らないのはいつものことなんだけど、今日は特に眠たくって、午前中の授業をほとんど寝て過ごしていた。
 最初のうちは寝たり起きたりしていたんだけど、だんだん眠りも深くなってきて、いつの間にか熟睡していたみたい。起きたときに時計を見て驚いた。もうすぐ昼休みが終わるじゃないの。最後の記憶は3時限目だったから、あたしは4時限目と昼休みのほとんどをずっと寝て過ごしちゃったみたい。休み時間を寝て過ごすなんて不覚だわ。時間がもったいないじゃない!
 なんで休み時間にキョンは起こさないのよ、と文句を言おうとしてもキョンは教室にいなかった。そう言えば谷口や国木田もいないから、つるんでどっかに行っちゃったのかしら。
 今から食堂に行ってももう売り切れちゃってるかも、だいたい食堂に行って食べる時間も残ってないと思って、主のいないキョンの座席を睨んで……ある物に気がついた。
 キョンの机の脇にかかっているビニール袋。なんの絵も描いていないこれは、やっぱり購買のかしら……?

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 そろそろ昼休みも終わるので、外の空気を吸いに出ていた俺は教室に戻った。自分の席に戻ると既にハルヒは起きていたらしく、パンをむしゃむしゃと食っている。
「おい、ここにあったパンとジュースを知らないか」
 疑いようもなく今ハルヒが食っているそれなんだが、一応聞いてみる。
「あんた居ないからもらったわよ。お腹空いてたし」
 まったく悪びれずに言うハルヒに苦笑するしかない。お前は俺がいなきゃ俺の物を勝手に食ってもいいと思ってるのかよ。
「だいたい昼休みに入ったなら起こしなさいよね。おかげで食堂行きそびれちゃったじゃないの」
 起こして欲しいなら先に言え。起こしたら起こしたで怒りかねない地雷を自ら踏む気にはなれないんでね。だいたい人のパン食ってるんだから食堂行けなくてもいいじゃねえかよ。
「そう言えばこれ、あんたのお昼だったの?」
「弁当は食ったよ。それは放課後に食おうと思ってた分だ」
「ふうん。こんなに食べるとあんた太るわよ」
 大きなお世話だ。
 パンを4個全部食べきり、ジュースも一気に飲み干すと、「ごちそうさま!」と機嫌良く空き袋を返して来る。自分でゴミ箱に捨てろよ。
「しかしお前は旨そうに食うよな」
「そりゃ不味そうに食べたって楽しくないじゃない。作ってる人に感謝するには美味しく食べるのが一番でしょ!」
「それより買ってきた俺に感謝はねえのかよ」
 別に感謝を強要する気はなかったんだが、作ってる人にだけ感謝されるのはなんとなくシャクだ。
「まあ、あんたにしちゃ気が利くんじゃない?」
 そう言うとふいっと窓の外を向いてしまった。

 授業の開始を知らせるチャイムが鳴り、俺が前を向く瞬間に「ありがと」と小さな声で言ったのはちゃんと聞こえたからな。
 しかしやっぱりそのパンをなんのために買ったのかバレバレだったみたいだな。

 いや、別にハルヒをもっと寝かせといてやりたいとか、起きたときに飯食う時間なくなったら可哀相だとか、そんなことこれっぽっちも思ってないからな? 勘違いするなよ?  こいつが機嫌悪いと結局とばっちりが俺に来るんだよ、ただそれだけの話だ。


  おしまい。