16年後の七夕
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 一般的に7月上旬ってのはまだ梅雨の季節であり、俺が幼少の頃は雨で織姫も彦星も見えないのがむしろ当たり前だったと思うのだが、ハルヒと知り合ってからは晴れる日が多いってのは例の変態的パワーが関与しているのかもしれない。
 そんなことを考えながら空を見上げると、織姫であるベガと彦星であるアルタイルは満天の星空なんて望むべくもない空であっても健気に輝いていた。
 今住んでいるマンションのルーフバルコニーに飾られている笹は、主にハルヒと子供たちが作った飾りが多すぎるだろと突っ込みたいくらいに吊り下げられ、ご多分に漏れず短冊も下がっている。子供たちもこましゃくれて来たとは言えまだこういうイベントは楽しいらしく、折り紙を切ったり貼ったりして飾り付けを楽しんでいた。
 三十路に突入したというのに相変わらずのハルヒは、今年も「16年後と25年後に叶えてもらう願いを書きなさい!」と言って俺と子供たちに短冊を押しつけた。ここ数年の俺の願いはいつも同じで、『家族全員が幸せに暮らせますように』としか書いていない。16年後でも25年後でも、この願いは変わらないと思う。だから同じでいいのさ。
「何よ、面白みに欠けるわね!」
 なんて文句を言うハルヒの願い事も、以前と違って子供たちのことが中心になってるくせにな。

 夜も更けて子供たちを寝かせた後、俺とハルヒはまたバルコニーに出て夜空を眺めていた。
 なあハルヒ、お前は気付いてるか? 初めてお前と短冊を書いてから、ちょうど16年経ったんだぜ。
「当然でしょ! 忘れるわけないじゃないの!」
 やっぱりそうか。俺の願いはいまいち叶ってはいないようだが、まあ生活出来るだけの金はなんとかなってるから勘弁してくれよな。
「あーあ、やっぱり地球の自転が逆になったりはしないわね。あの願いは届かなかったのかしら」
 少なくとも俺が知る限り、まだ太陽は東から昇って西に沈んでいるからな。
「今年こそ!って期待してたのにな……」
 この年になってそんなこと期待すんなとツッコミを入れようかと思ったが、どうも本気でがっかりしているようなのでやめておいた。こいつの16年前の願いはなんだっけ? 確か地球の自転が逆になるようにってことと、世界がハルヒを中心に回るようにってことか。まあ自転が逆になっても困るからそれは置いておくにしてもだな。
「願い事の1つは、俺にとってはとっくに叶ってるんだがな」
「どういう意味?」
 隣に立つハルヒの耳元に口を寄せ、小さな声で伝えた言葉はハルヒを照れさせるのには充分だったようだ。
「バ、バカ。あんた1人だけなんて意味ないじゃないの」
「そうかい、そりゃ悪かったな」
「……でも、まあいいわ。そっか、とっくに叶ってたんだ」
 そう言って悪戯っぽく笑う表情に吸い寄せられ、軽く唇を合わせると、ハルヒは俺の背中に手を回した。


 ────俺の世界はいつだってハルヒを中心に回っているんだよ。


 9年後、地球の自転は逆にならなくてもいいが、一戸建てくらいは考えられるようになってるといいな……。



  おしまい。