不思議なのは?
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- ハルヒ -
 雲の隙間から光が降ってくる────天使の梯子とかレンブラント光線なんて名前が付けられていても、あたしはそれがチンダル現象の一種、空気中のチリや細かい水滴で散乱された太陽光であることを知っている。
 そう、一見不思議で綺麗なこの現象も、しっかり科学的に説明出来てしまう。
「つまんないわ」
 思わず呟いた独り言を、あたしの前にいるキョンが耳ざとく拾った。
「何がだ」
 その顔には「また厄介なことを企んでいるんじゃないだろうな」とでも書いてあるようで、あたしはまた憂鬱になる。
「別に」
 イライラを隠さないまま口調に出して窓の外を眺めた。ほんとにつまんない。不思議なことがあたしの前に現れないことも、現れたってもしかしたらそれは簡単に科学的な説明が付けられるかもしれないってことも。
 不機嫌なあたしに呆れてるのか、キョンは溜息を1つ吐いた。

「お前がつまらないと…………」
 キョンが呟いた言葉に一瞬固まる。何よそれ、どういう意味よ。
「何よ」
 聞こえなかったふりをして聞き返すけど、思った通りキョンは答えなくて。
「別に」
 さっきの会話を裏返したようなやりとり。何が「別に」よ、真似してるんじゃないわよ。

 お前がつまらないと俺もつまらん、ってどういうこと?

 そんなキョンの言葉を考えているうちに退屈も憂鬱も気がついたら消えてしまっていた。
 考えてみれば、キョンの言葉に振り回されているあたしの感情が一番不思議だわ。これは、なんて言えばいいのかしらね?


- キョン -
 ハルヒが大人しいって言うのは不気味な徴候であり、それは嵐の前の静けさという表現がぴったりなのか、あるいは何かややこしい企画を水面下で進行させていることを俺に気取られないためのポーズかもしれないが、どちらにしても後々東奔西走させられる前兆であることをいい加減俺は学んでいる。
 だから窓の外を見て溜息を吐きつつ「つまんないわ」なんて呟いたハルヒが気になるのは当たり前であって、決してこいつがこんな表情をしていると何故か落ち着かないとか、ここ2~3日はあの恒星を閉じこめたような瞳の輝きも5尺玉花火がはじけたような笑顔も見ていないとか、そう言うことは一切関係ない。

「何がだ」
 つまんない、と言ったハルヒの愚痴でも聞いてやれば多少気は晴れるのかねなんて思って声をかけてやったというのに、俺を一瞥しただけでまた窓の外に視線を戻しやがった。
 空に浮く雲の隙間から光の通り道が見えていてなかなか綺麗なのだが、この風景もハルヒの心を動かすには足らないようだ。
「別に」
 不機嫌そのままの口調でそう言うハルヒに思わず溜息を吐く。まったく、どうしてこうまでこいつの機嫌に俺の気分も左右されてるんだろうね。
「お前がつまらないと俺もつまらん」
 口にしてすぐに後悔した。何を言ってるんだ、俺は。いや確かにこいつが大人しいと気になるしこいつがつまらなさそうな顔をしているとなんとなく俺も憂鬱な気分が移りそうと言うかとにかく笑っていて欲しいというかってだから何を考えてるんだよ!
 幸いハルヒの耳には届かなかったらしく、「何よ」とだけ聞いてきたハルヒにさっきのセリフをお返ししてやる。
「別に」
 お返しされたことにむかついたんだろう、ちょっと拗ねた顔をして再びそっぽを向いたハルヒに苦笑しつつ俺は前を向いた。

 さっきより雲の面積が減った空に間近に迫った梅雨明けを思い、それまでにはハルヒも夏の太陽みたいな笑顔を取り戻しているといいななんて柄にもなく思いながら、俺は今日何度目かの溜息をつくのだった。


  おしまい。