正夢?
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「いったあ……」
 もう、何やってるのかしら。
 珍しく朝寝坊したのはたぶん変な夢を見たからで、その夢自体はまあ別にいいんだけど、 雨だと言うのにいつもより遅く家を出る羽目になったあたしは北高への坂を急ぎのぼっている途中に足をもつれさせて転んでしまったのだった。
 濡れてしまった制服に舌打ちしながら立ち上がり、落ちた傘を拾う間にあたしを追い抜いていく他の北高生たちはチラリと目をくれる物の、誰も手助けをしようとはしない。もちろんこちらからお断りなんだけど、あいつらもそれを解っているんでしょうね。
 このあたしがこんな醜態をさらすなんて、とんだ失態だわ。朝からこの雨も嫌だし、妙にイライラした気分になる。
 軽く身体の水気を払い、改めて傘を差した頃、後ろから声をかけられた。やだ、今の見られてたかしら。
「ようハルヒ。珍しいな、お前がこんな時間に登校とは」
「なによ、あたしがたまに遅く出たら悪い?」
 咄嗟に出た言葉は照れ隠しにとげとげしくなってしまった。しかしキョンは全く気にとめた風でもなく、少し視線を下に落とすとポケットから何かごそごそと取り出す。
「おい、膝から血が出てるぞ。拭けよ」
 差し出されたのはアイロンのかかったハンカチだった。まだ今日は使っていないだろう綺麗なそれを受け取ったものの、血で汚すのは躊躇われる。
「何だよ、それまだ使ってないから汚くはないぞ」
 あれ? その言葉をどこかで聞いたような……?
 そこで思い出した。そう、今朝の夢だ。同じように転んだ後キョンに声をかけられて、同じようにハンカチを渡されて……。
 次の瞬間、顔に血が上ったのが解った。な、何焦ってるのよ、あれは夢なんだから、だいたいキョンがあんなことするわけないでしょ!
「だ、大丈夫よ! ハンカチ汚れるからいいわよ!」
 そう思いつつ、夢と同じような返事をしてしまうのは特に意味があるわけじゃないわ。別に何かを期待してるなんてこと、全然ないわよ!
 キョンは怪訝な顔をしてハンカチを受け取った。別に何もしていないのに、あたしの心臓はやけに鼓動を早めている。落ち着きなさい、あれは夢、そう、夢なんだから!
「珍しいな、お前が遠慮するとは」
 べ、別に遠慮してるわけじゃないわよ、たいした怪我じゃないってだけよ!
「まあそれなら早く学校に行こうぜ。遅刻しちまう」
 あっさりそう言うと、キョンは坂道をのぼり始めた。
 それまで緊張していたあたしは拍子抜けてその場に立ちつくしていた。
「おい、どうした? 根っこでも生えたんじゃないだろうな」
 動かないあたしを振り返るキョンはいつも通りの間抜け面で、無性に腹が立って来る。
「うるさい! このバカキョン!」
「うわっ! いってーな、おい!」
 鞄を投げつけてひっくり返ったキョンを追い抜きそのまま振り返らずに早足で歩く。慌てて立ち上がったらしいキョンはどうやら後を追って来てるみたいだけど、キョンの顔をまともに見れない。


 だって、まさか夢ではハンカチを返した後、キョンが跪いて傷を舐めてくれたなんて言えるわけないでしょ!
 ち、違うわよ、別に期待したワケじゃないわよ、ただ正夢って不思議体験じゃない?
 ただそれだけなんだからね! ああもう、キョンのバカ!!!


  おしまい。



GLORIAあまぎ様によるキョンサイド↓
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