好きということ
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「ねえ、好きってどういうこと?」
 ぼーっと窓の外を見ながら、突然放たれたハルヒの言葉に驚いて振り向く。
 ハルヒはまるで明日の天気はなに? とでも訊いているような表情でしかない。なにが言いたいんだ?
「好きって、それ以上でもそれ以下でもないだろうが」
 年頃の女の子が「好き」なんて口にすりゃそれは恋愛がらみだと考えるのが普通だろうが、あいにくハルヒに限ってそれはない。恋愛は精神病なんて言うヤツだからな。逆に言えば、この「好き」が恋愛ならば、ハルヒにとってそれはイコール「精神病」ってことだ。
 などと言う俺の考えを覆すようなことをハルヒは口にした。
「あたしは精神病だと思ってたのよ。それなのに、みんなバカの一つ覚えみたいに誰かが好きなんて言い出すじゃない?」
 なんと本当に恋愛沙汰についてだったとは。さて、精神病と思っていた、と過去形で述べたハルヒは、この後なにを言い出すのだろう。
「あんな落ち着かない感情なんて、本当に頭がどうかしているとしか思えなかったわ。でも……」
「でも、なんだ?」
 ハルヒがこう語るのは、ハルヒ自身が恋愛感情を誰かに対して持ったことがある、ということだ。その事実は妙に俺を落ち着かない気分にさせるのだが、今は理由をあえて考えないようにして、先を促した。
「……浮つくんじゃなくて、落ち着くの。気の迷いじゃなくて、いつの間にかあたしの中の一番重要な部分を構成してるの」
「なにが?」
「『好き』っていう気持ちが」
「……」
 ハルヒは誰を、とは言わなかった。俺も訊かなかった、いや、訊けなかった。
 突然こんなことを言い出したハルヒは、間違いなく誰かを好きなんだろうが、それが誰かを知りたい気持ちと知りたくない気持ちがせめぎ合う。
「だったらそれでいいんじゃないのか?」
「え?」
「お前がそうやって誰かを好きだと感じてるなら、別にそれでいいじゃねえか。だから何かを無理に変える必要なんかないだろ」
 もやもやと腹立たしい気持ちすら沸いてくるのを抑えながら言葉を続ける。
「だいたい好きなんて人の感情の一部だろ。笑ったり怒ったり泣いたりする感情が人にとって大事なように、好きって気持ちだって大事にしてやればいい」
「……なによ、偉そうじゃない」
「ああ悪いか。少なくとも、誰かを好きって感情だけはお前に負けないつもりなんだよ」
 目を見開いたハルヒの表情を見て、余計なことを言ってしまったことに気づく。

 ……さて、どうしようか。

 そのとき救世主、いや、担任岡部が入ってきて、俺とハルヒの会話は終了した。
 やれやれ、ハルヒが追求しようって気になる前で良かったぜ。もっともその場しのぎに間違いないけどな。
 さて、俺の「好き」がどこを向いているのかを知られずにハルヒの「好き」のベクトルを知る方法はあるのかね。
 それがお互いを向いていればいい、なんて思ってるのは、きっと俺だけなんだろうけどな。

 背後の気配が何となく落ち着かないものになっているのに気づきながら、俺は深い溜息を吐いた。


  おしまい。 



Gimma_Akito様が続きをハルヒ視点で書いてくださいました。↓
好きという言葉
ありがとうございました。