ありきたりじゃないありきたり 後編
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前編 後編

 今度こそ本当に翌日のことだ。

 前日の夜、ハルヒは言いたいことを言うとさっさと寝息を立て始め、俺はそのハルヒが言ったことが気になって結局眠れぬ夜を過ごしたのはもうお約束に近いものがある。
 ようやく睡眠が訪れたと思ったらハルヒに叩き起こされた俺は、あくびをかみ殺しながら支度をし、当然のように一緒に行くというハルヒとともに家を出たのが今朝のことで、今はすでに放課後だ。
 当然授業なんか睡眠学習と化していたわけだが、今はそんなことはどうでもいい。俺はハルヒに、部室に行くのは少し後れると伝えて、食堂の屋外テーブルへと向かった。
 例によって例のごとく、自販機で紙コップに入ったコーヒーを買い(今度はちゃんと減糖している)、すでにいつもの爽やかスマイルを顔に貼り付けている古泉が座っている丸テーブルに俺も腰を落ち着けた。
「呼び出して悪いな」
「いえ、こちらこそ、少しお話ししなければならないと思っていましたから」
「なんの話かはわかってると思うが」
「ええ、あなたと涼宮さんのご結婚のお話でしょう」
「……殴るぞ」
「冗談です」
 まったく、こいつを相談相手に選んだのは間違いだったか、とおもしろそうに喉の奥で笑い声をたてている古泉を睨み付ける。いや、しかし、今の現状をどうするべきか俺だけでは決められない。長門はこういう話はわからないような気がするし、朝比奈さんはきっとまたなにもしらないだろうから、結局消去法でこいつしかいなかった。
「……まあいい」
 わざと憮然とした表情で言うと、俺は例の結婚話から、昨日突然やってきたハルヒの語ったことなどをかいつまんで古泉に語った。相変わらず聞き手としては完璧で、俺が話しやすかったのは言うまでもない。
「……それでだ」
「なんでしょう」
「お前はハルヒの精神分析にかけてはエキスパートなんだろ。なんでハルヒはこんなことをしてるんだ。どう考えても、あいつはヘンテコな能力で周りに影響を与えてるだろうが」
 俺の疑問に少しにやけ面を強めると、古泉はコーヒーを口に運んだ。
「非常に興味深い疑問ですが」
「お前が興味持つのもわからんな」
「そうではありません」
 どっちなんだよ。
「僕としては、むしろ涼宮さんが今までこのような行動を取らなかったことの方が不思議なくらいですよ」
 どういうこった?
「あなたは態度をはっきりさせませんからね。涼宮さんのすることに表向きは反論し、その割に朝比奈さんや長門さんにはお優しい。涼宮さんが非常に落ち着かない気持ちになるのも当然と言うものでしょう」
 さっぱりわからん。なにが当然なんだ、なにが。
「おや、あなたはここまで来てまだ誤魔化しますか。涼宮さんはあなたと結婚したいとおっしゃいましたが、結局はあなたと一緒にいることが目的なのはおわかりでしょう。つまり、涼宮さんにとって、あなたは『常に一緒にいたい相手』ということになります。ここまで説明しないと……おわかりになっていないわけではなさそうですね」
 俺の表情を見ておもしろそうに口角を上げるのが忌々しい。どんな表情をしてたかなんて聞きはしないがな。
「ですから、今回の涼宮さんの行動はある意味では予測されたものと言ってもいいくらいでしょう。思い立ってすぐに行動するのはなんとも彼女らしいと思いませんか」
 そりゃそうかもしれんがな。突飛な行動をいちいち咎めてたらキリがないってことくらいは承知してるのだが、やっぱりちょっと突飛すぎやしないかとも思う。
 それより気になることがある。
「……お前は最初、ハルヒから『明らかに人知を越えた力がハルヒから放たれたことは解ってる』と言ったよな」
「ええ、よく覚えていらっしゃいますね」
 あんなトンデモ話、忘れたくても忘れられねえよ。
「つまりお前か、それとも『機関』の誰かはしらんが、ハルヒがあの妙な力を使ったときは解るってことか?」
「ある程度は解りますが、はっきりとどのように使われたかが解るわけではありません。結局のところ、結果を見て判断するしかないのです」
「それでも一応聞くがな、俺はどうなんだ?」
「どう、とは」
「あいつは俺にどの程度影響を及ぼしてるんだ? 自分ではわからんが、間違いなくあいつは俺に何かしやがったと思うんだが」
 俺の台詞に古泉はおもしろそうに目を細めた。
「どういうことですか」
 何となくおもしろがっているような顔を見ていると説明したくなくなるんだが仕方がない。ハルヒの能力に対抗するのに、俺一人では無力すぎるってことだ。
 結局、俺は自分の気持ちの変化を出来るだけオブラートに包みつつ、古泉に話すことになった。畜生、出来ればこいつには言いたくなかったんだが。
「なるほど」
 聞き終えた古泉はますますおもしろそうな笑顔を作った。
「あなたが涼宮さんを受け入れるということは、涼宮さんがあなたに何らかの力を及ぼしているに違いない、そうおっしゃるのですね」
「さっきからそう言っているだろうが」
 古泉はまたこらえきれずに少しだけ漏れてしまったというような笑い声を上げたが、俺がにらむとすぐにやめた。
「いや、申し訳ありません。先ほど申し上げたように、涼宮さんがどのようにその能力をふるうのか、そこは解っているわけではありませんが、」
 言葉を切って意味ありげな笑みで俺に顔を近づけた。なんの真似だ、気持ち悪い。

「涼宮さんは、あなたにはなんの影響も及ぼしていない、僕はそう考えます」

 な、なんだってー!?


「どういうことだ?」
 思わず聞き返す。俺はハルヒの能力に何の影響も受けていないのか?
「ええ、その通りです」
 微笑みをいつも通りのものに戻して、古泉は首を縦に振った。
「それはお前個人の意見か? それとも超能力者としての意見なのか?」
「両方ですね」
 嫌な意見をさらりと言ってのけてくれる。古泉個人の意見だと言うなら、俺だってそんなのはこいつの勝手な憶測だと捨て置くことも出来たというのに。
「つまり、涼宮さんの状態を何となく関知できる僕は、その能力が貴方に対して使われていないのではと漠然と感じていますし」
 ただしこれは本当に漠然としたもので確証はありません、と古泉は付け足した。
「──それに、僕個人としても、涼宮さんが貴方の感情まで支配するとは考えにくいということです」
「だが現に俺は……」
「涼宮さんがああ見えて常識的な部分をお持ちなのはお解りでしょう。彼女は、ある程度無意識に自分の都合のいいように改変してしまうことは確かにありますが、人の心まで無理矢理支配しようとはしませんよ」
「その割には結構人に無茶を強いてるじゃないか」
「実際のところ、彼女がその力を発揮して人に何かを具体的にさせたということはないはずです。長門さん、朝比奈さん、そして僕を集めたときですら、人選そのものは彼女の能力でしょうが、SOS団に入ることを決めたのは僕たち自身の意志です」
 その意志ってのがすでに個人の意志じゃない気がするんだが。
「各組織の思惑はありますが、そこは涼宮さんが関知しうる部分ではないでしょう」
 古泉は思いがけず破顔した。
「涼宮さんは人の心に柵を建てるようなことはしない、それは貴方が一番よくお解りなのではないのですか」
 俺は何も答えられなかった。

「おっそーい! どこに行ってたのよ!」
 古泉と連れだって文芸部室に行くと、すでに来ていたハルヒの罵声で迎えられた。
「申し訳ありません。コーヒーを買いに行ったところ彼と遭遇しまして、少し話し込んでしまったものですから」
 下手な嘘をつくよりいいと思ったのか、古泉がさらりと理由を話すとハルヒは興味を失ったらしい。
「ふうん? まあそれならいいわ」
 あっさり追求を止めて団長席に座り直した。
 そんなハルヒを何となく見つめていると、ふと目が合う。
「なによ」
「いや、別に」
 先ほど古泉に言われたことを考えて……なあ、お前は本当に俺に何もしていないのか?
 こうして見ているだけで満足してしまうような、それでいて何故か触れたくなるような感情は、俺自身のものだと言うのか?
 そんな気持ちをもてあましながら、何となくイライラした気分で放課後をやり過ごしたのだった。


 自分がどうなっているのか、どうしたいのかも解らなくなったまま迎えた翌日。
 俺はどうしても、長門に確認したかった。
 古泉が言ったことを疑っているわけではない。でも、やはり確証が欲しかった。

 翌日を待ったのは、ハルヒが掃除当番で俺の方が早く部室に行けることが解っていたからで、HRが終わるや否や先に行っているとハルヒに告げて教室を飛び出した。長門は間違いなくすでに部室で本を読んでいるに違いない。
 部室に到着、一応ノックはしたが返事がないのでドアを開ける。予想通り、長門はそこにいた。
「長門、聞きたいことがあるんだが」
 そこで初めて読んでいた本から顔を上げて俺を見た。
「ここ数日、ハルヒは何らかの能力の発動というべきか、いわゆる情報操作みたいなことをやっているよな」
 首肯。
「それは、俺に対してもやっているのか? 俺は、あいつに何らかの操作を受けているのか?」
 それに対して俺はどういう答えを期待していたのか。俺自身のせいじゃない、と逃げたかったのか、それとも……。
 古泉との会話である程度予想はしていたが、長門はわずかに首を横に振った。
 部室のドアが開いてギクリとしたが、入ってきたのは部室に清涼感を与えてくれるエンジェル、朝比奈さんであった。
「こんにちは」
「どうも」
 軽く挨拶をして、着替えるのなら出なければと思いつつ、最後にもう一度確認する。
「俺に対する情報操作は無し、か」
「そう」
 それだけを言って、長門は再び本の世界へと旅立ってしまった。
「あの、キョンくん……」
「なんでしょう?」
 朝比奈さんが着替える間、外で待とうとドアに向かったってのに呼び止められる。
「キョンくんは、涼宮さんと一緒に暮らすのは嫌ですか?」
 少し不安そうな、捨てられた子犬のような目で見上げながらそう尋ねてくる。そんな顔をされたら思わず抱きしめそうになっちまうじゃないですか。
「あ、嫌というわけじゃないんですが……」
 嫌じゃない、なんてこの間から何度も感じているわけで、今更嫌だという気はない。ただし。
「ただ、こんな風に流されたくないんです」
 普段流されっぱなしの俺が言うのも変だけどな。
「でも、涼宮さんは……」
「いや、ここまでされてあいつの気持ちが分からないほどバカじゃないつもりですよ」
 そう、古泉相手にもつい誤魔化しかけたが、さすがにあいつが何をしたいのかははっきり解っている。だけど、俺はこういうことまで流されるのは嫌なんだ。
「大丈夫です。何とかしますから」
 俺がそう言うと、朝比奈さんはにっこりとほほえんだ。うん、目の保養になるな。

 さて、なんだか不本意なような、すっきりしたような変な気分だが、どうやら俺がハルヒの能力であいつに惹かれていると思っていたのは完全なる勘違いであったわけだ。
 いや、俺自身、実は気付いてはいたんだ。
 ただ、認めたくなくて、あいつの能力のせいにして逃げていた。
 だが、もう逃げるわけにはいかない。

 だけどな、ハルヒ。こんな風にお前のお膳立てに流されて一緒に暮らすなんて、やっぱり俺は嫌なんだよ。


 やがて破裂音と間違えそうな音が鼓膜を揺さぶり、それはドアが開かれた音だと認識すると同時にハルヒが大声で挨拶しながら入ってきた。お前はドアに火薬でもしこんでいたのか。
「遅くなってごめーん! まったく、掃除なんかちゃっちゃと終わらせればいいのに!」
 そう言うハルヒは別に掃除をさぼっているわけではなく、こいつは本当に何でもこなすのが早いのだ。ハルヒが数人いれば掃除なんかマジであっという間に終わりそうだな、と一瞬考えたが、数人いるハルヒの姦しさを想像しただけでげんなりしそうだったので、そんな幻想は頭から振り払った。
 確かに無駄に元気なのが取り柄だけどな、ハルヒは一人いればそれでいい、そうだろ?

 そうして過ごした時間は、昨日もそうだったがいつもと何ら代わりはない。ハルヒが俺と暮らしていること自体に誰もツッコミを入れないし、まるでそれが当たり前だと思っているかのようだが、それはここにいるメンツがあまりにも非日常慣れしてしまったからなのか、それともハルヒがそう言う常識を含めて世界を改変してしまったのか、さっき長門にそこんとこも確認しておけば良かったな。

 やがて長門が本をパタンと閉じる小さな音が下校時間を告げ、三々五々と校門を出る北高生に混じって俺たちも学校を出た。
 光陽園駅まではいつもの通り、そこで解散した後、俺の自転車に乗るというハルヒを引き留めた。
「なによ」
「ちょっと話さないか」
「帰り道で話せばいいじゃない」
「いや、ちょっと込み入った話になるかもしれないんでな。家に帰ると妹に邪魔されるから、今話したい」
 ハルヒは自分のだと思って持って帰ったつもりが他人の鞄だったというような、どうしていいのか解らないという表情を浮かべたが、おとなしく俺についてきた。
「で、話ってなに?」
「今の状況の話だ」
「なによ、今の状況って」
「だからお前が俺の部屋に居着いてるって状況だよ」
「あんたはいいっていったわよね」
 俺がなにを言い出すか不安なのか、先回りするハルヒを俺はしばし見つめた。少し怒ったような表情で俺を睨んでいる、その瞳の輝きに吸い込まれそうになる。
 ああそうか、俺は最初からこの瞳にやられてたんだ。ハルヒの能力とかそんなの関係なく、最初から単なる一人の女の子としてこいつに惹かれてたんだ。
 それを認めたくなかった。自覚したくなかった。誰かの掌でいいように踊らされているようで、シャクに障る。いろんな意味で変人のハルヒを好きだってこと自体が何となく気恥ずかしくもある。
 だから、今回自覚してしまった気持ちを、ハルヒの能力のせいにして逃げていた。
 だが、それも出来なくなっちまった。
 さて、どうケリをつけよう?

「率直に言う。お前は家に帰れ」
「なんで!? ……っ」
 言われたことに対して反射的に反論しようとしたが、上手く言葉が出なかったのかそのまま唇をかんだ。
「まあ聞け」
 睨む視線だけで返事をするハルヒに、俺は少し言葉を考えてから話し始めれば良かった、と後悔していた。内容は決まっていても、言葉選びが難しい。
「お前は結婚について具体的に考えたことあるのか?」
「ないわよ」
 即答かよ。
「そんなのやってみなきゃ解らないじゃないの! 考えてから行動してたら寿命がいくらあっても足らないわ!」
 やっぱり考え無しの行動か。いや、お前は考えて行動しても厄介なんだけどな。
「そうは言うがな」
 さてどうやって説得しよう。
「結婚するってことは、今までの親との家族関係から離れて新たな家族を作るってことだろ」
「それくらいは解ってるわよ」
「ちゃんと家族になろうと思うなら、やっぱり考えなきゃならんことがたくさんあるはずなんだ。親に頼ってばかりじゃいられないだろうし、収入は必要だろ?」
「そんなの何とかなるわよ」
 ハルヒはとりあえず行動を起こせば後のことはそのとき考えればいいと言うのが基本らしいと常々思っていたが、やはりここでもその考えが適用されてるようだ。まったく、このまま行くと俺は一生そのフォローに走り回ることになりそうだぜ。
 いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。
「家族を作るってことは、家庭を営むとも言うよな。そこはただ人間がいる場所じゃなくて、ちゃんとそれぞれの役割とか責任とか、生じてくるもんだと思う」
 俺の言葉にハルヒは首をかしげた。
「あたしは団長の座を譲る気はないわよ」
「それじゃ家族じゃなくてSOS団のままでいいじゃねえか」
「それはそうだけど……」
 情けないが立場が大きく変わるとも思えんがな。
「とにかく、今の俺にはまだそう言う責任を負えるとはとても思えない。だから……」
 いったん言葉を切ったのは、これから言う内容が言葉として出てこないからだ。出てきたとしても、俺らしくないセリフでもあるしな。
「結婚の話は白紙に戻してくれ」
「嫌よ」
 また即答。
「頼む」
「なんで? あたしはあんたと一緒にいたいから……」
「わかってる」
「わかってない! 全然わかってない!」
 ハルヒはだんだん頭に血が上ってきた。くそ、上手く言えない自分が歯がゆい。何て言えばいいのか誰か教えてくれ。

 ……ああそうか、まだ俺は自分の気持ちをこいつに伝えてなかったよな。それを伝えないで、結果だけ急ごうとしたから怒らせちまったのか。
 伝えなければ、そう思った瞬間、身体が先に動いていた。

 俺は、ハルヒを抱きしめていた。

「……キョン?」
 一瞬で怒りを静めてくれたらしいハルヒの、驚いた声。いつものパワフルな行動からは考えられないくらい華奢な身体は、すっぽりと腕の中に収まった。
「俺だってお前と一緒にいたい」
 ハルヒは俺を殴りも押しのけもせず、すっかり黙ってしまっている。
「だけど、それは今だけじゃなくて、これから先ずっと一緒にいたいんだ。だから、こんな風に流されるみたいに一緒に暮らすんじゃなくて、ちゃんと地に足をつけて家族になりたい」
「……」
 ハルヒはなにも言わない。驚いているのか再び怒っているのか、表情が見えないので判断しかねる。だが、今は腕を緩める気になれないな。
「ちゃんと高校も卒業して、出来れば大学も卒業したら、今度は俺から言いたい。だから、今回はいったん白紙に戻してくれ」
 ハルヒはわずかに身じろぎした。抵抗のつもりか、それとも別の理由なのか。
 心のどこかで、やはり今のままでもいいんじゃないのか、このままハルヒが俺の部屋に居ることの方が俺にとっても都合がいいんじゃないのか、なんてことも考えちまっている。
 だけど、やっぱり今すぐって言うのは俺たちには早すぎると思うんだ。きっと、まだ学ばなければならないことも、経験しなければならないこともたくさんある。
 でもきっと、過ぎてみればあっという間だろう。それまでお前はSOS団の団長として、俺はせいぜい雑用として色々楽しむのもいいんじゃねえのか?
 そして、ときが来れば、
「絶対に、迎えに行く」
 だから、もう少しお前は自分の今の家族を大事にしてくれよ。
 
 いまだに沈黙を続けるハルヒに少々不安を感じて、俺はようやく腕を緩めた。解放されたハルヒはやはり黙っていたが、やがてぽつりとつぶやいた。

「……待ってるからね」

 その言葉と同時に顔に浮かべた微笑を目にして思わず唇を重ねてしまったのは、結局俺の方が堪え性がないってことなのかね。
 まあいいさ、先払いってことでツケておいてくれよな、ハルヒ。




 その後のことを少し話そう。

 ハルヒはその日のうちに荷物をまとめて家に帰ってしまった。少し寂しく思うが俺から言い出したことだ、仕方がない。まあいいさ、きっと今我慢すれば欲しいものは手に入るに違いない。

 俺とハルヒの関係が大きく変わったかというと、そうでもない……と思う。別にあらためて付き合ったりしちゃいないのだから、結局クラスメイトで団長と団員その一でしかないのだろう。
 俺がそれでいいのかと問われれば、
「恋愛なんて精神病じゃない。そんなのにかまけている暇はないのよ!」
 とハルヒが言うのだから仕方がないだろうとしか答えようがない。


 でもな、ハルヒ。
 学校帰りの帰り際に毎日キスをせがんだり、休日に呼び出して映画を見に行ったりするのは、普通付き合ってるって言わないか? おい。

「『普通』なんて興味はないの!」

 まあお前がそう言うなら俺は別に構わないけどな。
 しかし、最近古泉と朝比奈さんの視線がやたら生暖かいことも、長門の視線が昔より冷たいような気がするのも、我慢するしかないか。

 ……やれやれ。


  おしまい。