四つ葉のクローバーは幸せを運ぶのか
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「ふえぇ、なかなか見つかりませぇん」
「まだ探し始めてから15分しか経ってないじゃないの! 諦めるには早すぎるわよ!」
「おい、だいたいここにあるかどうかも分からないんじゃないのか?」
「そんなの、それこそ探してみなきゃ分からないでしょ!」
「発生確率は1/10000とも言われてますからね。すぐには見つからないでしょう」
「……」
 こんな会話をしながらなにをしているのかというと、この年になって恥ずかしながら、「四つ葉のクローバー」なるものを探しているのだ。高校生になってまでなにをやってるんだとお思いだろうが、言われなくても俺が一番そう思ってるので勘弁願いたい。

 ことの発端は、朝比奈さんの一言であった。
 今日の探索の班分けは古泉と長門、ハルヒと朝比奈さんと俺、という喜んでいいのやらため息をついていいのやら分からない取り合わせだった。このメンバーだとハルヒが先導するのが当たり前で、早足のハルヒに後れを取る朝比奈さんをなんとか気遣いながらやってきたのは、いつぞや朝比奈さんが自分の正体を暴露したり、亀を川に放り込んだりした河川敷公園であった。
 かなり寒くなってきたにもかかわらず群生している足下のクローバーを見て、麗しのエンジェルは小首をかしげながらこう言ったのである。
「そう言えば、四つ葉のクローバーって幸せを運ぶって言われてますよねぇ」
 言ったあとに微笑みのサービスまでつけてくださるのは非常に結構だ。しかし、その言葉を聞いたハルヒの反応は結構どころの騒ぎではなかった。
「そうだわ! 四つ葉のクローバー探しましょう!」
「なんでいきなりそうなる!」
「そうね、だったら有希と古泉くんも呼んで競争よ! 誰が一番たくさん見つけられるか、ね!」
 人の話を聞け! と言う俺のツッコミも空しく、さっさと携帯を取り出すと長門と古泉を呼び出したのであった。
 そうして突如、思いつきという以外は理由らしい理由もまったく見あたらないまま、第一回SOS団四つ葉のクローバー探し大会が開催される運びとなったのである。

 そして冒頭に戻る……と言うよりは、もう少し時間は経過しており、探し始めてから1時間が経過していた。いい年した高校生が地面にかがみ込んでいる姿は、きっとコンタクトでも落としたと思われているに違いないが、それにしても異様だ。朝比奈さんはもちろん真剣な面持ちで地面に這うように群生しているクローバーをかき分けており、先ほどかわいらしい声で上げた歓声から察するに、どうやら一つは見つけたようだ。古泉もそこはハルヒの命令だ、当然まじめに探しており、ゲームは弱いくせに運がいいのかやはり一つは手にしていた。長門は探しているのかただ突っ立っているだけなのか分からないが、時折屈み込んではそっと摘み取っているところを見ると、ちゃんと見つけているのだろう。というか、長門はこの辺りにある四つ葉のクローバーなんて瞬時にサーチしてしまってるんじゃないだろうか。
 俺はというと、まだ一つも見つかっていない。だいたい四つ葉のクローバーで幸せになれるなんて信じちゃいないのだから、まじめに探す気にもなれない。そして団長様といえば、さきほどまで、
「もう、なんでこれだけ探してるのに見つからないのよ!」
 と目に見えて機嫌が悪くなり、古泉に冷や汗を流させるに十分だったのだが、どうやら何か発見したらしい。
「ちょっと見てよこれ! 四つ葉どころじゃないわよ!」
 さっきまでの不機嫌を一気にどこかへと追いやって得意満面で差し出したクローバーを見ると……


(#重なって見づらくてすみません)

「こりゃまた珍しいな」
「1,2,……7枚ですか、凄いですね」
「すごいです」
「通常、四小葉以外では三の倍数になることが多い。七小葉は稀少」
「そうでしょ、凄いわよね! さすがあたしだわ。四つ葉の1.75倍は御利益があるはずよ!」
 いや、単純に葉の数で考えるより、稀少性を考慮した方がいいんじゃないのか?
「三小葉と四小葉の発生比は約1/10000。通常、三の倍数を除いて葉の数が増えるほど発生率は減少する。実際に七小葉が発生する確率を四小葉の場合と比較すると……」
「いや、すまん長門、具体的に計算しなくてもいいからな」
「……そう」
 だいたい計算したところで御利益なるものがあるとも思えないんだが、まあハルヒの機嫌が良くなったってだけでも十分か。
「じゃ、クローバー探しはここまで! 結果発表するわよ!」
 って待て、自分が見つけたらさっさと終了かよ!
「なによ、文句あるわけ」
 いや、俺はまだ一つも見つけちゃいないわけで……
「いる?」
 長門が、自分が摘んだクローバーを差し出してきた。
「いや、それは……」
「こらバカキョン! あんた自分が取れなかったからって有希のを奪おうとするの!?」
 おい、俺は断ろうとしたんだ、何勝手に決めつけてるんだよ。そんな目でにらむな、怖いから。
「ふん、どうかしらね」
 なんでそんなに気にするんだよ。
「別に」
 そーかい。

 さて、結果だが、皆様ご想像通り長門が一人で八本も見つけ出して見事に優勝だった。朝比奈さんと古泉とハルヒは仲良く一本ずつ、俺は一人ボウズだ。
「あんたまじめに探してなかったんでしょ! 罰ゲームだからね、お昼奢りなさい! もうお腹ぺこぺこだわ!」
 朝の喫茶店に続いて昼も奢りかよ、と思ったが、冬晴れの空よりも明るいハルヒの笑顔の前ではなぜか反論もできなくなる。この笑顔も四つ葉ならぬ七つ葉のクローバーが運んできたものなのかね。だとしたら、多少は御利益があるのかもしれないな。


 さて、その数日後。
 あのとき摘んだ四つ葉あるいは七つ葉のクローバーは、長門の本に挟まれてハルヒが持って帰ってしまい、俺もその存在を忘れかけていたのだが、ハルヒは例の七つ葉を使って栞を作成したらしい。どういう風の吹き回しか、その栞を自分のものとしないで長門に手渡したのを見て俺は少し驚いた。発見にあれだけ喜んでいたしある意味不思議なものでもあるのだから、当然自分のものにすると思っていたからだ。
「何言ってんのよ、これは優勝賞品よ! 当然有希が優勝じゃない!」
「四小葉を八本発見するより、七小葉を一本発見する方が確率は遙かに低い。それは、あなたのもの」
 長門は遠慮したのか、それとも単に確率論から勝者を決めるべきだと思ったのか。どちらかは分からないが、ハルヒにはその理屈は通用しない。
「何言ってるのよ! だいたい栞なんて本を読む人が使うものでしょ。これは有希が使うべきよ」
 すでに優勝賞品とは関係なくなっている気がしないでもないな。
 長門は少し迷ったように栞とハルヒをながめ、なぜか俺に視線を移した。
「もらっとけよ。栞使うんだろ?」
 長門なら読んだページを完璧に記憶しているかもしれないが、それにしては部室にある本には栞が挟まっているので、使うのは好きなのかも知れない。
「そう」
 短い返事をすると、長門はようやくその栞を受け取った。
「……ありがとう」
 ハルヒを写している黒い瞳が少しほほえんだように見えたのは、きっと気のせいじゃないよな。

「何ニヤニヤ笑ってるのよ」
「いや、別に」
 俺にもよく分からんが、二人のやりとりを見ていると何となくいい気分になったのは認めよう。
 こんな気分になれるんなら、四つ葉だか七つ葉だかのクローバーは、確かに幸せを運んでくることもあるかもな。
 少し拗ねたような顔をしているハルヒを眺めながら、俺はそんなことを考えていた。


  おしまい。



長門の説明、三の倍数を除いて云々は、四つ葉や五つ葉程度なら当てはまらないようです。
ギネスに載っている18葉、同じ人が発見した21葉や27葉など、アホみたいに多い場合は三の倍数になるようです。
が、そこまで説明させるとくどいのでシカト。