犯人は……
ミニSS・小ネタ | 編集

糖度0注意。

 その日、俺が慌てて部室まで駆けていくと、すでに俺以外の全員がそろっていた。しかし誰一人として定位置につかず、床の上にある何かを囲むようにして立ちつくしていたのだが、俺がドアを開けた瞬間に一斉に視線を俺に向けた。
 な、なんだ? なんでみんなそんなに真剣な顔をしてるんだ。
 床の上でSOS団の団員に囲まれているのは、いつも俺が使っている湯飲みだが、割れてしまったそれが一応片付けたのだろう、破片を重ねた状態で置かれていた。
「いや、その湯飲みは……」
「あ、あの……あたしが来たときにはすでに割れた状態で……」
 俺の発言が終わる前に、まだ着替えていない朝比奈さんがおろおろしながら、それでも申し訳なさそうな顔をして仰る。もちろん朝比奈さんのせいだとは思っていませんよ。どうやらドジッ娘属性に日々磨きを掛けていらっしゃるようにも見えるが、もしご自身で割ったのならこの方は正直に仰るに違いない。
「でも最初に来たのはみくるちゃんでしょ?」
 ハルヒがジト目で朝比奈さんを睨み、「ふええ」と高い声で怯えるさまを披露してくれるのはいいとして、とりあえずむやみに人を疑うのはよせ、ハルヒ。
「で、でも、あたしが来たときはすでにドアの鍵が開いていて……」
「ってことは、すでにこの部室に誰かが来ていたってこと!?」
 ハルヒの瞳がきらりと輝いて、俺はなぜかイヤな予感に襲われた。本気で探偵のまねごとでもする気か?
「そういうことになりますね」
 余裕のスマイルを浮かべる古泉が後に続く。
「有希はいつも早いのに、珍しく遅かったじゃないの。どこにいたの?」
「……コンピ研」
「うん、コンピ研の連中に聞けばアリバイはわかるわよね。嘘ついてもすぐバレるわけだし」
 顎に指を当てて考えながら言う様子は、完全に探偵になりきっている。湯飲み破壊犯人捜しってのもなんか情けないが。というか、そんな犯人捜しする意味なんかまったくないだろ! おい!
「古泉くんはどうして遅かったの?」
「もちろん出来るだけ早くこちらに参ろうと努力はしているのですが」
 にこやかにおべんちゃらを言うのは相変わらずだ。
「残念ながらHRが長引きまして。9組の誰に聞いてくださっても同じことを言いますから、僕のアリバイも成立、というわけです」
 お前はお前で楽しんでやがるな、この野郎。
「ふうん。それも誤魔化がきかない完璧なアリバイね。でも、完璧なアリバイというのは疑わしいものだわ」
 いや、HRを抜けていたら誰かが気づくだろうし、工作するようなアリバイじゃねえだろ。それ以前に、だからこんな探偵のまねごとする必要がどこにある。
「で、あんたは? キョン。掃除当番のあたしより早く出た癖に、なんで最後に来るのよ。アヤシイわね」
「アヤシイもなにも、そもそも俺はだな……」
「わかったわ! みくるちゃんに罪をなすりつけておいて、あんたが犯人なんでしょ!」
「いや、だから……」
「そうだわ、湯飲みを割ってしまったから慌てて部室を飛び出して、誰か来てから最後にやってくる。第一発見者が疑われるのをわかっての犯行なんだわ」
 なぜか得意げに胸を張って俺を指さすハルヒを見て、俺はため息を吐くしかない。とりあえず、俺にも少しはしゃべらせろ。
「でもね。古いわよ、犯人の常套手段だわ! だから犯人はキョン!」
「あのな、ハルヒ」
 俺は手にしていた古新聞でハルヒの頭を軽く叩いた。
「なにすんのよ」
「俺はその湯飲みを片付けるために、なんか包むものを調達しに行ってたんだよ。別に誰かに濡れ衣を着せようと思ってたわけじゃない」
 そう、最初に部室に来た俺は、喉が渇いていたのでとりあえず何かを飲もうと手にした湯飲みを誤って落としてしまったのだった。片付けるにも、直接ビニール袋に入れたって袋が破れるだろうからと、古新聞を探しに行っていただけだ。
「あ、ちょっと! もうちょっと引っ張れると思ったのに、なんで自白しちゃうのよ。ここは誤魔化して、探偵が真犯人を追いつめるって一番盛り上がるシーンじゃないの! わかってないわね!」
 知るか。それより、その湯飲み片付けさせてくれ。
「何よ、つまんない」
「つまらんとか言いながら、お前最初からわかってたんだろうが」
 わかっていて探偵ごっこを始めるのは暇なんだか平和なんだか、まあ機嫌は良さそうだからいいとするか。
「そりゃそうでしょ! こんなことを誤魔化す人間が、あたしの団にいるわけないじゃないの!」
 そう言って100Wの笑顔を咲かせるハルヒを見て、まあこんな遊びに付き合うのもいいかと思ってしまうのも、すでに当たり前になっているわけで。

 長門は定位置で読書をはじめ、着替えた朝比奈さんはとりあえず来客用の湯飲みでお茶を入れてくれる。俺は古泉相手にチェスの白星を順調に増やし、ハルヒはご機嫌に鼻歌を歌いながらまたパソコンの前でなにやら怪しいサイトを調べているのだろう。

 ともあれ、今日も平和だ。


  おしまい。