キョンがハルヒを脱がすSS 4th Sequence ~脱げない!~
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このネタも猪様提供ですが、原型とどめてなくてスンマセン。

 おかしい。
 その日、違和感や既視感に悩まされながら1日を過ごし、妙な気分で迎えた放課後にあったオセロ大会に至って俺は確信した。
 絶対におかしい。
優勝者は1日団長の権利とハルヒが言い出すことも何故か予想出来たし、優勝したのは長門ってところまで前に経験したような気がする。
 しかしそれ以外に何かあったような……? という記憶を捕まえようとしたが、川に落としたインクのように拡散してしまった。

 とにかくその日はSOS団のオセロ大会であり、勝者は長門であった。1日団長の権利という、だからなんだと言いたくなるような副賞を得たのであるが、長門はいつも通りの無表情で嬉しそうに『団長』と書かれた腕章を腕につけるハルヒにされるがままになっている。つけられた腕章に一瞬目をやり、窓際の定位置に戻って読みかけの本を広げてしまったのを見ると、長門にとっては団長の権利より読書を続けることの方が重要らしいな。

 長門が団長だと静かでいいな、と思ったのだが、ハルヒがそれで許すわけもない。
「ちょっと有希、せっかく団長なんだからもっと何か命令しなさいよ!」
 おい、そう言うお前は団長じゃないんだから長門に命令するなよ。
「だって、せっかく団長の権利をあげたのに何もないなんて面白くないじゃない!」
 やっぱりお前は自分がおもしろがるために1日団長なんてものを設定しやがったのか。長門が団長なんだから、長門の好きにさせればいいだろ。
 そんな俺たちのやりとりを、長門は小首をかしげて眺めていた。まあ、こいつはいつも自分から積極的に何かをするなんてことがなかったから、たまには何かするのも悪くはないかもしれない。いつも黙ってハルヒの監視やSOS団のフォローをするだけじゃ、またエラーだかストレスだかわからんが、溜まるかもしれないしな。
「なあ長門」
 雨の夜のような瞳で見つめ返す長門。
「もし何かして欲しいことがあったら遠慮なく命令してくれよ」
 いや、団長だからというわけじゃなく、長門の頼みならたいていのことは聞いてやりたいと思っている。これはいい機会かもしれないな。
 長門はわずかにうなずくと、まず朝比奈さんに視線を移した。
「朝比奈みくる、お茶を」
「ふぇ? は、はい、今すぐ淹れますね」
 朝比奈さんがお茶を淹れるのはいつものことだが、長門が淹れてくれと頼んだのは俺が知る限りこれが初めてだ。こいつは何も言わないけれど、朝比奈さんのお茶を気に入っているのかもしれない。
 朝比奈さんがお茶の用意を始めたのを見て、次に相変わらずのスマイル仮面を貼り付けている古泉に顔を向けた。
「古泉一樹」
「はい、なんでしょう」
「光陽園駅前まで行って、ツ○ガリのシュークリーム『名物つるややま』を人数分購入してきて」
「は、はい、かしこまりました」
 古泉、笑顔が引きつってるぞ。てか、駅前のケーキ屋にそんな名前のシュークリームがあるのか、知らなかった。
「ちょっと有希、そういうのはキョンにやらせなさいよ!」
「わたしは古泉一樹に頼みたい」
「僕は構いませんよ」
 いつの間にか引きつった笑顔を元の爽やかスマイルに戻した古泉は、そう言って請け合うと「では」と片手をあげて部室を後にした。この炎天下の中、ハイキングコースを余分に往復するなんて冗談じゃないからな、古泉に行ってもらえて助かったぜ。
 朝比奈さんにお茶を淹れてもらい、古泉を買い物に行かせた長門は、今度はハルヒに目を据えた。
「涼宮ハルヒ」
 空気に波など立てていないような声でハルヒに声をかける。
「な、なに?」
 何となくギクリとしているようなハルヒ。いったい何を言われるのかと期待半分、残りの半分はなんだろうね? 何となく解らないでもない。いつもおとなしい長門があっさり古泉を使いに出したのだ、思いもよらないことを言い出すかも知れない。
「コスプレ」
 本当に鼓膜が振動したのかと思うほど記憶に残りにくい声のくせに、言ったことは意外すぎて頭に嫌でもこびりつくような内容だ。
 しかし、コスプレだって? まあ、ハルヒはバニーだのチアだのチャイナだの、今までもコスプレはしてきたのだが、まさか長門がそれを強要するとはね。実は内心で楽しんでいたのか?
「コスプレ?」
 ハルヒも意表をつかれたらしく、きょとんとした顔で長門を眺めている。長門はハルヒのオウム返しに頷くと、朝比奈さんの衣装が置いてある辺りを指さした。
 その指が示す方向を追って、俺とハルヒは振り返った。
「……」
「……」
 声は出ないが、おそらく三点リーダがハモったのは間違いない。
 それに長門の三点リーダも加わって三重奏になっても、ハルヒは口を開かなかった。
「かえるさんですかぁ?」
 部室の沈黙を破ったのは、朝比奈さんのクエスチョンマークを内包した声だった。
 そう、長門が指さしたのは、去年の夏休みにハルヒが斡旋したアルバイトで、その賃金を俺たちによこさない代わりに戦利品として得たカエルの着ぐるみであった。
「え、えと、これを着るの? あたしが?」
 戸惑うハルヒの声に無言で頷く長門。
「え、でも、これみくるちゃんのだし」
「あなたが着て」
「みくるちゃんの方が似合うわよ」
「あなたが着た姿を見たい」
「……」
 まったく平坦な声でハルヒを言い負かすとは、さすが長門である。
「わ、わかったわよ、着ればいいんでしょ!」
 そういやこれを手に入れたとき、俺たちは汗だくになって着ぐるみを着ていたというのに、ハルヒは冷房の効いた店内でアイスを食っていたんだっけな。着ぐるみを着ていないから、長門はハルヒが着ているところを見たかったのかもしれない。
 意外とお茶目な一面もあるのか?
 などと考えていると、ハルヒが俺の耳たぶを掴んで直接脳に送り込むような怒鳴り声をあげた。
「このエロキョン! 人が着替えるってのにいつまでそこにいる気よ!」
 そいつはすまん、ちょっと考え事をしていたんでな。
 今更、昔は男がいても平気で着替えてたじゃねえかよ、なんて反論する気はない。それよりそんな耳元で怒鳴るな、耳が痛いじゃねえか、とだけ反論すると、俺はさっさと廊下に避難した。
 しかし、カエルの着ぐるみねえ。せっかくコスプレするなら、スタイルのいいハルヒが着映えするような……って、俺はなにを考えているんだろうね。
 部室の中から声がかからんな、と思っていたら、いつかのように朝比奈さんがドアを開けてくれた。
「どうぞ」
 にこにこと笑っているのは、コスプレ仲間がいて嬉しいからであろうか。
 部室の中にはメイドとでかいアマガエルがいた。
 臨時団長はすでに読書に戻っており、おいおい、ハルヒにこの格好をさせたのは長門だろうとつっこみたくもなったが、すでに堪能した後なのか?
 そんなツッコミは心の中だけにしておいて、とりあえず朝比奈さんが淹れてくれたお茶をすすりながら椅子に腰を下ろした。この集まりがなんなのか解らないのは最初からだが、こうしてメイドとアマガエルを眺めてお茶を飲んでいると、ますますなんだか解らなくなってくる。
 そういや長門。それぞれに何か言いつけたようだが、俺には何かないのか?
 長門は本から顔を上げ、ゆっくりと瞬きをして言った。
「あなたは、雑用」
 って長門、お前もそれを言うか! なにも命令されなくて安心すればいいのか、結局雑用って立場に凹めばいいのか解らなくなってくる。しかし雑用っていつも通りにしてればいいのかね、それじゃあ古泉が戻ってきたらまたゲームでもするか、なんて思っていたところでようやく古泉が戻ってきた。
「おや、これは」
 カエル姿のハルヒを見て驚いたようだが、
「よくお似合いですね」
 って、さすがに太鼓持ちでもそれはないんじゃないのか? カエルの着ぐるみが似合うと言われて素直に喜ぶとも思えないぜ?

 長門お勧めのシュークリーム「つるややま」は確かに旨かった。
 カエルの着ぐるみで食べているハルヒは食べにくそうではあるが、食い物を目の前にするとそんなことものともせずに食べているのはさすがと言うべきだな。こいつはどういう状況になったって旨そうに食っているくらいでちょうどいい。
 古泉は気を遣ったのか予測したのか、長門の指定の倍、つまり一人二個のシュークリームを買ってきたが、当然のごとく全部なくなった。ついでに言うなら、朝比奈さんと古泉は一個ずつしか食べなかったとも付け加えておこう。
 そんないつもと少し違うのに結局なにがしたいのか解らない放課後も終わり、何事もなく下校時刻を迎える頃、先ほどあれほど感じていた既視感が今は全然ないことにふと思い至る。やっぱり気のせいかと首をかしげているとハルヒの冷たい声が耳に響いた。
「ちょっと、着替えるんだから早く出て行きなさいよ」
 ああすまん。
「先に帰るんじゃないわよ」
 最近全員で下校するのが当たり前になってるからな。俺も言われるまでもなく待つつもりだったし、古泉もそうだろう。
 廊下で女子の着替えを待つ間に、なにやら中が騒がしくなってきた。
「ちょっと、みくるちゃんなんとかしてよ!」
 というハルヒの焦った声や、
「ふえぇ、すみません、でも動かないです、これ……」
 という朝比奈さんの泣きの入った声が聞こえてきて、何事かといぶかしんで古泉と顔を見合わせる。しばらく中でなにやら騒いでいたようだが、やがてすでに制服に着替え終わった朝比奈さんが先ほどとうって変わった申し訳なさそうな表情でドアを開けた。
「あのう……」
 中を見ると、頭だけ外したハルヒがまだカエルの着ぐるみを着て座り込んでいる。何やってるんだ? 着替えるんじゃなかったのか?
「どうした?」
 俺の問いかけに、普段より一オクターブ低い声でハルヒは答えた。
「脱げない」
「は?」
「ファスナーが壊れたみたい。脱げないのよ、これ」
 俺は思わず長門を見た。こいつに頼めば一瞬で直りそうなものだが、無表情でハルヒを眺めているだけである。自分から手を出さないのもいつものことだし、今は危険ではないのだから仕方がないのかもしれないが、それとも他に理由があるのか? とにかく長門は何とかするつもりはないらしい。
 などと考えていると、長門がその無表情になにも浮かべないまま俺に一言。
「手伝って」
「は? なにを?」
「着替え」
「はあ?」
「着替え」
 わけのわからないという顔をしているだろう俺に二度同じことを言う長門団長。おい、いくら何でもそれはまずいだろ。一応ハルヒも女の子なんだし、男が手伝うってのはどうかと思うぜ。とは言え、朝比奈さんはおそらくすでに手伝ったのだろう、先ほど中で騒いでいたのはおそらくそれだ。そして上手く行かなかったってわけか。長門が手伝えば話は早そうなんだが……。
「あなたは雑用」
 ってそれが理由ですか長門さん!
「おやおや」
 雑用だからと言ってそれは無理! と否定する間もなく、古泉が口を挟んだ。
「それでは僕は退散した方がよさそうですね」
 おい、退散ってどういうことだ! お前の立場上この状況を何とかした方がいいんじゃないのか? という心の叫びが聞こえるわけもなく、何故かニヤニヤとした笑みを浮かべた古泉はそう言うと
「ではまた明日」
 などとあっさり別れを告げやがる。
「あ、じゃ、じゃああたしも帰りますね」
 申し訳なさそうな笑みを浮かべた朝比奈さんまで後に続く、っておい、長門! なに黙って『団長』の腕章を外してるんだ! なんで鞄を持って出て行くんだ?
「後は、任せる」
 任せるなあああ! ちょっと待てえええ!
 俺の叫びも空しく、3人ともさっさと部室を後にしてしまった。

 さて、どうする? 本当に手伝わなければならないのか? 俺が、着替えを?
 とりあえず、壊れたファスナーさえ何とかなれば大丈夫だろう。そう思っていたのだが、どうもこの団に関わってから、俺の思うように卸してくれる問屋は閉業してしまったらしい。ハルヒはどう思っているのか、先ほどから無口だ。と思ったが、それには理由があった。
「って、おい、ハルヒ?」
 カエルの着ぐるみのあまただけを外して座り込んでいるハルヒは、いつの間にかぐったりと椅子に頭を乗せて突っ伏していた。
「ハルヒ、大丈夫か?」
「……暑い」
 弱々しい声でそう言うだけで、動こうとしない。
 そういや今日も暑かった。この暑いのに放課後途中からずっと着ぐるみを着て、さっき朝比奈さんと脱げないなんて騒いでいたのがトドメになったのか。
「とりあえずなんか飲め」
 冷蔵庫を開けると誰のだか解らないが未開封のお茶があったので、とりあえず拝借してハルヒに渡した。
 さて、だからと言っていつまでも着ぐるみを着せておくわけにはいかない。一時的に水分補給をしても、また具合が悪くなってしまうだろう。
 ファスナーが壊れたと言ったな。俺はまだ椅子に体重を預けているハルヒの背中に回り、ファスナーをチェックする。
 なんだ。壊れたと言っていたが、布地が咬んだだけのようだ。これを壊れたと騒ぐのは朝比奈さんらしいけど、あの人ならしょっちゅうこんなことやってそうだから逆に気付きそうなものだけどな。
 俺は咬んでいる布を強く引っ張ってそれを外し、ファスナーが動くことを確認した。
「おい、ファスナーは直ったけど、自分で脱げるか?」
 さすがに俺が脱がすのは問題ありすぎるだろ、と思ったのだが。
「……気持ち悪い」
 おいおい、気持ち悪くても頼むから自分で着替えてくれよ。と思っても、ハルヒはお茶を飲んだきり動こうとしない。
 やっぱり、
 ここは、
 俺が脱がすしかないのか……?
「ハルヒ、気持ちが悪いならこれは脱いだ方がいいぞ」
「……うん」
 返事のみ。俺はいったいどうすりゃいいんだ? 誰か教えてくれ!
 とは言え、まさかこのままハルヒを放っておくことは出来ない。
 くそ、これは緊急事態だからな。悪く思うなよ、ハルヒ。
 俺は意を決して、背中のファスナーに手をかけた。
 おそるおそるファスナーを下ろしたが、やはりハルヒは動く気配がない。俺が思っているより具合が悪いのかもしれない。正直、この先は自分ですると言い出してくれないかと期待していたのだが、どうやらダメなようだ。
 思わず吐いたため息の理由なんか自分でも解らないが、とにかく深い息を吐いて、カエルの形をした分厚い皮からハルヒを脱皮させるべく、俺は作業を続けるしかなかった。
 着ぐるみの中は下着のみらしく、部分的にしか覆っていない布の他は肌が露出している。この暑いのにこんな分厚い着ぐるみを着ているのだから当然汗まみれで、オレンジの太陽と部室の蛍光灯に照らされて濡れ光っているのが妙に艶めかしい。
 俺はこみ上げてくる何か──それが何かを認識するのは非常に危うく思われた──と闘いながら、着ぐるみからハルヒの肩を外し、腕を抜く。
 細身なのに均整が取れている上半身が視界に入り、俺は出来る限り見ないように顔を背けながら、ハルヒに声をかけた。
「後は自分で出来るか?」
「……うん」
 らしくないほど小さな声での返事。それでも自分で後は出来ると言ったことに俺は少し安心する。暑いときに着ているものを脱ぐと、一気に体温が下がる気がして気持ちいいことがあるが、ハルヒもそんな感覚かもしれない。

「制服、取ってよ」
「あ、ああ」
 出来るだけさりげなく返事をしようと思ったが、無理なのはもう仕方がない。はっきり動揺しているのが自分でもわかる。
 朝比奈さんのコスプレ衣装が掛かっているラックから制服を取ると、振り返ってそれを渡そうとして、それまで出来るだけ見ないようにしていた半裸姿のハルヒを正面から視界に捉えてしまった。
 夕日を受けた白い肌はオレンジ色に染まり、ところどころに落とす濃い影が身体の均整を際だたせていて、ほんの数秒なのだが、俺は視線を外すことができなかった。
 俺の視線に戸惑ったのか、ハルヒは自分を抱くように両腕を抱え────そこで俺は我に返る。
 なにをまじまじと見てるんだよ!
 これじゃエロキョンとか言われても反論出来ないじゃないか!
「す、すまん!」
 いつかの谷口のようなひっくり返った声を出すと、俺は手にしていた制服を放り出し、傍に置いてあった鞄をひっ掴んで部室を飛び出した。
 ヤバイ、目を開けても閉じてもハルヒの半裸姿が脳裏にこびりついて離れない。
 それを振り払うかのように、でも振り払う気にもなれず、俺は闇雲に昇降口へと駆けていった。

 よく考えたら具合の悪いハルヒを放り出して来たのだから、これは仕方がないのかもしれない。
 靴を履き替え、下駄箱に上履きを入れようと屈んだ瞬間、それ自体覚えのある目眩が訪れて────
 やっぱり今日感じている既視感はお前の仕業なのか、ハルヒ────


 ────reboot.



また逃げたよキョン、ヘタレ過ぎだよ。