初詣
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 さて、まさか遭難まで経験するとは思わなかった冬合宿は無事とは言えないまま終わり、そのまま朝比奈さん、長門を伴って世界改変を戻すって行為の締めを行った翌日。
 正月なんて世界中で浮かれているようなイベントをハルヒが見逃すワケもなく、前日色々忙しかったにも関わらずまた俺はSOS団の連中と顔をつきあわせることになっていた。
 いつもだったら少しくらい休ませろよ、と文句の一つも言い出したくなる俺だが、今日はまあ、それも許せるって気になるね。
 なぜかって?
 SOS団3人娘はそれぞれ正月に相応しいこの国の伝統的衣装を身に纏っていたからである。
「これは、皆さん艶やかですね」
 いつもなら待ち合わせに来るのは俺が最後となるはずなのだが、最初から支度に時間がかかることを解っていたのだろう。今日に限って罰金制度を適用しないことを最初から宣言していたハルヒより先に俺と古泉は待ちぼうけを食わされていたのだが、3人が同時に登場したとたん、俺より先に褒め言葉を口にしやがったのもいつも通りってことか。
「見てよ、このみくるちゃんの可愛らしさったら! さすがあたしだわ、もう今すぐこの帯を解いてしまいたいくらいよ!」
 なにやら危ないセリフを口にしながら薄桃色を基調としたふわふわとした柄の朝比奈さんに抱きつくハルヒも、派手な赤地にやはり派手な花の模様がついている着物を見事に着こなしていて、藍と白の地に鶴かなにかの鳥やら花が描かれた着物を着ている長門も含めてこれは目にいい光景だとしか言いようがない。
 浴衣のときもそうだが、この格好で今の季節に町を歩いても何ら問題はないわけで、こういうコスプレなら朝比奈さんも苦にならないのか、それともコスプレ自体慣れてしまったのか、まんざらでも無いような顔をしていた。
「じゃあ、早速出発進行! 町中の神様に初詣してやるんだから、時間がないわよ!」
 初詣ってのはその年初めて神社に参拝することであってだな、例え新年早々でも二度目からは初詣とは言わないんだよ。
「そんなことどうでもいいのよ! その神社に行くのが新年初めてなら初詣でいいじゃないの! 神様だって他の神社に行ってから来たなんて思いもしないわよ!」
 いや、神様なんだから二番目三番目なんてことはお見通しじゃないのか?
 とにかく勝手に解釈を変更するのもいつものこと、どうやら今日は市内神社ツアーが決定したらしい。

 最初に行ったのは、福男行事なんかですっかり全国的に有名になってしまった、商売繁盛の神様の総本社だった。一年を十日で暮らすいい男ってのは関取のことらしいが、ここの神様も同じことが言えそうで、何とも羨ましい話だ。
 そして、全国的に有名なだけに、すでに一日ではないっていうのに初詣に来ている人間の数も凄い物だった。
 いったい、普段は何処にこれだけの人間を格納しているんだろうね。

「で、何でみんないなくなっちゃうわけ?」
 これだけ人が多い上に、ハルヒは他の人間に配慮せずに自分のペースで先に行こうとするのだから、はぐれるのも当たり前だと思うがな。朝比奈さんに配慮した古泉と長門が俺たちを見失ったのだろうか。長門なら、俺とハルヒの位置を正確に把握していそうな気もするのだが。
「何で携帯もつながらないのよ!」
 町中にもかかわらず、どういう訳か携帯も圏外なのである。使っている人間が多すぎてアンテナがパンクすることもあるらしいからな。この状態じゃ迷子で連絡とろうとする奴だらけなんじゃないか?
「仕方ないわ、お参りを済ませたら一旦神社の外に出て待ちましょう」
 少し不服そうな顔をしたが、さすがに気持ちを切り替えるのが早い。ここまできて参拝しないのも悔しいのだろう、三人を探すより先にお参りをすることに決めたハルヒは、いきなり俺の手首を掴んだ。
「なんだよ」
 別に手首を捕まれるなんていつものことだが、人が多いのでいつものように俺を引きずっていくわけでもないので少々驚いて訪ねる。
「別に。あんたまでいなくなったりしても困るから」
 なぜか顔を四五度ほど別の方に向けていうハルヒに、俺は戸惑った。なんだ? 一人になるのが不安だとか言うんじゃないだろうな。
 このハルヒが。
 別にいなくならねーよ、と言おうとしたが、何となく手首を握る手にこめられた力が黙ってろと言っているような気がして、俺は黙っていた。ハルヒがそうしていたいと言うなら、それでもいいだろう。
 ただ、俺もハルヒの手首を握り返す。
 ここまで来て、こいつが暴走しても困るからであってだな、別に他意はない。

 いつの間にか、握っているのがお互いの手首ではなく手になっているのも、単なる偶然で特に意味はない行為だ、そうだよな。 


「お疲れ様でした」
「すごい人でしたねぇ」
「……」
 参拝をすませて神社を出ると、いつの間にやら三人がそばにいた。
「あら、ちょうどよかったわ! 三人ともちゃんとお参りできたの?」
 そのタイミングを全く疑問に思っていないようなハルヒは、朝比奈さんに抱きつきながら無邪気に質問している。
 しかし、こいつらもしかして最初からわかってはぐれていたんじゃないだろうな。
「さて、どうでしょうか」
 そらっとぼける古泉に溜息をわざとらしくついてやったが、まだハルヒにじゃれつかれている朝比奈さんと、余分なエネルギーを放出しているような笑顔を振りまくハルヒ、その横にたたずむ長門を見ているとすべてを許せる気にもなる。

 仕方なしに冬晴れの空を見上げて、今年もいい年になりそうだと無意味につぶやくことにした。
 根拠なんかないさ。
 ただ、ハルヒがあれだけいい笑顔になってるんだから、悪い年になりようもないってことさ。


  おしまい。