キョンがハルヒを脱がすSS 5th Sequence ~こんなオチってありか?~
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ネタ提供はGimma_Akito様です。毎度どうも。
特に、ハルヒとキョンの会話はほぼそのまま流用したというorz
人のネタを借りておきながら書き進まないってのはどうしようもないな\(^o^)/

 朝から何かおかしいと感じていた。
 その日を過ごすのが初めてではないような、既視感や違和感がふと頭をかすめては消えていく、ということを繰り返しているような、そんな感じだ。
 季節は夏、まだ夏休み前とはいえこの暑さとこの感覚には覚えがある。
 そう、去年の夏休み。長門によれば15498回も繰り返したということだが、あのとき感じたものとよく似ている。いや、今回の方が頻繁だし強烈だ。
 15498回であれだけだったんだから、まさか今回は30000回くらい繰り返しているんじゃないだろうな?
 いやいや、落ち着け。
 あの夏休みと違って、ハルヒが今を繰り返す理由なんかないじゃないか? ハルヒはまた夏休みにあれやこれやと計画を立てているようだし、むしろ今をすっ飛ばして夏休みまで早送りしそうな勢いだ。まさかその手前で足踏みするなんてことは考えもしないだろう。
 だが、今日感じている違和感は気のせいとは言い難い。
 また何か俺の知らないところで問題でも起こっているのか?

 いったい、なにが?

 こういうときに一人で考えても、たいていの場合俺個人の考えなんか及ばないようなことが起こっているのをとっくに学習しており、やはりここは事情をよくわかっている奴に聞くのが一番早いのだろう。
 と言うわけで昼休み、俺はハルヒが授業の終了とともに教室を飛び出していったのを見送ってから、弁当片手に部室へと足を運んだのであった。

 長門なら何が起こっているのかを把握しているのではないかという俺の考えは間違っていなかった。部室に着くやいなや弁当を拡げるのももどかしく、俺は長門に今日感じている違和感を疑問としてぶつけてみた。
「なあ、もしかしたらまた時間がループしているってことはないか? 去年の夏休みみたいなことが起こってるんじゃないのか?」
 いつも通り、いつ弁当を食ったのやらすでにパイプ椅子で分厚いハードカバーを拡げていた長門は、それが問題になるなんて全く考えていないような顔をして俺の質問に答えた。
「そう。本日の午前7時が起点となり、リセットはそのシークエンスの状況により異なるが、午後4時から6時までの間に行われている」
 お前はまた気づいていながら何も言わなかったのか。そうやって何万回もまた我慢していたのか?
「何万という数値は該当しない。現在のシークエンスはまだ五回目」
 五回目? 思ったよりずいぶん少ないな。それにしちゃ、俺の違和感が前回よりも大きいのはどういうこった。
「あなたのみ、記憶データ消去の一部が不完全となっている」
「俺だけ?」
 てことはハルヒはもちろんだが、朝比奈さんも古泉も今回はなんの違和感もないってことなのか。
 だが、いったいなぜ。
「理由は不明」
「不明って、推測もできないのか?」
「確定的な判断をするには情報が不足している」
「いや、確定じゃなくて推測なんだが」
 そういや曖昧な推測なんてものを長門が話すことはないな。そういうのは古泉の得意分野だし、あいつなら五通りくらいの仮説を思いつきそうではある。
 長門はわずかに首をかしげたが、やがて星の瞬きのような声で言った。
「わたし個人の推測でいいのなら」
 長門個人の推測じゃなければ誰と意見を交わしたんだ、なんて今更聞くまでもない。いつだったか聞いた台詞……“情報の不足を何よりの瑕疵とする習慣がある”だっけか? 長門自身が以前そう考えていたのだとしたら、限られた情報での推測を話すというのは、俺が思っている以上に長門は変化しているってことかもしれない。
「むしろ長門個人の推測を聞きたい。ループの原因はハルヒで間違いないんだよな」
「そう」
 そりゃ、あいつ以外にこんなことする奴がいるとは思えない。
 しかし、納得は出来ない。理由はさっき考えた通り、もうすぐ夏休みでハルヒはまだ何をするかを隠してニヤニヤしているが、近いうちにまた合宿とか言い出すに違いないし、その発表も合宿自体も楽しみにしているはずだ。
「推測ってのは、なんでこんなことをしているか、って部分か」
「そう」
 ゆっくり首を縦に振った長門は、相変わらず抑揚のない声で続けた。
「涼宮ハルヒは、」
 一瞬意味ありげに言葉を切って俺を見つめる瞳は、何となく……なんだ? ほんの少しだけ、おもしろがっているような、悪戯っぽい色が浮かんだような気がした。

「あなたに着衣を奪われたいと思っている」

「…………」

 えーと、長門?
「なに」
 着衣を奪われ……て、つまり、脱されたいって思っているってことか?
「そう」
 そうって、他に何か言うことないのか。だいたいハルヒが俺に服を脱がされたい? ないない、絶対あり得ない! 確かに入学当初、男子生徒の前でいきなり着替え始めて周囲の度肝を抜いたハルヒではあるが、だからといってわざわざ誰かに脱がされたいという願望を持つはずがないじゃないか。朝比奈さんを脱がしたいって願望はどうも持ち合わせているらしいが、だいたいあいつの願望はいつだって能動的な「何かをしたい」ってものであって、「何かをされたい」なんて受動的なもんじゃないはずだ。
「過去のシークエンスにおいて、いずれもあなたが涼宮ハルヒの着用している衣服の一部を脱がせている。しかし、完全に成功はしていない」
 なんですと!? 俺が覚えていない過去に、ハルヒを脱がせていたって? なんて羨ましい……違う、今のは妄言だ、なんでもない。
 動揺する俺にお構いなしに、長門は淡々と説明を続けた。
 一度目は制服のリボン、二度目は制服の上着を捲り上げたらしい。いや、なんで俺がそんなことする? そのときの俺はいったい何を考えていたんだ?
 なんて混乱しているまもなく、まだ長門の言葉は続く。
 三度目は靴下を脱がせただけで逃げ出したって、いったいどういうシチュエーションなんだよ!
「そして、前回のシークエンスにおいて、わたしは自身の推測に基づき、ループを終了させる可能性のある行動を取った」
「どういうことだ?」
「あなたに涼宮ハルヒの着替えを手伝うよう指示した」
 あのー、長門さん? 何をどうしたらそういう状況になるのかもうちょっと説明してくれませんかね。
「一日団長の権利を得た」
「……」
 端的に答える長門に三点リーダとともに漏れる嘆息で応じるしかない。はっきり言ってさっぱりわからん。まあいい、後でゆっくり聞くとして、結局長門は失敗したんだな。じゃあ、やっぱり脱がせるって理由は間違いじゃないのか?
「その可能性もある。しかし、」
 長門はなぜかほんのわずかに非難するような色を目ににじませた。
「前回のシークエンスもその前においても、リセット開始を誘因したのは、あなたの逃亡」
 逃亡って、逃げたってことだよな。なんだかわからんが、ハルヒを脱がそうとして途中で逃げたのか? って、それなんか俺が酷い男みたいじゃないか。いったい何がどうなってそうなったのか非常に気になるのだが、今はそれよりこのループを終わらせることが先決だ。
「……なんだかよくわからんが、俺がハルヒを脱がせれば、このループは本当に終わるのか?」
「断言は出来ない。しかし、現在の情報のみで判断した場合、92%の確率で正常に回復すると考えられる」
 残り8%だった場合、俺の命はそこで尽きそうなんだけどな……。
 しかし、俺の長門に対する信頼が揺らいでいるわけでもなく、万が一失敗してもこの時間がリセットされるだけだと自分を言い聞かせるというよりは誤魔化すことにした。

 本当の本当に、それでいいんだよな??

 しかし、だからといってどうやって脱がせるなんて状況に持って行っていいのやらさっぱり解らないまま放課後がやってきた。文芸部室に行くのも、そこでメイド姿の朝比奈さんを眺めながらゲームをするのもいつも通りのはずなんだが、俺はやはり落ち着かなかった。
 もしここで何かの動きがなければ、また今日が繰り返されることになるのだろう。延々と繰り返す同じ日を、誰が感じていなくても長門は知ってしまう。そして、いつかはまた未来が訪れないことを朝比奈さんも気づくだろうし、古泉だって正常化したいと思うに違いない。
 なんて思った俺の心を読んだように、向かいに座る古泉がオセロを準備しながら話しかけてきた。
「どうやらまた時間がおかしくなっているようですね」
「気づいてたのか」
 長門によれば、既視感や違和感があるのは俺だけだということだったような気がするが。
「長門さんに聞きました。朝比奈さんも聞いているはずです」
 て、ちょっと待て。長門が積極的にお前達に連絡を取ったって?
「そうです。僕も意外でしたが」
 爽やかスマイルはそのままに肩を竦めると、視線を読書中の長門に向けた。
「長門さんは前回のように無限とも思える時間をループさせたくなかったのではないでしょうか」
 長門が時間の流れを俺たちと同じように感じているのかどうかはわからない。だが、あのとき気づいたように、長門は確かに退屈していた。同じような状況は避けたかったのだろうが、それにしても長門が自らループを終わらせようと行動するとは驚きだ。
「今回のことは、長門さん自身の変化を情報統合思念体が観察しているという部分があるのかもしれません」
 それがどういうことだかさっぱり解らないのだが、しかし長門曰く、今日の4時から6時の間にリセットされるってことだから、この無意味な部活動時間の間に何とかしなければならないってことだ。
 そしてその“なんとか”ってのは、具体的には俺がハルヒの服を脱がすってことで……。

 うん、それ無理。
 やっぱり無理。

 どうやったってそんな状況に持って行く方法なんか思いつくわけがない。
 俺は窓際で拡げた本に視線を固定している長門を眺めた。
 ここで俺が諦めたら、またこいつはいつ終わるともしれない時間を一人だけ自覚して過ごすことになる。そしてまた、人知れず長門が言うところの「エラー」をため込むことになるんじゃないか? それは人間に置き換えればストレスってことになるだろうが、それが解ってて放置するのは、もう絶対にダメだと俺はとっくに悟っている。
 ええい、畜生、こうなったら自棄だ。

「なあ、ハルヒ」
 俺は古泉が箱から出したオセロには手をつけず、団長席でパソコンとにらめっこしているハルヒに声をかけつつ椅子から腰を上げた。
「なによ」
「その……、だな」
 何とかしなければならない。
 だからといって、我ながらこの台詞はなかった。
「実は、何故か俺がハルヒを脱がさなければならなくなっちまったんだが」
「はあ?」
「協力してくれるか?」
 ハルヒは目をまん丸にして俺を見つめた、かと思うとみるみる顔を真っ赤にして目に怒りの炎を燃やし始めた。
「な、何故かって、なに考えてんのよこのエロキョン! 理由もわからずそんなこと言われてはいそうですかって応じるわけないでしょ!」
 理由がわかればいいのかよ。
「いや、とある筋からのリクエストでな」
 って違う、今なにか電波が混線した!
「じゃなくて、つまりだな……」
 とはいえ理由なんか出てくるわけがない。どうやらお前が俺に脱がせて欲しそうだから? って、今現在そうは見えないし、どう考えても俺変態じゃねえか!
「い、いやよ、あたしは絶対にいやだからね!」
 そりゃそうだよな、いくら何でもハルヒだって女の子なわけだし、脱がされたいって思うこと自体がおかしい。しかし長門が言うにはおそらくこれが理由だと言うし、長門を疑う理由もない。まさかからかっているわけじゃないよな? 長門。
 ハルヒは怒りなのか恥ずかしいのかその両方なのか、顔を真っ赤にしたまま俺を射るように睨み付けている。俺は俺でなんと言っていいのか解らずに黙っているしかなく、他のメンバーがこういうときにあまり口を挟まないのはいつものことで、部室にしばしの沈黙が訪れた。
 カップラーメンを作っていたなら伸びて食い物にならなくなっただろう頃合いになって、ようやく口を開いたのは意外にもSOS団専属メイドの朝比奈さんだった。
「し、仕方ありませーん! キョンくん! す、涼宮さんの代わりに、わたしを……」
 って、なにをおっしゃっているんですか朝比奈さん!?
 俺が驚いてこの奇跡的に愛らしい上級生を振り返ると、顔を真っ赤にしておろおろと視線を泳がせているメイドを発見した。いや、なんでそんな台詞を言いながらそんなに狼狽えているんですか。
「……いいえ、あなたが脱がせるべきはわたし」
 半ば呆れた思いで朝比奈さんを見ていた俺は、今度は長門に驚かされた。って、長門、お前は事情がわかってるんだよな? って、そういや朝比奈さんも事情を聞いているはずで、いったい何でこんなことになってるのか誰かわかりやすく説明してくれ!
「ちょ、ちょっとみくるちゃん、有希、なんで……」
 ハルヒは俺以上に驚いただろう。なんで、と言ったっきり文字通り開いた口を閉じることができないままに長門と朝比奈さんを交互に見つめていたが、やがて意を決したように再び俺に視線を戻して言った。
「わ、解ったわ! やっぱりキョン、あたしを脱がせなさいよ!」
 て、お前どう考えても売り言葉に買い言葉だろ、と思った瞬間。
「「どうぞどうぞ」」
 あのー、長門、朝比奈さん? なんだ、その芸歴が長いリアクション芸人トリオみたいなノリは!
「って、ちょっと、なんなのよそれ!」
 ハルヒの声が怒りの色に染まっているのも当然だと思うってのに、ますますこの状況を混乱させる奴まで出しゃばって来やがった。て、お前はむしろ混乱を収める側の人間じゃねえかよ!
「では代わりに僕を脱がせt……」
「帰れ!!!!」
 なんかもう、本気でワケがわからん!

 俺が半分パニクってる間にも、ハルヒの怒りゲージは見る間に上がっていき、
「ふ、ふ、……」
 わなわなと震えながら吐き出した言葉は怒りのあまりすぐに単語にならないくらいだったようだが、少し間をおいて窓どころか部室の壁をもビリビリと震わしそうな音量で叫んだ。

「ふざけんな────!!!!」

 なんかもう既視感どころじゃないぞという目眩とともに視界は暗転していく。
 なあ、長門、出来れば次は最初からなにが起こっているのか教えてくれよ……

「承知した」

 長門の落ち着き払った声が聞こえたような気がして────


 ────reboot.







 ────?
 目覚ましが鳴る前に目が覚めるなんてことが高校入学以来あったのだろうか、なんて一瞬考えるほど珍しいことではあるのだが、その原因も俺の目の前にある、いや、いるのだからますます俺はなにが起こっているのかひたすら寝起きの頭に巨大なクエスチョンマークを浮かべているだけである。
 なんのことか解らないって?
 俺にも解らん。

「なあ、長門」
「なに」
「なんでお前が俺の部屋にいるんだ?」
「あなたがそうするように言ったから」
 ますます解らん。俺がいつ、朝っぱらから俺の部屋に来いと言ったんだ?
 と言った瞬間に目覚ましが鳴り、あわてて止める。もう10分ほどしたら、しびれを切らしたお袋が妹に俺を起こすように命令するだろう。あまりぐずぐずはしていられない。
「その時計は1分22秒遅れている」
「今はそんなことはどうでもいい」
 とにかく、なんで長門がここにいるのか、俺がなにか言ったのだとしたら今の俺にその記憶がないのはなぜなのかを、俺に解るように説明してもらえないだろうか。
「本日午前7時が起点。あなたは最初からなにが起こっているのか教えるようにわたしに言った」
 なんだそりゃ。やっぱりわからん。
 その後、俺がいくつかの質問をして、ようやくこの時間がすでに6度目であること、そして前回のリセット直前に、俺が最初からなにが起こっているか説明するように長門に言ったのだと言うことが解った。
 その時点で妹が階段を上がってくる足音がしたので、俺はあわてて部屋の外へと飛び出した。
「あれー!? キョンくん、起きてるの?」
 母親の使命を果たすべく上がってきた妹に、すぐに降りるから先に降りていろとだけ言うと、俺は部屋に戻った。さすがにここに長門がいるのを発見されると非常にまずい。
「すぐに支度するから外で待っていてくれないか」
「了解した」

 それから顔を洗って飯を食い終わるまでを5分で済ませ、着替えは3分で終わらせると家を飛び出した。
 長門は律儀に門の外で待っていた。
「で、もうちょっと詳しく説明して貰ってもいいか?」
 コクリとうなずいた長門は、どちらかというと俺の質問に答える形で淡々とそれまでのループであったことを語った。
 その内容は割愛しても、いいよな?
 とにかく俺はその説明を聞くにつれ、ただ頭を抱えるしかなくなるわけだが、いや、待てよ?
 なんか、おかしくないか?
 このループを終わらせるためには俺がハルヒを脱がす必要があるってことだが、実際には脱がすことはあまり成功していないようだ。俺がチキンだってのもあるかもしれないが、ってそりゃそうだろ! 後でなにされるかわかったもんじゃないだろ! いや、そこじゃなくて、だ。
 どう考えても信じられないが、本当にハルヒが俺に脱がされたいなんて奇妙どころじゃない願望を持っていたとしたら、とっくに成功しているはずじゃないのか?
 だいたいハルヒは目前に迫った夏休みを楽しみにしているはずで、なんでこんなところで足踏みしているのか、それ自体俺には理解出来ない。

 そうだ、夏休みだ。
 繰り返し現象から逃れる鍵なんて、よく考えたらものすごく簡単じゃないのか?
 それが正解なのかは解らないが、別に試したところで害はないだろう。

 俺は学校に着くと、すでに俺の後ろの席で窓の外を見ているハルヒに声をかけた。
「よう」
「おはよ」
「なあ、聞きたいんだが」
「なによ」
 なあ、お前はいつも前を見ていたじゃないか。
 こんなところで踏みとどまってるのは、お前らしくないぜ。
「夏休みの計画はもう決まってるんだろ? いつ発表してくれるんだ?」
 俺の質問に一瞬きょとんとした顔をしたハルヒは、次の瞬間にはハイビスカスのような笑顔を咲かせた。
「よくぞ聞いてくれたわ! そうね、そろそろ大々的に発表しようと思ってたところなのよ!」
 無意味に自信たっぷりに胸を張ると、これだけ近いんだからそんな大声出さなくても聞こえるとツッコミを入れたくなるような声を張り上げた。
「今日の放課後を楽しみにしていなさい!」

 ハルヒの笑顔を見て、俺は今日はもう繰り返さないだろうと確信した。
 こいつは単純な奴なんだ。単純だからこそ些細なことが引っかかったのかもしれないが、そもそもブレーキの壊れた暴走列車みたいなやつだ。何かが絡まって止まってしまったとしても、前進しようとする力が失われている訳もない。
 
 そうだな、楽しみにしていようじゃないか。
 今日の放課後と、それから忙しくなりそうな夏休みを、な。
 



 後日談になる。
「今回も、あなたが解決したわけですね」
 夏休みも目前どころか指二本で数えられるくらいに迫った日、朝比奈さんを伴って買い出しとやらに出かけてしまった部室で、俺は古泉にやけに明るい笑顔でそう言われた。
「それにしても、なんでハルヒは夏休み前にループなんてさせたんだ? その夏休みを思い出させたとたん、手のひら返しやがったくせに」
 俺がそう言うと、なぜか古泉は苦笑とも取れる笑顔に変わった。やれやれ、と言っているようで妙に腹が立つ。
「お解りにならないのですか」
 ああ、全然お解りじゃないね。いったいなんだってんだ。
「繰り返していた『あの日』、あなたが涼宮さんになにをしたかは長門さんからお聞きでしょう」
 残念ながら聞いている。出来れば聞かなかったことにしたいけどな。
「きっかけはおそらく、長門さんがあなたのネクタイを外そうとしたことでしょう。女性が男性のネクタイを付けたり外したりするという図は、どうしてもその男女にある関係があると連想させますからね」
 連想させるも何も、それはそういうルールをハルヒが言い出したからだろ?
「おそらくルールを考えたときは、あまり後のことに思い至ってはいらっしゃらなかったのでしょう」
 後先考えないのはいつものことだけどな。
「そこで、涼宮さんは衣服を脱がすということに拘ったのだと考えられます。あなたを脱がすことよりご自分が脱がされることを考えたのは、やはり彼女も女性だということでしょうか」
「なんの話だか解らんね」
 ハルヒがそんな理由で時間をループさせるなんて誰が信じるかよ。
 ああ、絶対そんな理由は信じられないね。
 もういい、とりあえずこの件は解決したんだろ? そうだよな?
「ええ、涼宮さんは明後日からの夏休みを心待ちにしております。また今日を繰り返す何てことは考えもしないでしょう」
 だったら、後のことはもういい。
「それではそう言うことにしておきましょうか」
 古泉もそれ以上は推理を披露することもなく、何かゲームでもしましょうか、と備品になっているゲームをいくつか物色し始めた。

 やがてハルヒ達が買い出しから戻ってきて、いつもの時間が動き出す。
 そう、これで正常な時間が戻ってきた、俺はそう思っていた。


 事件はこれで解決した、と思っていた俺は少しだけ間違っていたようだ。
 本当の終結は、その夏休みに入るまでお預けとなっていたことに、このとき俺はまだ気がついていなかった。



続かない。ごめんなさい。