孤島の夜空
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 たぶん俺たちが勝手に出て行ったことは、全員気づいているのだろう……朝比奈さんはあやしいが。
 合宿初日の夜、到着したとたんに時間を無駄にしないとばかりに遊び倒したおかげで少々疲れてはいるが、それでも俺はハルヒに、外を少しぶらつかないかと提案した。
 去年ならまず考えもしなかったことだが、今はまあ、二人の時間が少しは欲しいなんて思ってしまう間柄になったってことだ。

 外に出た俺たちを待ちかまえていたのは、開発された町では絶対に見ることの出来ない、降るような星空だった。
 まるでプラネタリウムみたいだな、いや、プラネタリウムがこの星空を真似しているのか、なんて考えながら見上げる。
 ハルヒも俺と同じようにその空を眺めていた。

「キョン」
 俺を呼ぶハルヒの声が震えていることに気が付いた。
なぜハルヒが泣き声になったのか、とっさに俺には理解できなかった。
「どうした?」
 ハルヒは声だけではなく身体もわずかに震わせている。
「わかんない」
「わかんない?」
「うん、この空を見ていたら、なんか胸がいっぱいになって……勝手に涙が……なんで……?」
「ああ」
 俺はハルヒの手を握って、もう一度空を見上げた。
 胸を打つような星空は、どこか感動的で、それでいて少し怖いような気もする。
 そんな感動と畏怖の感情が涙となってあふれてしまったハルヒを、俺はどうしようもなく愛おしく感じた。
 その気持ちを込めるように、ハルヒの手を自分の手の中にしっかり握りしめた。

 夏の夜風がハルヒと俺を撫でていく。
 少し遠い波の音が聞こえてくる。
 他には何もないような、錯覚。

 ハルヒがそこにいるのを確かめるように全身で抱きしめると、ハルヒはまだ瞳に涙を溜めたまま微笑んだ。
 その微笑みに俺は唇を落とした。


 この世界には俺とハルヒの二人だけ、今だけはそれでもいいと思った。



  おしまい。