ストレートな言葉がサプライズ
短編 | 編集

バレンタインデーネタ。相変わらずのワンパターン。てか、去年とネタ被ってるw
タイトル適当すぎワロタ。

 なんだこれは。
 部室のドアを開けて考える暇もなく口からこぼれ落ちた第一声はそれだった。
「遅いわよ! キョン!」
 いや、お前が陸上部から勧誘を受けるほどのダッシュで教室を走り去った後、俺もまっすぐここへ来たんだが。それで遅いと言われても困る。
 確かに俺が最後だったのは認めるにしても、だ。
 いや、そんなことより、これは何だ?

 朝比奈さんはハルヒの傍らでにこにこと笑顔を振りまき、長門は相変わらず窓際で分厚い本を拡げている。古泉は入り口近くの椅子に座っていた。
 そして、ハルヒは腕を組んで仁王立ちしつつ今入ってきた俺に不敵な笑いを寄越しており、その前にある長机上にラッピングされた箱や袋が所狭しと並べられていた。

 去年と違って今日が何の日であるかくらいは俺も覚えてはいる。
 2月14日。バレンタインデー。
 本来の意義なんかもちろん忘れ去られているのは輸入イベントの宿命ではあるが、この日の場合その本来の意義自体があやしい物だということもこの際目を瞑った方がいいだろう。
 もちろんこんなイベントをハルヒが見逃さないのは去年同様で、だから今部室がこんな状態なのは言うまでもない。
 いったいいつの間に準備していたんだ?

「これ、全部準備したのか?」
「そうよ、大変だったんだから!」
 ニヤリと笑いつつもそれなりの労力を必要としたことをアピールしやがるが、まあこれが全部チョコでなくてもラッピングするのは大変そうだよな。
 そう、これが全部チョコだなんて期待するほど俺も甘くはない。どうせハルヒの思いつきで何かあるに違いない。
 その予測はもちろん当たっていた。

「じゃあみんな揃ったところで早速始めるわよ!」
 待つと言うことが嫌いなハルヒは号令をかける。待て、せめて鞄くらい置かせろ。
「もう、早くしなさいよ」
 文句を言ってはいるが、その顔から上機嫌なのは一目瞭然。
「こっちを早く終わらせて、みくるちゃんのチョコ争奪戦をしないといけないんだから!」
 去年のバレンタイン、あの主に俺自身が原因で慌ただしく終わらせてしまったイベントを今年もやるのか。まあ、今年はおそらく急いで朝比奈さんを連れ去る必要もないよな……たぶん。
「解ったよ。で、どうすりゃいいんだ」
 俺の言葉を待ってましたとばかりににんまりと笑ったハルヒは、並べられた包みを示すように両手を拡げて宣言した。

「この中から、どれが本物のチョコかを当てて貰うわよ!」

「なるほど」
 俺がなんとコメントしようか迷っている間に、古泉が口を挟んだ。
「つまり、この包みのほとんどは偽物で、チョコレートが入っているのはごく一部だということですね」
 そんなこと言わんでも解るだろうが。
「そうよ! さすが古泉くんだわ」
 何がさすがなんだか。
「正確には、あたしとみくるちゃんと有希が作ったのが2つずつ、3つあるの。この中からちゃんと正しい包みを選ぶことが出来たらチョコはあんた達のもの。間違ったら残念ながら今年のチョコはなしだからね!」
 なんですと? じゃあ、ここで選ぶのを間違えた日には、今年もらえるチョコは母親と妹からだけってことになってしまうということか。
「本当に欲しかったら心眼でも何でも開花させて見なさいよ! 本気を出せばあんたも超能力者になれるわよ!」
 ……なるほど。目的はそれか。
 って、そんなもんで超能力者になれるならとっくになってるだろ!
「いいからさっさと選びなさい! ……あ、包みは見るだけね。持っちゃだめよ」
 そりゃ、中身があるかないかで重さが全然違うだろうからな。
 しかし、これは一生懸命考えても答えのわかる問題じゃないよな。ってことは適当に選んでも同じだろう。運が良ければ朝比奈さんの手作りチョコを2個手に入れることが出来るかもしれないってことだが、それもあまり期待出来そうにはない。
「さて、どれにしましょうかね」
 そういう古泉の微笑が何故か余裕に見えてしまうのはなんでだろうね。

 古泉は少し考えながらも3つの包みを指し、それを朝比奈さんが用意してあったらしい紙袋に入れて、何故か口の部分をシールで止めてしまった。
「おうちに帰ってから開けてくださいね」
 なるほど、結果は家に帰ってからの楽しみってことか。しかし全部はずれていた場合、紙袋の重さで解りそうだよな。
 俺もあまり考えずに適当な包みを指定したのだが、ハルヒ? 何でお前はそんな怒ったような顔をしてるんだ?
「べ、別に」
 どことなく慌てたような早口でそういうと、さっさと古泉と色違いの紙袋に包みを入れて、同じように封をして渡された。わざわざ封をする意味がわからん。
「いいから、家に帰ってから開けなさいよ! 解ったわね!」
「ああ、わかったよ」
 さて、俺はアタリを引いたのか、渡された紙袋を持った手にある程度の重みを感じる。それともハズレにも何か入っているのだろうか。
 まあ、今考えても仕方ないか。


 さて、選び終わった俺と古泉は廊下に放り出されたと思ったら、またもや朝比奈さんの「ひぇっ! だから自分ででき……やめてええ」などという妄想するとどうにかなりそうな可憐な声や、「いいからさっさと脱ぐ! ほら、そんな隠したって隠れないんだから仕方ないでしょ!」などという異常に嬉しそうな声を聞くことになった。今年もコスプレしてチョコ争奪戦か。受験生にこんなことさせていていいのかね?

 その争奪戦の様子はもういいだろう。去年と違って長門に情報操作を頼む必要もなく、朝比奈さん手作りチョコを狙った(あるいは去年のように長門が配るチョコに期待した奴らも結構いそうだが)野郎どもが角砂糖にたかる蟻のように群がって来たのだが、どういう訳か今年もチョコを引き当てたのは女の子であった、とだけ言っておこう。
 俺の興味はやはり俺自身が貰った袋の中にある。



 その袋の中身を見たのはその日の夕方、すっかり暗くなってからだった。
 ハルヒの厳命に従い家に帰ってから開封した袋の中にはもちろん包みが3つ。正直どうせ解らないからと適当に選んだ包みはしかし、3つのうち2つはある程度重さがある。もしかしたら、2つ引き当てたのかとちょっと期待しつつ、まずはかなり軽い包みを開けてみた。
 軽いからにはおそらくハズレだろうと思った俺の予想は見事に当たっていた。
『残念賞』
 見事な明朝体で書かれたカードとともに、長門が先ほど配っていた徳用チョコが一つだけ入っていた。
「残念賞でもとりあえずチョコはくれるんだな」
 手作りじゃなかったのは残念だが、心の中で長門に感謝しつつ包みを解いて口に放り込んだ。甘い。

 残り二つの包みのうち、手近な一つを開けてみた。これはもともと中に何か入ってそうだ、と見当をつけたのだが……
「アタリだな」
 正直言って嬉しい。中にはココアがまぶしてあるようなチョコレートがぎっしり入っていた。
『アタリ! と言っても義理だからね!』
「いちいち言われんでも解ってるさ」
 カードにツッコミを入れつつ何となくムッとした気分になるのはなんでかね。
 去年もあれだけギリギリと強調していたわけだし、今更なのはわかっているんだが、何となくおもしろくない。
「さて、残りの包みは……って、なんだこれ」
 こんな物、さっき選んだときについていたか? 白い箱にかかった黄色いリボンの隙間に、カードが挟まっているのに気が付いて、俺は首をかしげた。いや、包装紙と同色で気付かなかっただけなのか。
 包みの中に入れずになんでこれだけ外に挟んであるのか疑問に思いつつ、俺はそのカードを開いてみた。
 カードに記名はなく、どちらかというと乱暴に書いたらしい筆跡はしかし見間違えようはない。

『好き』

 ただ一言、それだけ書かれたカードを俺はしばらく眺めていた。
「ハルヒの……字だよな?」
 誰に確認するでもなくつぶやいてみるが、返事をしてくれる者はいない。
 その代わり、どう見ても何度も見ているハルヒの字だと俺の記憶が答えている。そんな自問自答を数度繰り返して、俺はようやく包みの方を開けていないことを思い出した。
 そうだ、とりあえずこれを開けるか。

 中身は、ハート型をしたチョコレートケーキだった。

 えーと、ハルヒ? これは、なんかの罠か? それとも、本気だと考えていいのか? さっきのチョコには義理と書いてなかったか?
 第一、あの包みの山は特に俺や古泉に分けられていなかったんだから、これが古泉に行く可能性もあったわけだし……。

 いや、そうか。
 だからカードが外にあったんだ。
 いつかはわからん。ハルヒが袋に入れたときにこっそり差したのかもしれないし、朝比奈さんが着替えている間に部室に起きっぱなしだった袋を開けて入れたのかもしれない。
 そんなことはどうでもよく、とにかくこのカードは俺が選んだことを確認してから付け足したに違いない。

「好き、って、やっぱそういうことなのか?」

 信じられん。いや、本当に俺は解ってなかったのか?
 宇宙人、未来人、超能力者が選ばれたSOS団における唯一の一般人。何で俺が? と考えるのは最初から放棄してはいた。
 だが、あの閉鎖空間を俺は忘れた訳ではない。あのとき古泉に何を言われたか、ハルヒが何を言ったのか、そして俺が何をしたのか。
 信じられないと思いつつも、心のどこかで俺は期待していたんじゃないのか。
 俺がハルヒにとって特別な存在であると言うことを、俺は望んでた。

 思わず携帯を引き寄せて、ハルヒの番号を呼び出した。
 だが、そこで俺は携帯を操作する指を止める。
「大事なことは面と向かって言うんだっけな」
 そういうハルヒが面と向かって言わなかったことは、この際不問にしてやろう。あいつだって、きっと入学したての頃とは違う。ハルヒなりの葛藤があったんだろうことくらいは理解してやるさ。
 だが、やっぱり俺が電話というのは良くないような気がする。

 明日、ハルヒはどんな顔をして俺の後ろにいるのだろうか。
 きっとまた、怒ったような顔をして窓の外を眺めているに違いない。

 さて、俺はなんてハルヒに声をかけようか、まずはそこから考えようか。


  おしまい。