孤独な太陽
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 いつも通りの学校帰り、だがいるのはハルヒと俺だけ。
 どういうわけか異能者三人は、それぞれの理由で部室には来なかったからだ。だったらさっさと休みにすればいいと思うのに、ハルヒと俺は何となく放課後を部室で過ごし、特に何もしないまま帰途について今に至る。
 気の早い太陽が、西の空から消え失せようとしていた。
 赤から紺へと変化していく空に気持ちも引きずられているのか、隣を歩くハルヒはヤケに無口だ。今日はなんとなく元気がなかったが、やはり三人が休んだことを気にしているのだろう。
 だからといって、俺はなんと声をかけていいのか解らず、気の利いた台詞なんか出てくるわけもない。

「……太陽は」
 先に沈黙を破ったのはハルヒだった。
「何だ?」
「太陽は、いつも孤独ね」
 なんだ、いきなり。
「あれだけ周りを照らして存在感もあるのに、周りには誰もいない。いくら明るくても、空の上では孤独だわ」
 突然太陽を擬人化した理由は、やはり今日いない三人のことを思ってか。確かに、いつもと違って広くもないはずの文芸部室が、やたらにだだっ広く感じたしな。中学時代の孤独感を思い出したのか、それとも自分の周りにいる人間が離れていく不安を感じたのか。だとすると自分を太陽になぞらえてるわけだが、凹んでいるように見えてもそういうところはやっぱりハルヒなんだけどな。
「孤独は嫌か?」
「……そうね。以前は平気だったけど」
 ハルヒは薄く笑った。
「今は、たぶん、みんながいないとダメ」
 こんなに気弱なハルヒを見るのは久しぶりだし、気弱になっても弱音を吐いたのは初めてかもしれない。ハルヒが変わってきていることなんかとっくに気づいていたが、それにしても周りの人間を大切に想う気持ちが、孤独への恐怖感になるほどに成長していることを改めて思い知らされた。
 しかし、俺は何て言えばいい?
 誰も離れていかないさ、なんて気休めを言うのは簡単だ。だが、本当に離れていかない保証なんかどこにもないことを、俺は誰よりもよく知っている。
 朝比奈さんも長門も古泉も、それぞれ理由があってハルヒの側にいる。三人とも、今では自ら望んでこの場所にいることは間違いないが、しかし本人の意志とは関係なく離れていかざるを得ないことだってあるかもしれない。
 それを知っている俺は、何を言えばいい?
「太陽は別に一人じゃないだろ」
 解らないまま、それでも口を開く。
 ハルヒは少し驚いた顔をして俺を見た。
「少なくとも、俺もお前も、太陽を見てるじゃないか」
「どういうこと?」
「太陽が沈んでいくことを、俺もお前も知ってる。知っている人間がいる、見ている人間がいるってことは、一人じゃないってことだろ」
 ハルヒはもう一度、ほとんど消えてしまった太陽に目をやった。
「……そうね。あたしが見てれば、孤独じゃないのかあ」
 何となく納得したような、まだ考えているような、冷たい表情に、俺は少し焦りを感じた。ハルヒはもしかしたら、いつかみんな離れていくかも知れないことを気づいているのか? 三人の素性は解っていなくても、事情があるのかも知れないってことくらいは勘のいいこいつのことだ、わかっているのかもしれない。
「なあ、ハルヒ」
 落ち着かない理由はしかし、別のところにあることも俺自身解っているんだが。
「なに?」
 無表情で見つめる瞳に、俺ははっきり言ってやる。
「例え誰がいなくなっても、俺だけは見ているからな」
「はぁ?」
 驚きに目を見張ったハルヒを見て、少しだけ安心する。こいつはやっぱり喜怒哀楽を顔に出していた方がいい。
「だから、お前はもう一人になることはねーよ」
「べ、別に、あんたが居てくれたってしょうがないわよ!」
 そーかい、そりゃ悪かったな。でもそう言いながら、すでにいつもの笑顔に戻っているのは何でかね。
「まあでも、あんたがそう言うなら仕方ないわね。一生雑用でもしてなさい!」
「おい、いくら何でも一生ってのは言い過ぎじゃないのか?」
「あら、あんたが言い出したんでしょ! 問答無用! あんたはあたしの手足となってキリキリ働くのよ!」
 まったく、あっという間にいつものハルヒに元通りだ。
 だが、忙しく変わる表情の合間に見せる100Wの笑顔が見られただけでも、────まあ、一生でもいいかなんて思ってしまうのは何でだろうな。
 いいさ、側にいてやるさ。

 お前がそうやって、ずっと笑っていられるように。


  おしまい。