ダメ上司タマちゃん保守
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ハルキョンどころか、ハルヒもキョンも出てません。中学時代の古泉が一応主人公。
多丸圭一氏ファンの方は見ない方がいいです。

中学に入学したての頃、僕は自分に妙な能力が植え付けられたことに気がついた。
その能力を植え付けたのは「涼宮ハルヒ」という少女。
僕は、彼女のイライラの具現である「閉鎖空間」にて、後に《神人》と名付けられた巨人と闘う力を与えられた。
何故分かるのか、と言われても困る。
それは僕にとって、何故お腹が空くと食物を接種すればいいと動物でもわかるのか、と同義の質問なのだから。

その能力に気がついてから、僕は地獄と言ってもいい日々を過ごしていた。
いきなり見も知りもしない少女から与えられた力。
しかも、この力を行使しないと、世界もどうなってしまうか分からない。
それが分かってしまう一方で、僕は何か妙な妄想に取り憑かれた狂人と化してしまったのではないか、という恐怖感にさいなまれてもいた。
まだ中学1年生だった僕は、その責任感と恐怖感の板挟みに耐えきれなかった。

だから、『機関』という組織が僕を迎えに来たときには、心の底からホッとしたものだ。
少なくとも、僕は狂っちゃいない。
もちろん、涼宮ハルヒの気持ち1つで世界の方が狂ってしまうのかもしれないが、今のところまだ常識を保っている。

しかし、まさか『機関』に所属することによって、こんな苦労を背負い込むことになるとは夢にも思っていなかった。


「……説明は以上だ。何か質問は?」
「すみません、話が大きすぎて、質問すら思いつきません」
『機関』に所属することになった僕は、上司となる人から説明を受けていた。
この人自身、僕と同じ能力を有していて、閉鎖空間が発生したときには陣頭指揮を執ってくれることになっているらしい。
説明を受けた後、閉鎖空間以外での主な作戦行動を指揮する森さんという女性や新川さんを紹介された。
新川さんは、僕のサポートもしてくれるらしい。
昨日まで単なる中学生だった僕は、突然映画の世界にでも連れ込まれたようだった。

「こちらからの連絡用に携帯を渡すからついてきて」
森さんはそう言って、僕をある部屋に連れて行った。
数人の事務員らしき人が働いていて、何だか会社みたいだな、と思っていると、森さんは僕の心を読んだらしい。
「人が集まって組織を作るには、どうしても雑多な仕事が出てくるものよ。ここはそういう事務や雑用をやってくれる部署なの」
「はあ……そうなんですか」
ますます会社みたいだ。
「秘密組織のようだと言っても、結局は会社組織とあまりかわらないってことね。営利目的ではないけれど。……ちょっと、タマちゃん!」
……タマちゃん?
なんだろう、その住民票まで交付されたアザラシみたいな名前は。
「はいはい、なんでしょう」
「返事は1回!」
「はい、すみません」
人の良さそうな顔をした男性が、森さんに怒られて頭を掻いている。
しかしタマちゃんて。
「彼が新しい能力者の古泉くんよ。携帯を支給してあげて」
「わかりました」
そう言って「タマちゃん」と呼ばれた人物は僕の方を向いて、手を差し出した。
「業務課長をしております多丸圭一といいます。タマちゃんと呼んでください」

……あんた今自分からタマちゃんと呼べって言ったよな?

よろしく、と言って森さんは出て行った。
「で、携帯、携帯っとね……。ちょっとこっち来てくれる?」
多丸さんはそう言って、僕をまた倉庫になっているらしい別室に案内した。
「なんですか、この部屋は」
「備品庫なんだけどね、携帯どこだったかな……」
「どこだった、じゃないですよ! こんな段ボール山積みになってたら見つかる物も見つからないですよ! 整理整頓は基本中の基本でしょう!」
備品庫とやらはまさにカオス。
あちらこちらに開封された物や未開封の段ボールが積み上げられ、しかもその中身が何であるか何てことは1つも書いていない。
しかも通路にまで段ボールが置かれている物だから、奥には何があるのか見当もつかない有様だ。
「……多丸さん」
「タマちゃんでいいよ」
だからタマちゃんて。
「……タマちゃん」
こう呼ぶのが屈辱的なのは何故だろう。
「はいはい?」
「この中に新しい携帯は確かにあるんでしょうね」
「あるはずだよ。とにかく何か新しい物が来たらここに入れてるから、僕」
その姿勢がダメなんでしょう。ちゃんとどこにおいたかくらい覚えていてほしいものだ。
「と、とにかくこの中整理しましょう。ちゃんと何がどこにあるか分からないと後々困ることにもなるでしょうから」
僕が溜息混じりに言うと、多丸さんは目を輝かせて言った。
「本当かい! 助かるよ、じゃ、頼んだよ!」
ちょっと待て! 頼んだよってあんた、僕1人でやらす気か!
僕はとっさに襟首を掴んで引き戻すと、少し驚いた顔をしている多丸さんに一喝した。
「何言ってるんですか! あなたがやらないとまた何がどこにあるか分からないままでしょう!」
僕ってこんな性格だっけ?

結局、僕はこの日1日かけてこの備品庫の整理に終われた。
制服のままやって来たのが大失敗だ。
埃だらけの制服を見て、僕は溜息をついた。


「備品庫の整理してくれたんですってね。ありがとう」
翌日、また閉鎖空間が発生したので処理をした後、機関の本部に顔を出した。
森さんが笑顔でお礼を言ってくれたのはいいんけど、正直もうあの人とは関わりたくない。
「それでね、お願いがあるんだけど……」
「嫌です」
思わず即答してしまった。あの多丸さん絡みな予感がものすごくしたからだ。
「お・ね・が・い・が・あ・る・ん・だ・け・ど」
森さんは笑顔に凄味を加えて、一語一語区切るように同じセリフを言った。
怖いです。
すごく怖いです。
これで逆らったら僕は神戸港の水の中か六甲山の土の中に旅に行かなくてはならないかもしれないくらい怖いです。
「は、はい、なんでしょう……」
そう言った森さんは再びにっこり笑った。
その笑顔、僕でも読めます。「最初から素直にそう言えばいいのよ」、そう言ってるでしょう。
「しばらくタマちゃんの面倒みてくれない? 業務の女の子、誰も相手にしたがらないのよ」
嫌です。物凄く嫌です。女の子が相手にしたがらないって何やったんですかタマちゃん。
でも、断るのがやっぱり怖い。断れないオーラが出てますよ、森さん。
「わ、わかりました……。でも、僕中学生ですから……」
そう、学校にも行かなくてはならないんだから、ずっと面倒見るわけにもいかない。
「もちろん学校が終わってからでいいわよ。よろしくね!」
なんか強引に決められてしまったのだけど、仕方がないのかもしれない。
これも組織の歯車になる、ということなのかな。

とにかく、そんなわけで、僕は『機関』に所属すると同時に何故か上司であるはずの人の面倒まで見ることになってしまったのだった……。

これも、涼宮ハルヒが望んだことなのだろうか。


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『機関』に所属してから、僕の生活は一変した。
親元を離れて一人暮らしを始め、学校が終わった後は何もなくても『機関』の本部に顔を出す。
その学校だって、閉鎖空間が頻繁に発生するから休むこともしばしばだった。
そして、どういうわけか『機関』のお荷物とも言えそうな人の面倒を見ることにもなってしまった。
僕、まだ中学1年生なんだけど……。

「一樹くん、ちょっと買い出しに行ってくるから付き合ってくれる?」
そのお荷物、多丸圭一氏。通称タマちゃん。
『機関』の雑務全般を担当する業務課の課長なんだけれども、どうもこういう組織には似つかわしくないほどぴりっとしないと言うか……。
「僕は訓練の方に参加しようと思ってるんですが」
「すぐ済むから、荷物1人じゃ持ちきれないからさ~」
1人で持ちきれないほど何を買うつもりなんですか。
「ほら、備品庫整理してくれたからスペース空いたでしょ。だから色々買っておこうかと思ってね」
だから色々ってなんなんですか。スペース空いたから買うって、それ必要な物なんでしょうね。
「まあ、ファイルとか電卓とか……」
ちょ、このペーパーレス電子化時代にファイルとか電卓って、あんたの机の上にあるパソコンは飾りですか!
「いや、僕パソコン苦手なんだよね」
「苦手でもなんでも仕事なんだから覚えてくださいよ! だいたいそんな勝手に備品増やして大丈夫なんですか。ファイルとか整理したときまだありましたよ?」
「スペース空いてるの落ち着かないんだよね」
あんたはゴミ屋敷の主人ですか。

「どうしたの?」
調度いいタイミングで森さんが通りかかった。ああ良かった、後は任せよう。
「いや、なんでもないよ、ねえ一樹くん」
あんた何誤魔化そうとしてるんですか。森さんが怖いですかそうですか、僕も怖いですけど。
「そうじゃないです、要らない備品を補充しようとするから止めてたんですよ」
「またなの!? ちょっと、タマちゃん、こっち来なさい!」
森さんはタマちゃんの耳を掴むとそのままどこかに引きずって行ってしまった。
だったら最初から森さんがタマちゃんの面倒見ればいいじゃないですか。
何で僕が……。僕の手には負えませんよ。

これから先の不安を抱えて、僕は溜息を1つ吐いた。


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僕が自分の能力に目覚め、『機関』に所属してから数ヶ月。
閉鎖空間の処理をメインに、日々訓練を積む一方で、普通の中学生でもあるという二重生活にもだんだん慣れてきた頃だった。
そして、この人にも慣れてきてしまっている自分がいる。
正直言って、慣れたくない。慣れたら何かに負けた気がする。

「あれ? 一樹くん、なんかパソコンの調子がおかしいんだけど」
業務課室で万年慣れないパソコンに向かって何やら入力していたのは、業務課長多丸圭一氏ことタマちゃん。
何故タマちゃんなんて猫かアザラシか分からないような呼び名で呼ばれているのかは僕にもわからないが、ただ1つ言えるのは、自己紹介のときに自分からそう呼んでくれと言った、つまり自分ではその呼び名が気に入っているということだ。
そして何故、能力者として『機関』に所属しているはずの、まだ中学生の僕が業務課にいるのかというと、暇な時間はタマちゃんの面倒を見て欲しいなんていう非道い命令を森さんから受けたからだ。
森さんは「お願い」なんて言っていたけど、僕は認めない。あれは命令以外の何ものでもない。
「で、パソコンがおかしいってどう……って、ちょっ、タマちゃんそれはまずい!」
僕が呼ばれてタマちゃんのパソコン画面を見た瞬間、何が起こっているかは一目瞭然。
メールソフトが起動しており、送信トレイからひっきりなしにメールが送られている。
ええ、それはもう、勝手に、凄い勢いで。その裏で、コマンドプロンプト画面が表示されていて、何か文字が勝手にスクロールしているのも確認出来た。
「何のんびりしてるんですか、早くケーブル抜いてください!」
僕が言っても埒があかない。結局僕がLANケーブルをひっこぬくしかなかった。
もちろんそれでもメール送信をしようとするので、一度電源を強制的に落とす。
「あーびっくりした。今のなんだったのかな」
「なんだったのかな、じゃないですよ! どう見てもウイルスでしょうが! 何で対策ソフト入れてないんですか!」
ウイルス対策ソフトは当然支給されているパソコン全部に入れておくことが義務づけられているはず。
「いやあ、入れるように言われたんだけど、なんかわからなくてさー」
何故支給された時点でインストールされていないんだろう。僕が借りているパソコンには最初から入ってたけど。
少なくともこの人に支給するパソコンには絶対入れておかなきゃダメだろう。他の誰よりも必要なのは一目瞭然だ。
「一樹くん、今タマちゃんから来たメールが、隔離されたみたいなんだけど」
業務課の女性の1人が僕に話しかけて来た。出来ればタマちゃんに直接言って欲しい物だけど、どうやらそれは無理な相談らしい。
きちんと対策ソフトを入れてあれば、勝手に隔離してくれたはずなのに、まったく。
「すみません、ウイルスの種類を確認したいのでちょっと見せてもらえますか」

幸いメールを送信するだけで、ファイルやOSを壊すタイプのウイルスではなかったけれど、結局ウイルスの除去や対策ソフトのインストールは僕がやるしかなかった。
これで今夜閉鎖空間が発生したらぐれてやる。


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僕が『機関』に所属するようになって、もうすぐ1年になろうとしている。
閉鎖空間を処理できる能力者は『機関』の中でも一部であり、本来なら訓練以外の仕事はしなくてもいいはずだった。
そのはずだったのに。

「一樹くん、森さん知らない?」
「知りません」
ここは『機関』内の雑務を処理する通称「業務課」。
課長の職に就いているのは多丸圭一さん、通称タマちゃん。
この単純にして本人に似合わないあだ名は、どうも自分で付けたらしく、しかも気に入っているようだ。
まだ中学生の僕にさえ「タマちゃんと呼んで」なんて言うくらいだが勘弁して欲しい。
僕は『機関』に関わって以来、どういうわけかこの人はいいけど社会人としてどうかというタマちゃんの面倒を見る係まで(強制的に)請け負ってしまったのである。

「そんな冷たく一言で返さなくてもいいじゃない」
「暖かく返事したところで何か変化があるとでも?」
そもそも森さん始め、タマちゃんに優しく話しかける人など見たことがないし、主に女性に冷たくされて嬉しそうな顔をしているような気もするのだが。
「いやいやいや、一樹くんも言うようになったなあ」
やっぱり嬉しそうだ。
「でも困ったなあ。韓国に電話しなければならないんだけど、韓国語が出来る人が今いないんだよね。森さんなら出来るから頼もうと思ったんだけどなあ」
涼宮ハルヒの能力は全世界、おそらく宇宙規模で影響を及ぼす。
当然彼女の能力を危惧するのは日本人ばかりではなく、『機関』も世界各国とつながりを持っている。
だから海外と様々な取引をする場合もあるわけだが、雑務を請け負っている割にこのタマちゃん、日本語以外の言語はからきしダメと来ている。
まだ中学生の僕は訓練の一環として英語はある程度理解出来るが、ハングルは全く手をつけていない。
「緊急なんですか?」
「割と急ぐんだよね」
言葉とは裏腹にのんびりした顔でそういうと、突然席から立ち上がった。
「ちょっと買い物に行ってくるよ」
って、何突然出かけてるんですか。
森さんを探しに行った方がいいんじゃないんですか?

なんていう僕の疑問をよそに外出したタマちゃんは、程なく帰ってきた。
一冊の本を手にして。
「なんですか、その本は」
「ああこれ? ハングル語会話の本だよ」
「今から勉強したって、間に合わないんじゃないですか」
出来る人がいないから自ら学ぼうとするのは姿勢としては褒めるべきかもしれないが、今必要なことを解決出来るわけじゃないだろう。
「相手は日本語できるからね。ただ、取り次いで貰うまでが問題なんだよ」
「で、どうするんです?」
タマちゃんはぱらぱらと本をめくると、そこからいくつかの文章を紙にカタカナで書き出した。
まさか。

「えーっと、じゃあ電話電話」
「本気だったんですか……」
そうだとは思ってたけどね。無茶を無茶と思わないのがいいことなのか悪いことなのか。
「……アニョハセヨ 」
本当に韓国まで電話をしているタマちゃんは、カタカナで書いたハングルを何とか読み上げた。
意外や意外、何とか通じているようである。

だがしかし。
しばらく黙って受話器を耳に当てていたタマちゃんは、困ったような顔をして僕を見た。

「一樹くん、どうしよう。なんて言っているかさっぱり解らない」
「当たり前だろっ!」

この件で、僕にハングル語習得命令が出てしまった。
語学が嫌いなわけではないが、この忙しいのに勘弁して欲しい。
僕はまだ中学生なんだけどなあ。



タマちゃんにはモデルがいます。てか、ほとんど実話に少し脚色しただけwww
俺が古泉の立場なのは何とかして欲しい。切実に。
それより、陰謀の多丸さんとイメージが違いすぎるのはどうにかならないのかww