堤中納言物語をハルヒでやってみた ~花桜折る少将~
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Bad End注意(ただし、コメディです)

タイトル通り、平安時代の物語を無理矢理ハルキョンに仕立て上げようと書いてしまったものです。
平安時代、ということでちょっと現代とは違う常識があったりします。
キョンも多少は「色好み」を身につけていたかもしれません。

#原典はその光源氏型「色好み」が主人公ですが、相当改竄されています。
#というか、話の流れも原典無視し過ぎです。
#その上、平安時代の常識すら無視しまくっている部分があります。
#古文でたまたまこれをやっている学生さんは、話の流れを掴むことにすら役に立たないのでご注意下さい。

 夢を見ていたわけでもなく、誰が起こしに来たわけでもないのにふと目が覚めた。時間を知るには外の明るさしか目安はなく、その外はもう白み始めているように思えて、俺は寝所を抜け出した。
 もう朝なのかと思えばまだ東の空も真っ暗で、ただ明るいのは月の光が冴え渡り、桜の木々がその光を反射して空と同化しようとばかりにほのかに白く輝いているからであった。
 まだゆっくり寝る時間はあるはずなのだが、この月と桜をもう少し堪能するのも悪くはない。俺は軽く身支度を調えると、月明かりの下で散歩でもしようかと家を出た。

 そうやってぶらぶらとその辺を歩いているうちに、特に桜が咲き誇っている家が目に付いた。思わず足を止めたのは、桜が見事だったからだけではなく、その桜に見覚えがあったからだ。
「確かここに縁のある人が住んでいたはずだな」
 家の様子はずいぶん荒れ果ててて、辺りは人の気配もない。見とがめられる心配もないのであちこち見て回っていると、崩れた土塀から白い衣を来た男性が咳払いをしながらやってきた。
「どうも、通りすがりの執事です」
「いや、そこは時代に合わせて家司とかなんとか言いようがあるでしょうが」
 果たしてこんな荒れた家に家司がいるのかどうかは謎なんだが、本人がそれに近い家政職員を名乗っているのだから深く考えないようにしよう。
「あの、少し聞きたいんですが、ここに住んでいる方はまだいるんですか。久しぶりなので会ってみたいと思ったんですが」
「そのお方はもうここにはいらっしゃいません。どちらへ移られたかも存じ上げません」
 はいそこ、お前は夜中に散歩してるのにいきなり何を訪ねようとしているんだ、なんて思ったのなら時代背景その他諸事情を察してくれ。解らない? なら解らないままスルーすべきところだ、わかったな?
 ともかく、俺の馴染みだった人はもうここには住んでいないようだ。どこへ行かれたかも解らないとは、出家でもしてしまったのだろうか。
 気になったのも確かだが、この通りすがりの執事などという知り合いでも何でもない新川さんにそんなことを気取られるわけにもいかないので、
「すんません、ありがとうございました」
 と頭を下げて、そのままどこへやらと立ち去る後ろ姿を見送った。

 さて、いつまでもここにいても仕方がないか、と思ったのだが、そのとき妻戸が静かに開く音が聞こえてきた。今はどんな人が住んでいるのか見てやれ、という気持ちで俺は桜の季節だというのにまだそのままになっている薄の茂みのもとに隠れて様子を窺うことにした。
 ここでひとつ自己弁護になるのだが、この時代の男がこうやって隠れて屋敷の様子を窺うのは別に犯罪ではない。むしろ、特に男女のことに関して必要なスキルであることは「源氏物語」でも読んでくれれば解って頂けると思う。
 まあつまり、こうやって隠れて見ていたのは「いい女でもいないかな」なんてことを考えていたというのが本音である。

 開いた妻戸から出てきたのはまだ裳儀(女子の成人の儀式。当時は13~14歳で行った)も済ませていない少女だった。はさみ~などと聞こえてきたのは気のせいだと思いたい。
 彼女も月明かりを夜明けと勘違いしたものか、扇で顔を隠しながら外の様子を伺っていたが、月と花を親しい人に見せてあげたい、なんて短歌を引用して口ずさんでいる。そこへまた別の女性がやってきた。
「姫が出かける。あなたは留守居」
 と妙に感情のこもっていない声で言う。この家には姫が居るのか、こいつは運がいいな。
「え~、つまんないな~」
 例の少女はあどけなく膨れるが、どうやら聞き入れられないらしい。
 さて、こんな時代に貴族女性の姿形など見るすべはほとんどなく、こうやって覗き見たところで出てくるわけではない。男はその屋敷の様子や仕える物の立ち居振る舞いからそこの姫君の様子を想像するしかないのだ。なんか男って悲しいな。
 ともかく、この少女の様子を見ていると、その姫君とやらは期待できそうである。しかも、もうじき出かけるようだから、顔はともかく姿は見られそうで、これはこの時代の男としては非常に運がいいのだ。やっぱり悲しいな。

 用意が済んで五~六人が待っている中に、衣装や雰囲気でそれと解る姫君がやってきた。
 よく見てみると、衣を肩にふわりとかけている体つきはとても綺麗で、凛とした立ち居振る舞いは見ていてとても清々しい。こういうときでも姫というのは顔を隠すのが当たり前なのが物凄く残念だ。是非見てみたい、と思ったのも無理はないだろ?
 慌ただしく出立していく様子を見送って、本当に夜も明けてきたので、俺は家に戻ることにした。



 その日の昼間は宮中に出仕して仕事をするよりは同僚の連中と無駄話をして過ごし、晩には父親の邸に顔を出した。父の邸も桜が綺麗で、どうしても明け方に見た姫君の姿が思い出されてしまう。やれやれ、一目見ただけでこんなに気になるとはどうかしてるね。
 もやもやした気持ちを振り払うために琵琶でも適当にはじいていると、一応俺の従者である古泉が傍にやってきた。
「お上手ですね」
「お世辞か嫌味か、どっちだ」
「言葉通りに受け取ってください」
「お前のそういう台詞は信用ならん」
 俺の悪態など全く気にならない様子で、古泉はその顔に無意味な笑顔を貼り付けていた。
「琵琶と言えば、僕が縁ある家にも上手く弾かれる方がいらっしゃいますよ」
「お前にそういう『縁』があるとは知らなかったな」
「勘違いなさらないでください。あくまでも一般的な縁であって、あなたが想像なさっているようなものではありません」
 どちらが貴族か解らないような容貌を見ているとその言葉に信憑性など欠片もないような気がするが、こいつはどうせ問いつめてもするりとかわしてしまうに違いない。
「まあいい。で、その琵琶の名手はどの辺りに住んでいるんだ」
 会話を仕掛けられた以上、興味を持たないのもマナー違反なので一応聞いてみる。
「近衛門の辺りですよ。かなり荒れた邸なのですが、桜は見事です」
 なんだって?
 近衛門の辺り、荒れているが桜が見事な邸。俺が昨日見た姫君の邸じゃないのか?
「おや、ご存知でしたか」
 さて、その邸にどんな縁があるってんだろうね。まさか昨日の少女じゃあるまいな? まだ裳儀前だぞ、幼女趣味かよ!
「ですからそういった関係ではないですよ。ついでに言うなら幼女趣味もありません。ただ訳あって手を組んでいる者がいる、とだけ申し上げておきます」
 何だその含んだ言い方は。何でよその邸の者と手を組む必要がある、そもそもお前は裏で何をやってるんだ?
「それより、何故あなたがあの邸をご存知なのか、その方が気になりますね。あちらの姫君は素晴らしい方だということですが、やはりお目当てはそちらですか」
「そんなんじゃねえよ」
 俺の台詞を古泉はあっさり無視した。
「亡くなった中納言様のご息女ですよ。今度伯父にあたる大将様が養女になさって、内裏にお入れになるということです」
「なんだって?」
 思わず声を上げてしまってから慌てて口をつぐんだが遅かった。古泉の目は明らかに面白いものを見た、と言っている。
 内裏に入れる、ということは帝の后になるということだ。そうなってしまっては、俺たち一般貴族にはもう手の届かない相手となってしまう。
 だが、まだ文もつけたことすらないってのに、いや、例え文を出したとしても入内を考えているのなら取り次いではもらえないだろうが、とにかくどうしようもないだろう。
「お会いしてみますか」
「お前は何を言っているんだ」
 だから向こうは俺を認識していないってのに、どう橋を渡すつもりだ。
「そこはお任せ下さい。先ほど申し上げたように、あちらの邸とは縁がありますからね」
「要らん気を回すな」
 俺が断るのも聞かず、古泉は嬉しそうにその場を立ち去ってしまった。なんでこう、人の話を聞かないんだ。


 しばらく経ったある日、古泉はやけに嬉しそうな顔をして俺のところへとやってきた。
「上手く行きましたよ。今夜、あの邸においで下さい」
「だから要らん気を回すなと言っただろうが」
「もう手はずは整えてしまいましたから」
 こいつはこういう手回しが非常にいい。便利と言えば便利だが、その分ときどきこうやって遊ばれている気にもなってしまうのが欠点だ。
「入内前の邸で何かするのは危険ですから、お連れしてしまえばよろしいでしょう」
 おい、また凄いことをさらっと言うな。
 一応言っておくが、この時代では場合によっては犯罪ではない。男も色々面倒だが、考えてみりゃ女性も大変だ。

 その夜更け、なんだかんだ言いつつ古泉の作戦に乗っている俺自身を少し嫌悪しながら、その古泉の車で例の邸へと向かった。車の中でもまだ躊躇しているのだが、ここまで手はずを整えてくれたんだから乗らないのも悪い、などと心の中で言い訳をしてみる。
 ここまで来て逃げるのも男としてどうかと思うし(時代背景を考慮してくれ)、まああの姫には正直会ってみたいような気もするしな。
 やがて車は止まり、俺は古泉の指示通りにそっと邸の中に入っていった。

 母屋へと案内する女房(貴族の家に仕える女性。嫁のことではない)は、すでに古泉が言っていた場所で待っていた。
「……」
 夜を塗り込めたような瞳で俺を見る女房は、この前少女に話しかけていた者に違いない。しかしなんでまた何も言わずに見つめているんだ。値踏みでもしているつもりか?
「……こっち」
 やがて女房は俺を案内して歩き始めた。
「……ここ」
 案内してきた女房がある部屋の前で立ち止まると、俺ははやる気持ちを抑えきれずにその部屋へと入り込んだ。
 部屋に入ってみると、灯りが遠く物の後ろへと下げられていて、ほとんど目が利かないが、それでも誰かが床で寝ているのが見て取れた。
 考えている暇はない。もし騒がれでもしたら、俺は慌てて逃げ出さなければならないのだ。
 俺はその寝ている人を抱き上げて今来た道を戻って車に乗せ、急いで連れ去ろうとした。
「何なんですか、一体」
 抗議の声は言葉の割にヤケに落ち着いている。全く動じていないってのもどうかしているんじゃないのか?
「今夜、あなたがいらっしゃることは解っていました。ですから、我々も最初から対処させて頂いていた次第です」
 車を待たせている場所まで連れてきて、抱き上げていた姫を一旦おろす。今夜も月が明るく、その相貌ははっきりと見て取れた。

 次の瞬間、俺は腰が抜けそうになった。確かに予想に違わぬ美人だ。だが、これほどの美人がその顔に浮かべている微笑みは妖絶としか言いようがなく、その笑顔だけで人が殺せそうな勢いだ。
「あ、あなたは一体誰なんですか」
 かろうじて俺の口からこぼれ落ちた質問に、彼女はその笑顔を職業的とでも言える物にがらりと変化させた。

「どうも、通りすがりのメイドです」
「いや、だからそこは時代に合わせて女房と言うべきでしょう」

 思わず入れた俺のツッコミは無視、再び凄みのある顔に変化して、俺はその場を逃げ出したくなった。
「入内前の姫様に、あなたはなんてことをなさろうとしたのです」
 いや、まあ、だからこそ、なわけで。綺麗な桜枝は折って手元に置いておきたくなる、そういうものでしょう。
 などと言い訳しても絶対受け入れられないような雰囲気だ。
 怖い。滅茶苦茶怖い。
「この場は見逃して差し上げてもよいのですが、また同じようなことを企てないとも限りません」
 声に毒を含んでいるんじゃないのか? というくらい怖い。いや、もう二度とやりませんから、てか出来るわけ無いでしょう、あなたがこうやって出てくるのにまた姫をさらうなんて企てる奴など日本中探したっていませんから!
「ですから……」
 ちょ、その拳はなんですか? この時代の女房はそういった動きが出来るわけもないじゃないですか、時代考証無視ですか??

「 天 誅 !!」

 その女房の拳は見事俺の顔面をとらえる。
 おい、古泉、何やってるんだ、主のピンチに助けなくてどうする。

「無理です、彼女に敵う者など『機関』にすらおりませんから」
 なんだよそのキカンってのは!

 なんとかそれだけツッコミを入れると、俺の意識はそこで途絶えたのだった……。



  Bad End.


堤中納言物語について知りたい方はググった方が速いですw
一応古文そのものに当たりましたが、大伴茫人氏の改訂訳を参考にさせて頂きました。

原典では、何でも完璧にこなす色好みの主人公が、姫をさらうって話の流れは同じですが、もちろん従者より少将(伝本によっては中将)本人が指示してやっています。
冒頭、夜の散歩は実は女の家から帰るところなんですが、ハルヒスレ投下を意識して単なる散歩に変更。当然後朝の歌のシーンもなしになりました。
途中少将が和歌を詠むことにも優れている描写、そして琵琶のシーンでは桜も恥じ入るほどの美しさを誇る完璧な人として書かれています。
これらがオチを強めるのですが、ここはキョンですのでバッサリ落としましたw
そして、オチの部分は、さらったのは姫君のおばあさんである尼君でした、という話。
堤中納言物語でも一番のコメディです。
スレに投下したものはコメディ要素を排除してしまっているので、あえて原典のコメディ色を残したものも紹介したくなってやってしまいました。

スレに投下したハルキョンエンドはこちら
#まとめ人さん、いつもありがとうございます。
ハルヒらしい姫の住まう邸に行くまでの流れは全く同じなんで、途中まですっ飛ばしてどうぞ。