北高2年5組の謎 前編(オリキャラ注意)
中編 | 編集

注:オリキャラ視点で話が進みます。
前編 中編 後編

 プロローグ

 わたしは北高に通う女生徒よ。名前? そんなのどうでもいいでしょ。数あるモブキャラの1人と思ってくれればいいわ。アニメでは苗字はあるだろうって言われても、誰って特定されるのが嫌なのよ。
 あ、しゃべり方で、犬に憑依する幽霊騒ぎをSOS団に持っていった誰かさんじゃないってことは悟ってね。彼女はすでにモブキャラの枠を逸脱してるじゃない?
 もちろんカナダに引っ越した元委員長でもないわよ。彼女は最初からモブキャラじゃないんだから。

 わたしは去年は1年5組で、今年はクラスのメンバーがほとんど変わらないまま2年5組になったの。このクラスには学校1の有名人がいるわ。
 その名は涼宮ハルヒ。とても美人だけど、とても変人。
 入学したときの自己紹介からぶっ飛んでたわ。宇宙人だの未来人だの超能力者だの言ってるんだもん! 高校生にもなってよ? 信じられる?

 でも、最近の涼宮さんは以前ほど変人じゃなくなっている気がするのよね。やっぱり彼の影響かな……。
 その彼とは、やっぱり同じクラスで、涼宮さんの作ったクラブみたいなのに入っているキョンくん。本名は……何故か同じクラスなのに知らないの。たぶん、誰も知らないわ。ありえないでしょ? 涼宮さんが不思議な現象を探してるって言ってたから、彼に眼をつけたのはそのせいかもしれないわね。

 彼は割と普通の人に見えるし、顔は悪くはないけどどっちかと言うと地味な人。成績も……クラスでは下の方よね……。
 だから、涼宮さんが彼と仲良くなった理由がわたしにはさっぱり解らなかったの。クラスメイトもみんな、2人の関係は知ってるけど、何で彼なのか、はさっぱり解ってない。涼宮さんが普通の人だったら、単に好みかな?って思うんだけど、そうじゃないから不思議よね。やっぱり名前のせい……って、それは単なるネタだから。本当は名前はちゃんとあるのよ。
 ちょっと好奇心が沸いちゃったわね。
 調べてみようかしら? ちょっと探偵ごっこ風にね。調べるのは涼宮さんとキョンくんがいないときよ、もちろん。



 1.クラスメイトの意見

 まずはキョンくんと仲がいい谷口くんと国木田くんに聞いてみようかな。
「キョンは昔から変な女が好きだったからね」
 中学から仲がいいって言ってた国木田くんの証言。
 ― なるほど、変な女……確かに涼宮さんは変わった女の子だと思うわ。
「でも面食いだと思うよ。中学時代もね……」
 ― ふむふむ、中学時代も美人で変人な女性と付き合ってたんだ。
 その彼女はどうしたのかな?  ちょっと気になるけど、今は涼宮さんがいるからきっと別れたのね。へ~意外、キョンくんは昔からもてるんだ~。

「でもさー、キョンはよ、いつも『俺とハルヒはそんなんじゃねぇ』とか言いやがるんだぜ」
 ― え? そうなの? 谷口くん。とてもただのお友達には見えないわよ。
 ― どんなに仲良くたって、友達とは授業中まであんな頻繁にコソコソおしゃべりしないわよ。
 ― だいたい、キョンくんは涼宮さんを下の名前で呼んでるじゃない。
 ― キョンくんは普通のお友達をファーストネームで呼ぶようなタイプには見えないわよ。
「そーだろ! ほんと、アイツが自覚ねぇだけなんだよ、まったく……」
 我が意を得たり、と言った顔で谷口くんは相づちとも愚痴ともつかないことを言った。国木田くんも隣でうんうん、と相づちをうっている。
「佐々木さんのこともそう言ってたからね~」
 佐々木さん? あ、さっき言ってた中学時代の彼女か。って、中学のときも同じようなこと言ってたの!? キョンくんって!
 一体キョンくんはほんとに無意識にやってるのかしら、それとも極度の照れ屋?

 結局この2人の調査では、キョンくんが無自覚に変な女が好きってことしか解らなかったわ。
 わたしが知りたいのは、何で涼宮さんがキョンくんを?ってことなのに。

 クラスの女の子たちにも聞いてみよう。

「考えたこともないよ。1年の最初の頃から仲いいじゃない」
「そうよねー。いつの間にか、って感じだし……。今更じゃない?」
 ― う、それはそうなんだけど、何かふと気になったんだもん。
「あんたまさかキョンくんのこと……」
 ― それはない!! だいたい意識するほど親しくもないししゃべったこともほとんどないし。
「そう? まあいいけど。でも言われてみれば気になるわよね」
「何かキョンくんが引っ張り回されてるみたいだけど」
「そうね。尻に敷かれてるって感じ? あ、だからキョンくん何じゃない?」
 ― なるほど。確かに涼宮さんは言うこと聞いてくれる人じゃないとダメそう。
「でも、涼宮さんは何だかんだ言ってキョンくんの意見も聞いてるみたいなのね」
 そっか。一方的に言うことを聞かすばかりじゃないんだ。

「えー? じゃあなんだろう。席が前だからじゃない?」
 ― ちょっとその理屈じゃ、クラス中が前後の席でカップルになるじゃない。
 ―そう言えばあの2人、1年のときからずっと席が前後じゃない?
「あ、言われてみればそうね。よく考えたら不思議よね。今まで何とも思わなかったけど……」
「きっと、運命の2人なのね!」
 なんかキラキラした目で妄想を広げている1人はおいといて、わたしを含めて誰も席替えの謎に気付いてなかったわ。
 そう、キョンくんと涼宮さんは何度席替えをしてもずーっと同じ位置にいるのよ。
 不思議だし不自然なのに、誰もそれに気付いてなかったみたい。

 また謎が増えたわ。きっと、この謎が解けたら、涼宮さんがキョンくんを選んだ理由も解るのかしら?



 2.SOS団員の意見

 やっぱり、クラスメイトの調査だけじゃ解らないわよね。もっと2人と親しい人に聞いてみないと。
 2人と親しいと言えば……SOS団! うん、口にするのがかなり恥ずかしいネーミングだわ。
 あ、次は体育だったわ。合同授業だし6組に長門さんがいるから、こっそり聞いてみちゃおう。

 涼宮さんは遠くにいるわね、よし、今のうち!
 ― あのー……長門さん?
「なに」
 ……話しかけても本から顔を上げずに答えられちゃった。6組の子は、長門さんはいつもこうだから気にしないでって言うけど、結構凹むわよ。
 ― ていうか、何で体育の授業中に本読んでるの! 先生も注意しないの?
「別に」
 注意しないんだ……。
 それより、気を取り直して、肝心なことをズバッと聞かなくちゃ答えてもらえなさそう。
 ― あの、涼宮さんとキョンくんのことなんだけど。
「……」
 あ、長門さんが顔を上げてくれた。やっぱり友達のことだと気になるのかな?
 ― なんかね、涼宮さんが何でキョンくんを選んだのかなって気になって……長門さんは知ってる?
「………………………………」
 長門さん、なんかそんなに見つめられたら照れる……じゃなくて、何か怖いんだけど。
「不明。ただし、推測は可能」
 ― 推測? はっきりは解らないけど見当はついてるってことよね!
「そう」
 ― 教えてくれる?
「……禁則事項」
 ― え? キンソクジコウって何? 禁足?

「有希────!」
 ― あー、涼宮さんがこっちに来ちゃった。この話はもうおしまいね。
 涼宮さんはわたしと長門さんを不思議そうな顔で交互に見比べて聞いてきた。
「何話してたの?」
 う、それは……。わたしが答えられないでいると、長門さんは平然と答えた。
「ローレンツ変換が特殊相対性理論の基盤の1つになったか。わたしは否と答えた」
 えっと、長門さん、何を言っているのかまったく解らないんだけど……。涼宮さんはちょっと意外そうな顔をしてわたしをみた。当たり前よね。
「へー、あんたそんなことに興味あるんだ。でもあたしも有希と同意見だわ」
 えっと、ごめんなさい、さっぱりわかりません……。

 わたしはそそくさとその場を離れるしかなかったの……。

 でも、1つはっきりしたことがあるわ。SOS団の人たちも、涼宮さんとキョンくんはそれなりの関係って考えてるってことよね。「選んだ」って部分を否定しなかったもん!


 SOS団の他の人たちと接点がないわたしは、3年生の廊下をウロウロしてみた。したってしょうがないんだけど、もしかしたら……ほら、バッタリ会うってこともあったわけよ! ここで会うまでに苦労すると、話が長くなるだけだって都合は無視しちゃってね。

 ― あ、朝比奈みくる先輩ですよね!
「ふえ? は、はい、そうです。何かご用ですか?」
 うわ、近くで見るとめちゃくちゃ可愛い! 女のわたしでもどうにかなっちゃいそう。あれ? このセリフ、違う人がどっかで使っていた気がするけど、ま、いっか。
 ― あの、涼宮さんとキョンくんのことなんですけど……。
「え? ええ? な、何かありました??」
 何でこの人こんなに焦ってるんだろう。焦ってる顔も何かすごくはまってて、やっぱりものすごく可愛い。
 ― いえ、ただ、何で涼宮さんがキョンくんを選んだのかなって疑問に思っただけです。
「え、えーと、キョンくん優しいですよ?」
 にっこり笑って答える朝比奈先輩。男の人は何でも言うこと聞いちゃいそうだなぁ。でも、キョンくん優しいんだ。ほとんど話したことなかったからなぁ。
 ― 朝比奈先輩相手だと、ほとんどの男の人が優しくなりそうですけど。
「そ、そんなことないです!」
 あ、また焦ってる。しつこいけど可愛い……女のわたしでも見とれちゃうくらい。

「みっくるー! そんなところで何話してるんだいっ!」
 思わず見とれていたら、やたら元気な声が飛んできた。
 あ、この人も知ってる。鶴屋先輩だ。この人も学内有名人だもの。良く知らないけど、すごい家柄の人だって噂よ?
「あ、鶴屋さん。えーと、この方が、涼宮さんがキョンくんを選んだ理由を知りたいって……」
 わ、何かあらためて人の口から聞くと、わたしはかなり怪しいじゃない? 何でそんなこと知りたがってるんだろう?
「ふ~ん」
 鶴屋先輩はわたしの顔を覗き込んで、ニコリと笑った。
「お年頃だねっ お嬢ちゃん!」
 そう言ってわたしの背中をバシバシと叩いた。
 ― あの、痛いです……。
「あははっ ごめんにょろ!」
 屈託なく笑われると、怒る気にもなれない。心の底から明るい人みたいね。すごいわ。
 ― 鶴屋先輩はさっきの質問、わかりますか?
 せっかくだから聞いちゃうもん。背中痛かったし。
「さあ? キョンくんも普通の人じゃないってことなんじゃないかな! ねっ みくるっ!」
「へ? ええ? つ、鶴屋さん、そんなわけないじゃないですか~!」
 なんか、朝比奈先輩はどんどん焦って行くんだけど、ほんとに何かあるのかしら?
「あははっ! 冗談さっ ごめんよっ! キョンくんは普通の人さっ!」
 心なしか“キョンくんは”の部分を強調していたような気がする。
「じゃっ、移動教室だからっ! またいつでも遊びにおいでっ!」
 そう言って、鶴屋先輩は朝比奈先輩を連れて行ってしまった。

 何だかますます訳がわからなくなっただけだったわ。



 SOS団の残る1人、古泉一樹くん。彼も、SOS団を抜きにしてもとても有名人。2年の女子の半数は知ってるんじゃないかしら? とにかくかっこいい。近くで見るとなおさら。朝比奈先輩と並ぶと、まさに絵に描いたようなカップルに見えるでしょうね。
 涼宮さん、近くにこんなかっこいい人がいるのに何故? って言ったら、キョンくんに失礼ね。

「僕に何かご用でしょうか」
 柔らかい物腰と笑顔でわたしに語りかける古泉くんに、思わず赤面してしまう。この人は誰に対してもこんな話し方するのかしら? 同学年なのに。
 ― えっと、涼宮さんが何でキョンくんを選んだのかが知りたいんだけど。
 わたしの質問に、ちょっと驚いたみたい。
「これはこれは。何故またそのようなご質問を?」
 一瞬見せた驚きの表情をすぐに戻して、元の笑顔で質問返しされちゃった。そりゃそうよね。いきなりこんなこと聞かれたら誰だって驚くわよ。
 ― なんとなく……。
 他意はないのでそう答えるしか出来ないわ。
「そうですか……」
 古泉くんは値踏みでもするようにわたしを見つめた。思わず赤面して俯いてしまう。
「わざわざお越しいただいて申し訳ないのですが、僕も答えを持ち合わせてはいないんですよ」
 少ししてから古泉くんはそう言った。
 ― 古泉くんも、2人はそういう関係だと思うの?
「そうですね、そうとも言えますしそうではないとも言えます」
 ― 意味がわかりません。
「申し訳ありません。ただ、本人たちが自覚がないのに付き合っているとは言えないのではないかと」
 ― やっぱり自覚がないんだ。あれだけ解りやすいのにね。
 古泉くんは苦笑した。
「まったくです」

 ふーん、そっか。じゃあ、SOS団の人たちも、クラスメイトとあんまり変わらない認識だったんだ。

 そうだ、もう一つの疑問を忘れていたわ!
 ― あの2人、1年生のときからずっと同じ席なのは何でかな?
 わたしの質問に、古泉くんははっきりと驚いた顔を見せた。さっきみたいに一瞬じゃなくて、なんか仮面がはずれたみたい?
 ― もしかして、クラスが違うから知らなかったの?
「いえ……僕もその疑問に思い当たらなかったもので……」
 何となくはっきりしない物の言い方だけど、よく考えたらわたしもさっきまで思い当たらなかったもんね。古泉くんもそうなのかぁ。きっと、他の人もみんなそうなんだろう。

 結局、この謎は解けないままなのかな?
 所詮付け焼き刃の探偵じゃ、小説の探偵みたいにズバッと真相がわかるなんてことはないわよね。



 一通り聞き取り調査を終えたけど、たいした進展はなかったわ。
 涼宮さんとキョンくんは、はたから見れば付き合っているように見えるけど、本人たちに自覚はない。
 座席の謎は、たぶん誰も理由が解らない。

 たいしたっていうか、最初から解ってることしか解ってないじゃない。