捧げ物 | 編集

昔、R254様ポクロウタ様の合同誌に寄稿させていただいた物です。配布は終了しているようです。
オンラインで適当にやっている身としてはどう書けばいいのか解らず、結果、無理しすぎだろこれという内容になってしまいました。その割にタイトルは適当ww
なんというか、ごめんなさいorz

 魂が、持って行かれそうだ。

 爛漫と咲き乱れる桜、その背景を彩る青い空と白い雲、それらを見上げているうちに頭の中が空っぽになって、心が吸い込まれそうになる。
 桜には、そんな不思議な魅力があると思わないか?
「あんたなに言ってるのよ。マヌケ面に磨きがかかってるだけじゃない」
 俺の詩的な(?)表現をあっさり一蹴したのはご存じSOS団団長、唯我独尊傍若無人傲慢無礼、涼宮ハルヒである。
「マヌケ面で悪かったな」
 俺がそういって視線を頭上から移すと、ハルヒは満開の桜に負けない笑顔になった。
「まあでも、言ってることは解らないでもないわ。桜ってなんだか、一種の神秘的な空気を辺りに撒き散らしているみたいだもの」
 だから人は桜に酔うのかしらね、と続けるハルヒの横顔を眺めながら、珍しく今日、探索の班分けがハルヒと二人になった理由を、俺は考えていた。
 いや、本当に単なる偶然で、理由なんてないのかもしれない。しかし、これまで何度もやってきた不思議探索とやらで、それこそどういう偶然なのか、俺はハルヒと同じ班分けになったことが一度もない。それはそれで変な話なのだが。ハルヒはいつもの探索で、そんなに俺と行動したくなかったのか?

『そこに涼宮さんの葛藤が見えると思うのですが』
 唐突にニヤケ面の言った言葉が思い出されて、俺は顔をしかめた。葛藤ってなんだよ。あいつに何が解っていると言うんだ。
 いずれにせよ、確率論なんて隅っこを囓ることも断りたい俺でさえ、今までハルヒと一度も行動をともにしなかったことは偶然と言えないくらいの数値がはじき出されることくらいは想像できる。
 じゃあ何故、今日に限って、ハルヒは俺と二人という組み合わせを選んだんだ?

「考えるだけ無駄なのかもな」
 そもそもハルヒの行動に対して理由を求めること自体が間違っているのだろう。そうやってハルヒの行動理由を解説するのは古泉の役割だし、その古泉の説明だって俺が納得できるような代物ではない。
 だから、考えたって無駄なのだ。
 俺はもう一度、満開の桜を見上げた。
 桜は生命のありったけを燃やすように咲き誇り、見る人の心を奪う。そうやって奪われた心の中は、空っぽになってしまうのだろうか。
 今、俺の心の中に何が残っているのだろう。
 のんびり桜を見上げている間に、ハルヒは数m先へと進んでしまっていた。その背中は日の光を浴びてほのかに輝いて、同じように煌く花びらを翼に変え、今にも飛び立ってしまうような気がした。
 陽光が跳ねるハルヒの後ろ姿に、俺はしばらく見惚れていた。
 突然、ある衝動が俺を支配した。
 
「キョン?」
 驚きを含んだハルヒの声で、我に返った。
 ハルヒが驚くのも無理はない。何より俺が一番驚いているのだから。
 俺は、ハルヒを背中から抱きしめていた。
 まったく意識せずにした行動を俺自身が信じられないまま、それでも離したくないと思っている。このまま抱きしめていたい。
 なあ、今日、二人でこの桜並木を歩いているのは、お前がそう望んだからなのか? この満開の桜を、二人で見たかったからなのか?
 そう期待していいのか?
 
「ハルヒ」
 ぴくりと震わせた細い身体をいっそう強く抱きしめる。それでも振り解こうとしないのは、不意を食らって戸惑っているのか、そうじゃないなら都合のいいように解釈するからな。
「どうやら俺は、お前のことが好きらしい」
 たった今自覚したことを素直に口に出来たのは、きっとこの桜に心の一部を奪われてしまったからにしておいてくれ。
「何よそれ。もっとはっきり言いなさいよ」
 ようやく口をきいたハルヒは、軽く身をよじって俺の腕から逃れた。
「すまん」
 はっきり言えばいいのか? と思った俺をハルヒは睨み付けていたが、思いがけない笑顔になった。
「あんた、髪の毛に花びらが付いてるわよ」
 おかしそうにそう言って手を伸ばし、俺の髪の毛に触れた。顔が近い。
 ふと視線が絡み合い、ハルヒが微笑んだ。
 その微笑に、心が吸い込まれるような気がした。
 
 魂も、きっと、最初から奪われていた。


  おしまい。