北高2年5組の謎 後編
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これはキョン視点なんだが、これだけ読んでも意味がわからんわけで。
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 5.真相

 異常に神経が疲れた居残りもようやく終わったが、俺は新たな団長命令を受け、それを実行するにあたり、長門の家に行く時間は大幅に遅れることとなった。
 つまり、団長様は俺に家まで送れと言って来やがったのだ。
 俺は光陽園駅に自転車をおいていて、ハルヒの家は駅に寄らない方が近いのでいつも手前で別れるのだが、今日は駅まで着いてきた。そして自転車2人乗りでハルヒの家の近くまで送っていき、別れ際にまた命令が────いや、それはいい。どうでもいい。いや、良くないがここではいい。
 思い出すとまた赤面ものだが、それでも俺はもう首吊りてえとは思わなくなっていた、とだけ言っておこう。

 まあ、そんなこんなでようやっと俺は長門のマンションにいる。
 ついでに所有者の宇宙人はもちろん、未来人と超能力者までいる。今回の件はそんな大がかりにみんな絡んでたのか?
「そう言うわけではありませんが、結果的に全員関係あったので、僕たちも真相が聞きたいんです」
 なるほど。とりあえず長門に話を聞こうか。
「ええ。その前に、おめでとうございます、と言っておきましょう」
「……殴るぞ」
 ああ畜生。やっぱり宇宙人と未来人と超能力者を出し抜くなんて出来るわけねぇ。すべてお見通しかよ。敵うわけない相手だと解ってても腹が立つ。
 だが、ここで古泉に冷やかされるだろうことは実は想定の範囲内だったので、軽く殴ってすましてやることにした。それより、今日の話だ。あれはいったい何だったんだ?
 長門は全員に茶を入れると、いつもの平坦な声で話し始めた。
「あなたと涼宮ハルヒの座席が席替えで変わらないのは、涼宮ハルヒの能力のため」

 長門流の話し方で長文を書くのはこのSS作者の技量では不完全なので、俺がまとめさせて貰う。

 俺にも解っちゃいたが、席替えでも俺とハルヒの座席が固定なのはハルヒの変態パワーによる物だった。それだけでなく、クラスの連中や先生も疑問に思わないよう、無意識に情報操作をしていたらしい。その情報操作はハルヒ自身にもおよび、席替えで席が替わらないのは当たり前くらいに思ってやがる。
 なんて都合のいい奴なんだ。
 しかし、ハルヒが重視していたのは席替えの位置関係であり、それを疑問に思われることはさほど重要ではなかったらしい。だから、最初から情報操作には綻びがあった。
 完璧主義者のハルヒにしては珍しいミスじゃねぇか。

「もしかしたら、誰かに気付いて欲しいと思っていたのかもしれません」
 思わせぶりなセリフを古泉が言った。そりゃどういう意味だ。
「言葉通りの意味ですよ。涼宮さんがあなたに前の席にいて欲しいと願っていることを、周りの人たちに知って欲しいとも思っていた可能性があります」
 なんだそりゃ。ハルヒは露出狂かなんかか。
「いえ、いわゆる公認カップルというものへの憧れでしょう」
 ……なんつー恥ずかしい奴だ。俺はさっきの団長命令を思い出して頭をかきむしりたくなったが、何とか我慢した。

 それはともかく、その綻びに目をつけたやつがいやがった。
 それは────

「喜緑江美里を作り出した、統合思念体の一派」

 喜緑さん? 急進派じゃないのか。穏健な一派だと古泉が言っていたような気がするが。
「そう。今回は、主流派と意見が合わなかった」
 つまり、穏健派は、ハルヒに刺激を与えてみようと思ったわけだ。
 席替えの不思議に自分自身で気付く。それがどういうことか考える。それを危険と思わなかったのか? ハルヒが自分の能力に気付くのはまずいんだろ?
「穏健派はある程度の揺らぎは観測できるが、最終的に常識的な理由付けを為すと予測した」
 あの状況でどうやって常識的な理由をつけるのかね。誰かがたくらんだとかか?
「で、主流派は違ったのか」
「涼宮ハルヒの行動分析から、些末な事象から真実に到達するおそれがある、と判断した」
 俺もそう思うぜ。穏健派はハルヒの勘の良さを見くびってるんじゃないか。さすが、長門が付き合いが長いだけあって、正確な分析をしてくれるようだな。
しかし、具体的にはどうやったんだ?

「彼女を利用した」
 この彼女とは、もちろん前半語り手をやっていた彼女だ。名前を付けなかったので代名詞で許してくれ。
 穏健派は、彼女の疑問を上手く誘導する形で情報操作をした。もともとの意識をわずかに向きを変えるような操作で、長門も気がつかなかった。彼女の持つ疑問から、「何故席替えのたびに俺たちの席が変わらないか」という疑問に向かせるために。
 そして、彼女がその疑問をはっきりさせるたびに、他の連中も同じ疑問を思い出していけるようになっていたらしい。ハルヒの能力で完璧に情報操作されていたなら、これは最初から上手く行かなかったそうだ。
 まったく、中途半端なことしやがって、はた迷惑な奴だ。

 で、彼女が持っていた疑問って何だ?

「彼女は僕らに、『涼宮さんがキョンくんを選んだのは何故か』と聞いて回っていました」
 ……なんじゃそりゃ。僕らって誰だ? 古泉は彼女と面識があったのか?
「面識があったのは、合同授業のあるわたしのみだったと思われる」
 長門が言った。
「あ、でもわたしのところにも来ましたよ~。鶴屋さんにも聞いてましたし」
 朝比奈さんのところにも? 誰かさんのように無駄に行動力があるな。
「僕も面識はありませんでした。教室の前で呼び出されましてね」
 ずかずか入ってネクタイ引っ張って来ないだけましか。
 しかし、何でそんな疑問を持ってたのか? 彼女は。『選ぶ』って、『鍵』とか何とか言ってるのはお前らだけだし、何でそんな疑問になるのかもわからん。
「この疑問自体、すでに操作されていたもの。根本の疑問は、今日あなたがされた質問」
 あー。あれか。もう思い出したくもないが。

『キョンくんは、涼宮さんと付き合ってるの?』

 谷口といい、何故みんな同じこと言うのか。
「それは、あなたがたの周りの人間が共通に持つ疑問ですよ」
 古泉が苦笑混じりに言った。何か腹が立つ。
「ただ、彼女はその疑問に対する思いが少し強かったのでしょう。だから目をつけられた」
「なんでだ?」

 俺が聞き返すと、3人ともだまって俺を見つめた。
 何だいったい?

 しばらくの沈黙の後、誰ともなく溜息をついて、それぞれ口にした言葉は……

「本当にあなたと言う人は……」
「キョンくん、その、もうちょっと……」
「鈍感」

 いや、待て。本当に解らないんだが。

 古泉は嘆息すると、お得意の解説を始めた。
「これはあくまで僕の推測ですが。彼女は、割と行動的で、単独行動を苦にしない人ではないですか」
 そう言われてみればそうかもしれない。社交的でもあるので単独行動をしているところをそんなに見た覚えはないが。だいたい、たいして親しくないクラスメイトがどう行動しているかなんていちいち気にしちゃいない。
 だが、今日の古泉や朝比奈さんのところへの突撃を見れば、そういう性格なんだろうと納得も出来る。
「ええ、彼女の座席に関する質問には正直驚かされましたが。ところで、その行動形式は誰かと似ていませんか?」
 行動的で単独行動を苦にしない。行動的どころじゃないが、まあハルヒがそうだな。
 SOS団で行動するのが基本だが、相変わらず休み時間などは1人でどっかに消えてしまうことが多い。
「そして、あなたはその涼宮さんの無茶とも言える行動に、文句を言いながらも付き合っている」
 ああ、何故か関わり合いになっちまったからな。こうなったら腐れ縁だとも思ってるぜ。犯罪じゃなきゃとことんまで付き合ってやるって気にもなっている。
「あなたは、基本的な部分では涼宮さんに賛同して行動しているんですよ。自覚なさっているかは解りませんが」
 ああ、少し前までの俺ならまったく自覚はなかったがな。今の俺は好きでやってるってのをはっきり解ってるぜ。忌々しいことにな。
「そういうあなた方の関係をうらやましく思ったんですよ、彼女は」
 なんか一足飛びに結論に来たな。何でそういう結論になるのか俺にはまったく解らん。
「涼宮さん程ではないにしても、彼女はあまり周りにとらわれずに行動してみたいと思うことがあるのでしょう。そして、そのときにそばに理解者が欲しいと思った。涼宮さんのそばにあなたが居るように」
「理解者ならイエスマンのお前の方が適任だと思うんだが」
 俺はどっちかと言うと文句の方が多い気がするけどな。
「いえ、何でも賛成するのは理解者とは違います。それに彼女は僕をよく知らないはずですし」
 そりゃそうだ。つーことは、俺はいつの間にかハルヒの理解者って立場になっちまってたのか?
「お気づきになっていませんでしたか。最初からそうじゃないですか」
 最初から?

「SOS団設立から。もっと言えば、髪型について指摘したときから。そして、涼宮さん本人からすれば、4年前の七夕から」

 そんな深い意味があっての行動じゃねぇよ。だいたい七夕は俺だと思ってないはずだ。
 それより、結局彼女は何が欲しかったんだ? ハルヒに取っての俺みたいな奴? それが何であんな質問になるんだ。

 古泉はまた深々と溜息をついた。何か癪に障るな。俺の理解力がそんなに悪いのか?
「今までの話はもちろん僕自身の仮説で、彼女に確認を取ったわけではありません。しかし、当たらずとも遠からずと思っています」
 憶測かよ。まあ、それはいい。で、結局何なんだ?
「彼女はあなたに好意を持っているんですよ。涼宮さんに接するように自分にも接して欲しいと思っているんでしょう」
 なんだって? いや、それはあくまでも憶測だろ。そんなわけあるか。
「まあ、彼女自身、気がついていない可能性も高いのですが」
 気付くも何も、ほとんど会話もしたことないようなクラスメイトを好きになる奴なんかいないだろう、普通。これは古泉の戯言だろう。
「そうお思いならそれでもいいですよ。あなたが大事に思って欲しい方は別の女性ですから」
 わざわざ遠回しにいいやがるぜ。

 朝比奈さんはニコニコ笑って、長門は無表情に話を聞いていた。

 古泉を含めて3人とも、今日あったこと、全部解っているんだろう。
 俺にも開き直りが必要だな。

「僕は彼女に感謝したいですね。おかげであなた方が素直になるきっかけが出来た」
「そろそろその口を閉じないと本気で殴るぞ」
 いや、やっぱり簡単に開き直るのは無理か。
 俺はもう帰るぞ。ここにいて弄られるのは敵わん。

 長門、お茶ごちそうさま。

「キョンくん、涼宮さんと仲良くしてくださいね」
「幸せに」

 そんな言葉に見送られ、俺は帰途についた。

 やれやれ……。

─────閑話─────

 キョンが去った長門有希のマンション。
 3人がまだ残って話をしている。

古「まったく、彼は本当に鈍いですね。今回、せっかくむこうが仕組んでくれたのだから上手く行って欲しいとは思っていましたが」
み「ほんとですね。でも鈍いのがキョンくんですね」
長「便乗キューピッド」

古「ああ、お礼を言わなければ。長門さん、ありがとうございました」
長「構わない。統合思念体の内部の問題。こちらですべて処理出来なかったのはわたしの責任」
古「しかし、彼女が座席のことを聞いてきたときには肝を冷やしましたよ。誰も疑問を持っていないことを確認していたんですから」
み「それで、長門さんに話しにいったんですね」
古「そうです。原因を排除して情報操作をし直すのは長門さんしか出来ませんからね」
長「彼女が最初に話しかけてきたとき、気付くべきだった。うかつ」
古「それは仕方なかったんでしょう。お気になさらないでください」
長「……」

 長門有希はわずかにうなずいた。

み「わたしは、鶴屋さんが『キョンくん“も”普通の人じゃない』なんて言い方したことにびっくりしました~」
古「おや、鶴屋さんがそんなことをおっしゃっていましたか」
長「問題ない」
み「そうなんですか? わたし1人で焦っちゃって……」
長「彼女が何を知っていようと問題ない」
み「それって……」

 朝比奈みくるは青ざめた。


 古泉一樹は微笑んでいる。


────閑話休題────


 俺は帰る途中、古泉の言葉を反芻していた。
 彼女には悪いが、好意がどうとかってことはそんなに気にならなかった。所詮古泉の憶測だ。違うクラスの知らない奴のことを理解するなんてあいつでも無理だろう。
 それよりひっかかっているのは、俺が最初からハルヒの理解者だってことだ。
 あの七夕の日、俺はハルヒの目にはどう映っていたのだろう? ハルヒに言われたくはないが、変な奴と思われたはずだ。その変な奴が協力したことによって、自分を理解してくれると思ったのだろうか。
 ハルヒは、ずっと自分を理解してくれる誰かを捜していたのだろうか?



 エピローグ

 それから数日後の日曜日。
 俺はハルヒに誘われて2人で出かけることになった。まあ、何かくすぐったい気分だが、いわゆるデートってやつだ。
 前日の土曜日は不思議探索で(班分けは違ったが)会っていたわけで、とうとう俺は1週間すべてハルヒに潰されることになっちまったわけだ。今となってはそれも悪い気はしないね。

 さすがに遅刻すると怒られそうだから、俺は待ち合わせの30分前には行くことにした。それでもハルヒがいるかもしれないと内心ハラハラしたのだが、俺が待ち合わせに向かっていると、反対側からハルヒが来た。
 同時に到着とはね。思わず顔を見合わせて笑ってしまった。

「こういう場合はどっちが罰金なんだ? やっぱ割り勘か?」
「バカね、デートなんだから男が出しなさい!」
 やれやれ、やっぱりそうなるのか。
「……と思ったけど、いいわ、割り勘で。あんたも厳しいんでしょ」
 こいつは驚いたね。ハルヒが俺の財布の中身を心配してくれるとは。
「何よ、今日はいいのよ。SOS団の活動じゃないんだから」
 少し顔をそらして言うのは照れ隠しかね。
「わかった、サンキュ。それじゃ、行くとするか」
「どこに行くのよ」
「決めてない。だが、俺は普通の人間だから、普通のところしか連れて行けないぞ」
 それで良いはずだろ。だいたい、お前は不思議探索のときだって、買い物楽しんだりしてるだけだろうが。
「いいわよ、どこでも。あんたと一緒ならね」
 今までのハルヒでは考えられないようなことを言ってくれるね。

 どちらからともなく手をつないで、俺たちは歩き出した。

 隣にハルヒがいる日常。それは、すでに当たり前のものになっていた。
 だけど、これからは、今までとはまったく違う当たり前になるだろう。

 これからもよろしくな、ハルヒ。



…………。

 はい、またわたしが登場するわ。
 あの日、わたしの質問で、結局キョンくんと涼宮さんが付き合っていることがみんなに解っちゃったのよね。でも、隠してたつもりだったのかな? だったらバレバレだったんだけどな。
 何だか胸が痛むのは何でだろう。

 あれから数日後。
 日曜日、1人で部屋に籠もっているのも何だか嫌だったから、ぶらりと出かけてみたの。そうしたら、涼宮さんとキョンくんが、仲良く手をつないで歩いているところを見てしまった。

 見なければ良かった。

 あ、そうか。わたし、自分でも気がつかないうちに失恋してたんだな。今頃気付くなんてバカね。
 わたしはそのまま家に帰ることにした。


 1人で泣くために────


  おしまい。


GLORIAあまぎ様に続きを書いて頂きました。
涼宮ハルヒの変心
ありがとうございました。