滑る道
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【涼宮ハルヒの憂鬱】涼宮ハルヒを語れ その70
208 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/11/21(水) 02:46:29 ID:RKEn7PzG
(略)

二人で登校中路面が凍っていて転びそうになるハルヒ。
とっさにハルヒの腕を掴み受け止めるキョン。
キョンの以外な力強さに見惚れつつもしっかりと握られた手は
教室に入るまで二人とも自覚なしに握っていてクラスからおちょくられる二人

(以下略)


 いつになったら秋が来るのかね、何て思っているうちにいつの間にか今年も文化祭が終わり、それとともに思い出したように寒波がやってきた。今年のカレンダーもすっかり軽くなって、もう後1枚を残すのみになった頃、今日も今日で妹の強烈なフライングアタックに起こされた俺は窓の外を見てウンザリした。この辺りにしては珍しくうっすらとだが雪が積もっていた。
「やれやれ、寒そうだな」
 我らが北高はご存じの通りかなり急な坂の上にあり、今日の様に雪が積もって急激に冷えた日は要注意なのだ。そう、早い話が滑るのである。
 俺は、今日は靴を選ばないと酷い目に遭いそうだな、と思いながら支度を始めた。

 道路の雪はすでにあまりなかったので、それでも気をつけながら自転車で駅まで行き、そこから毎度おなじみになったハイキングコースを登る。天気を考慮して少し早めに出たので、まだ時間に余裕があった。しかし、いくら慣れたとはいえ、雪道のハイキングコースはつくづく嫌になるね。
 俺は溜息をつくと、嫌がる足を叱咤して坂道を登っていた。

 しばらく歩くと、前方に見覚えのある後ろ姿がみえてきた。肩に掛かる髪、揺れる黄色いリボン。間違いない、ハルヒだ。
 だが、その歩き方がハルヒらしくない。明らかに「おっかなびっくり」という言葉が似合うような歩き方だ。そして、この「おっかなびっくり」という言葉はハルヒにはまったく似合わないのだ。
 俺は少し歩を早め、ハルヒに追いついた。
「よう、いつも早いのに珍しいじゃないか」
「別にっ。たまにはあたしもゆっくり出るのよ」
 そう返したハルヒは足下を見ながらやはりそろそろと歩を進めている。俺もハルヒの足下を見て、その理由を悟った。
「おい、ハルヒ。今日みたいな日にその靴はないだろう」
 ハルヒは黒いローファーを履いていたのだ。晴れている日は問題ないだろうが、「滑る」ということに関しては何の役にも立たないであろうことは一目瞭然である。
「雪が積もってたから、今日は何をしようかと考えてたら、家を出るのが遅れたのよ」
「なるほど、それであわてていて靴を選ぶ余裕がなくなったのか」
「うるさい」
 図星だな。
「そんなペースで歩いてたら遅刻するぞ」
「だったら先に行きなさ……きゃぁ!!」
「おいっ!!」

 案の定、ハルヒは滑って転びそうになったので俺は咄嗟にハルヒの腕を掴み、そのまま抱きかかえるように支えてやった。
「まったく、言わんこっちゃない」
「な、な、何よ、あんたに支えてもらわなくても大丈夫だったわよ!」
 そう言いながら、ハルヒは真っ赤になって下を向いている。そんなに転びそうになったのが恥ずかしいのかね。
「へいへい、そういうことにしておきましょう、団長様」
 また図星をさすと怒りそうなので、ここは流されておくことにしよう。しかし、このままだとハルヒは間違いなくまた転ぶだろう。
「おい、つかまれよ」
 俺は手を差し出した。
「なっ……何言ってんのよ! あたしは大丈夫よ!」
 ああ、また転ぶと思ってるのがばれたか。だからってそんな真っ赤になって怒るなよ。
「ほら、遅刻するだろ。学校まで支えてやるから、遠慮すんな。俺は雑用だろ?」
「し、仕方ないわね。そうね、団長に気遣いができるようになったのは褒めてあげてもいいわ」
 ハルヒは俺の手を取った。
 実際、何度か滑りかけたので、自然と握る手に力がこもる。
 ハルヒはやはり滑るなんて醜態が恥ずかしいのだろう、ずっと顔が赤かった。でもそうやって大人しくしていると、なかなか可愛い……なんて、俺は何を考えているんだろう。

 そんなことを考えていたので、俺は校舎内に入って靴を履き替えた後のことまで考えていなかった。
 それは教室に入ったときの、谷口の絶叫で思い出された。

「お……お前ら……!! やっぱりそうだったのか~~~!!!」

 俺はハルヒと手をつないだまま教室に入るという失態をやらかしてしまったのだ。とたんに騒然とする教室内の視線は、入り口にいる俺たちに集まった。
「やっぱりそうだったんだ~!」
「まあ、別にいまさらって気もするけどね」
「やっと涼宮さん、素直になれたのね。お幸せになのね」
 口々に好き勝手言うクラスメイトに対して、どう誤解を解こうかと考えていると、ハルヒがさっきとは比べものにならないくらい真っ赤になって叫んだ。

「えっ! ちっ違うわよ! これは滑るからしょうがなく……。あーもう、バカキョン! いつまで手を握ってんのよ! さっさと離しなさい!!」

 俺から手をふりほどいたハルヒは、俺を見ないまま席に着いて、視線を窓の外に固定した。
 俺も溜息をついて席に向かう。

 こんな状況なのに、ふりほどかれた手が少し寂しく感じたのは何でだろうね。
 そっぽを向いたままのハルヒに小さな声で「ありがと」と言われたとき、俺はその理由がわかったような気がした。


  おしまい。