目が好きで……
短編 | 編集

の続編。
「手」を投下した後のレスより
【涼宮ハルヒの憂鬱】涼宮ハルヒを語れ その71
639 :名無しさん@お腹いっぱい。:2007/12/05(水) 21:29:16 ID:FdSY/ttW
>>628
GJ!
キョンサイド:目が好きでやがてすべてが好きになる


 目が好きでやがてすべてが好きになる

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 今日も一日が無事──とは言いがたいかもしれないが──終わり、家に帰り着いた俺は、着替えるのも億劫でそのままベッドにごろんと横になった。
 いったい今日の俺は何だったんだ。
 そして、今日のハルヒは何だったんだ。

「手が好きでやがてすべてが好きになる」

 咄嗟に聞こえないフリをしてしまったハルヒの言葉。俳句……じゃなくて季語がないから川柳か、五七五調だったのは何かの引用なんだろう。
 あれは一体どういう意味だったんだ──などと考えるほど、俺は鈍感ではない。鈍感ではないつもりなのだが、まだ自信がない。

 あれは、告白と受け取っていいのか?

 ……思い出すとまた顔が熱くなるのを感じる。
 ハルヒにとって俺は何なんだ? SOS団の団員その1にして雑用係、不思議探索のときは財布代わりだ。
 俺自身、ハルヒにとってただのクラスメイトではないという自負はある。「SOS団の団員」という称号は、ハルヒの中では大変名誉なものであるらしいからな。俺だけではなく、朝比奈さんも長門も古泉も、ハルヒの中では特別な存在であるはずだ。
 いや、俺の悪い癖だ。またごまかしの思考に入ろうとしていた。今日のハルヒの言葉は、SOS団等しく特別だなんて結論にはなろうはずがない。
 ちゃんと向き合わなきゃ男じゃないだろ、俺。

 じゃあ、俺にとってハルヒは何なのか?
 この質問は前にも考えたことがあったな。そう、あの、ハルヒと2人きりの閉鎖空間で──
 て、俺はなんつーものを思い出してしまったんだ。ただでさえ恥ずかしいこと考えているってのに。
いや、すまん、またごまかしている。
 俺はこういうことを考えるのは苦手なんだ。今まで考えないようにしていた。あの閉鎖空間でさえ、明確な答えを意識の上に乗せることを避けた。

 実は、あの時答えが出ていたんじゃないのか?

 唐突に、俺の脳裏にハルヒの笑顔が浮かんできた。

『気がついた!』
『どうしてこんな簡単なことに気付かなかったのかしら!』
『ないんだったら、自分で作ればいいのよ!』
 そう、SOS団結成を思いついたハルヒ。

 俺が初めてハルヒの笑顔を見た日。
 あのときのハルヒの瞳。
 白鳥座α星くらいの輝きなんて、俺も気障な例えを思いついたもんだ。

「何だよ、答えなんてとっくの昔に出てたんじゃないか」
 これは苦笑せざるを得ない。

「キョンく~ん! ご飯だよ~!!」
 妹の呼ぶ声で現実に引き戻された俺は、まだ着替えてすらいないことに気がついた。
 さて、明日どうすっかな。

 翌日、いつもの通りに登校した俺は、教室の入り口で思わず立ち止まってしまった。
 なぜか席替えしても位置が変わらない窓際の一番後の席で、ハルヒがいつもの通り頬杖をついて窓の外を見ている。その髪の毛は後頭部の高い位置で1つにまとめられており、短いポニーテールを作っていた。前より少しは伸びたか? 思わず笑みがこぼれる。

「よう」
 声をかけながら席に着くが、ハルヒは窓の外をから視線を外さない。
「おはよ」
 こういうときは不機嫌そうな声を出すんだよな、おい。
「なんだ、朝から機嫌悪いな」
「別に」
 いやいや、とても不機嫌そうだぜ、少なくとも表向きは。

 ハルヒがなぜ今日に限って無理矢理気味のポニーテールにしたか……なんてことは、昨日のことと考え合わせれば自ずと答えは見えてくる。そう、俺の考えが間違っていなかったら、その不機嫌そうな態度は照れ隠しだろ。
 だったら今日も言ってやるべきかね。

「ハルヒ」
「なに?」
「似合ってるぞ」

 ハルヒはあのときと同じように、決して俺の方を向かなかった。
 だけど、今回はこれで終わりじゃないぜ。

「目が好きでやがてすべてが好きになる」

 昨日のハルヒの言葉を俺流に改変してやったのだが、果たしてハルヒの反応はなかなか面白かった。どうやら俺を見ないという決意はあっさり覆されたらしく、目を見張って俺を見つめ──次に表情はそのまま、顔だけが一気に赤くなり、
「あ……あんた、昨日、聞こえてたの……?」
 なんて、珍しくおそるおそる聞いてくる。
「ああ、実はばっちり聞こえてた」
 やばい、顔がニヤニヤしてしまう。てっきりネクタイを締め上げられると思ってたんだからな。

「バカキョン」

 そう呟いて、ハルヒはまたそっぽを向いてしまった。それと同時に始業の鐘が鳴り、俺も前を向くことにする。

 さて、今のは告白ってことになるのかね。その判断はハルヒに任せるとしようか。
 どうせすぐに復活して、あの吸い込まれるような瞳で俺に話しかけて来るに違いない。

「ねえ、キョン! ちょっと思いついたんだけど──」

 ほらな。さて、団長様の思いつきに付き合うことにしようか。
「何だよ」
 振り返った俺を見つめるハルヒの瞳は、銀河系すべてを閉じこめたような光を宿していた。


  おしまい。