他愛もないクリスマス
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「今年もホワイトクリスマスはお預けかぁ……」
 白い息を吐いて、ハルヒが溜息をついた。
 今は例のクリパからの帰り道。何故かハルヒと2人だ。
 なるほど、確かに雪なんかどうしたって降りはしないだろう夕焼けである。
 クリスマスに雪が見たい、と昨日騒いでいたが、さすがのこいつも天候を改変してまで見る気にはならなかったらしい。そう言えば長門が、局地的な天候情報の改竄は惑星の生態系に影響が出るようなことを言っていたが、ハルヒがやっても同じなんだろうか。だとすると、あの孤島の台風なんかはどうだったんだろう?
 俺がそんなどうでもいいことを考えていると、ハルヒはまた呟いた。
「雪国に生まれていれば、毎年ホワイトクリスマスだったのかなぁ」
 おい、お前今雪国の人に喧嘩売ったな。雪国の人は毎年雪に悩まされていて大変なんだぞ。そんな1年にたった1日のために、雪国に生まれたいなんて言ったら殺意を覚えるくらいにな。
「わかってるわよ。でも、クリスマスに雪が見たいって思ったっていいじゃない」
「ほう。クリスマスに鍋とか言い出す奴が、そういうロマンチスト的なことを考えるとはな」
 本当に意外だったのだが、ハルヒは茶化されたと思ったらしい。俺を睨み付けると、人差し指を突きつけて言い放った。
「あんたは女心ってやつが全然わかってないのよ!」
 へいへい、わかってねーよ。古泉あたりならもうちょっと気の利いたことを言えるかもしれないけどな。
「お前な……。俺に何を求めてるか知らねーが、そういうのなら他を当たれ」
 俺としてはいつもの軽口の応酬だと思っていたのだが……。
 ……あれ? 何か俺悪いこと言ったか?
 ハルヒは俺を睨み付けると、どうしたことか何も言わずに顔を背けた。
「バカキョン……」
 とか聞こえた気がするのだが、ハルヒが俺の悪口をこんな小さい声で言うわけないしな。
 こんな言い方はハルヒらしくない。10倍返しがお前の本領だろ? なんて考えてしまう俺も相当おかしいと思うが。
 それっきり、ハルヒは俺の方を見ようともしなければ、話そうともしなかった。
「「…………」」
 いつもマシンガン並みにしゃべるハルヒの相手をしていると、こういう沈黙が気になる。さっきまで普通に話してたのに、何故いきなり黙り込むんだ?
 かといって、俺から何を話せばいいかも分からない。いや、多分俺が怒らせたんだよな。せめて理由を言ってくれ。どーすりゃいいんだ?
 とりあえず、先ほどの会話を反芻してみる。
 ハルヒはホワイトクリスマスになればいいと言っていたんだよな。しかし、今雪が降っていないと言うことは、心の底から願っているってわけでもなさそうだ。
 どうしたもんかね、と空を見上げた俺の目に、影を潜めた夕焼け空の代わりに冬の星たちが写り込んできた。ホワイトクリスマスなんて、俺が住んでる地域じゃ望んでもなかなかお目にかかれないが、星降るクリスマスなんてのもありかもな。
 ……ハルヒの似合わないロマンティシズム(あえて誤用している)が移ったかもしれない。

「まあ、こういうのも悪くはないんじゃねーの?」
 ハルヒが反応するかはわからないが、独り言でもいいや、と思って呟いてみる。
「何がよ」
 お、反応したな。だが、相変わらずの不機嫌な声。
 放っといてもいいんだぜ、俺は。しかし、こいつの不機嫌を野放しにしておくと厄介なことになるらしいしな。せっかくのクリスマスなんだから機嫌のいいこいつと一緒に居たい、なんて血迷ったことを考えた訳ではない。
 断じてそんな訳ではないんだが、俺は柄にもないことを口にしてしまった。
「雪の代わりに星降る聖夜、ってのもいいんじゃねーの?」
 言ってから死ぬほど後悔したのは言うまでもない。
 第一、そこそこ都市部に近いこの辺では満天の星なんてものが見えるわけでもないし、「星降る」なんて言葉は大袈裟すぎる。いや、後悔しどころはそこじゃないんだが。

 やべえ、恥ずかしい。

 ハルヒはどう思った? と、ハルヒを見ると──うつむいて肩を震わしている。
 え? 泣いてるのか? って、んなわけあるか!!
「おい、お前笑うな!!」
「くっ……あはは……あはははは! あんた、に、似合わないわよっ……あはははは」
 畜生、やっぱ言うんじゃなかった。
 ハルヒは堰を切ったように笑い出すと、止まらなくなったらしい。今は腹を抱えて笑い転げている。俺が言ったセリフがそんなにおかしいか?
「いい加減笑いすぎだぞ」
「あんたがらしくないセリフ言うからでしょ! あーもう、笑いすぎてお腹痛いわよ。責任取りなさい!」
「俺のせいかよ!」
 いつの間にか、いつもの俺たちに戻っていた。
 まあ、良かったさ。ロマンチックってのはどうも肌に合わない。俺がやったって道化になるだけだというのはやる前からわかっていたことだ。それで女心がわからないと責められようと、それが俺なんだからしょうがないだろ。

 そして、ハルヒの不機嫌モードが終わってくれてホッとしている俺がいることにも気がついている。
 やっぱりこいつは笑っていないとな。

 そのためなら、この程度の道化を演じるのもたまにはいいか、と思った他愛もないクリスマスの夕暮れであった。


  おしまい。