涼宮ハルヒの誤解:ハルヒサイド
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キョンサイド

 まったく腹が立つわね。谷口のやつ、全然掃除もせずにしゃべってばかり。何であんなやつと一緒に当番なのかしら。どうせなら……いや、それはどうでもいいわね。
 とにかく、あたしは谷口に鉄槌を下すと
「残りはあんた1人で掃除しなさい」
 と言い残して教室を出た。何か叫んでたけど知らないわ。
 早く部室に行かないと。今日は何をしようかしら? 2年生になってから、まだ本格的な活動はしてないもの。SOS団をもっと世にアピールする必要があるわ。みくるちゃんに新しいコスプレさせようかしら? 有希にも何か着せてもいいわね。いつも制服だもの。あの子だってきっと何を着せても似合うわよね。

 そんなことを考えながら、部室のドアの前まで来た。ドアを開けようとノブに手をかける。
 そのときだった。

「…ぉんなには…興味がねえ!」

 え? 何今の。キョンの声だわ。最初の方は良く聞き取れなかったけど。
 何て言ってた? 女には? 興味がない?
 嘘でしょ! あのキョンが?

 ドアノブをまわしてそっと開ける。あたしらしくないわね。いつもなら蹴破るところなのに。でも、何故かできなかった。何だろう、この感じ。
「理解した」
 有希の声。今のは有希としゃべってたのね。珍しいわ。
 キョン。有希と何を話してたの? 有希は私を見てから、いつも通りの場所に戻って本を広げた。キョンは頭を抱えて机に突っ伏してるし。何なの?一体。
「こんにちは、涼宮さん」
「あ…こ、ここんにちは。おおお茶入れますね」
 古泉くんはいつも通りね。みくるちゃんは顔が赤いわ。動揺してるのが丸わかりよ。

「遅れたわね!谷口のバカが掃除さぼるから懲らしめてやってたのよ」
 挨拶代わりに言う。気にしちゃダメだわ。キョンが女の子に興味がないなんて考えられないじゃない。いつもみくるちゃんを見てる目つきを見ればわかるわ。エロいもの。
「キョン」
 声をかけてもキョンは動かない。何よ、言い訳しなさいよ。何だろう、何でこんなにイライラするのよ!
「あんた、バカじゃないの!?」
 気がつくとこんなセリフが口をついて出てきた。

 あたしの席に座ってパソコンを見る。すでに誰かが立ち上げていた。何も見る気がしないわ。今日は何をしようとしてたのかしら? そうよ、ここに来るまでに色々考えていたはずなのに。どうして?思い出せない。イライラするわね。
 頭の中をキョンの声がぐるぐる回る。
「女には…興味がねぇ!」
 ねえ、どういう意味?
 マウスで適当にあちこちクリックしてみる。ブラウザを立ち上げていつも見ているサイトを見てみたけど全然目に入らない。あたしらしくないわ。問いつめればいいじゃない。

 キョンを見てみると、顔を上げて古泉くんを見つめていた。……何黙って見つめているの? それってやっぱり……? そのとき、古泉くんの携帯が鳴った。
「はい……そうですか………わかりました、直ぐ行きます」
 電話を切ると古泉くんは私に言った。
「すみません、急のバイトが入りまして……お先に失礼します」
「分かったわ」
 古泉くんは時々こうやってバイトが入る。そう言えば何のバイトをしているのか聞いたことがないわね。でも今はそんなことどうでもよく思える。自分の気持ちさえよくわからないのに。
「今日は気乗りしないし……もう解散!あんたたちも適当に帰りなさい」
 古泉くんも帰るんだし調度いいわ。
 あたしは鞄を持つとできるだけ早く部室を出た。キョンの顔を見たくなかった。
 いつの間にか早足になって、そして駆け出していた。
 早く家に帰りたかった。

 家に帰って着替えもせずにベッドに突っ伏した。頭の中がグチャグチャだわ。キョンの言った言葉が頭から離れない。何よ。キョンのことなんか気にしなきゃいいじゃない。
 キョンが女の子に興味がないなんて……。さっきのキョンを思い出す。何で古泉くんを見つめてたの? そういえば仲がいいわよね。いつもゲームしているし、近くでひそひそ話してることもよくあるわ。
 男の子同士のひそひそ話なんて聞きたくもない内容だと思ってたから気にしたこともないけど、……もしかして?

 いつもみくるちゃんをかばっているキョン。コスプレしてるみくるちゃんをニヤニヤ笑って見てるわよね。
 いつも有希を気にしているキョン。どう見たって女好きだわ。エロキョン。あたしには怒ってばかりのくせに。
 でも……?

「あ~~~~! もうっ! 何であたしがキョンのことで悩まなきゃなんないのよ!」
 頭をぐしゃぐしゃかきむしってみる。
 そうよ、気にしないわ、気にしない! キョンがゲイだろうがノンケだろうがどうでもいいじゃない。別に同性愛者に差別はないわよ。それこそどうでもいい話。
 もう気にしない! 考えない!
「関係ないわよ! キョンのバカ!」

 結局、あたしは遅くまで眠れなかった。


 次の日は、朝からキョンと話さなかった。ううん、話せなかった。何て声をかけたらいいかわからないじゃない。
 昨日のこと、何か言い訳してくるかと思ったんだけど。あたしから聞くのもしゃくに障るわ。気にしてるみたいじゃない。気にしてなんかないわ。でもなんか腹が立つわね。何を考えたいのかもわからないのに、考えなんかまとまりゃしないじゃない。
 部室では話すかしらね?
 イライラしながら放課後を待った。つまらない授業なんか早く終わればいいのに。

 放課後、あたしは急いで部室に行った。もしかしたら、有希に何か聞けるかもしれない。団員の話だからね。団長のあたしも知っておいた方がいいでしょう? そうよ、キョンだって団長たるあたしに隠し事をするなんて許せないわ。だからイライラしていたのね。
 そう考えると少し落ち着いた。

 有希とみくるちゃんはすでに来ていた。
「みくるちゃん、まだ制服? 早く着替えなさい」
「あ、それはちょっと……」
 みくるちゃんは困ったような顔をして有希を見た。有希は持っている本を閉じて立ち上がった。
「あなたは、彼と2人で話したほうがいい」
 それだけ言うと、有希はみくるちゃんを見た。
「そうですよ、キョンくんとちゃんと話してください」
 みくるちゃんはニコニコ笑っている。可愛いわね。
「今日は私たちは帰ります。ちゃんと話してくださいね」
「え?ちょ、ちょっと!?」
 驚いている私を置いて、2人とも帰っちゃった。ひらひらと手を振るみくるちゃんはやっぱり可愛かったわ。
 でも。
「何よ、雑用係のくせに」
 みくるちゃんと有希に気を遣わせるなんて、生意気だわ。

 携帯が鳴った。メール着信、古泉一樹、という表示を確認して中身を見る。
『今日は学校自体を休んでいるので、お休みします。すみません。』
 休んでたんだなんて知らなかったわ。
『具合悪いの?無理せずにゆっくり休みなさい』
 そう返信しておいた。古泉くんから聞こうと思ったけど、ダメだったわ。仕方ないわね。

 ドアをノックする音がした。
「よう。ハルヒだけか」
 キョンが入ってくる。今日始めて声をかけてきた。
「悪い?」
 何となく顔を直視できない。あたしはどんな顔をしてるのかしら?
「3人とも用事ですって。全くたるんでるわ。でも調度良かったわ。あんたに聞きたいことがあったのよ」
 古泉くんは用事ではないわね。でも早く話がしたかったから。2人にはぐらかされたあたしは、もう待てなかった。直接聞いてやるわよ。
「あんたがゲイだったなんて知らなかったわ」
 視線をそらせたまま、あたしは言った。
「いや、あれはだな……」
 キョンが何か言いかけたけどあたしはまだ言いたいこと言ってないのよ。
「古泉くんと近いし怪しいと思ってたのよね。でも団員に手を出すのは男でもダメよ!」
 何か怪しいと思い始めたらますます怪しく思えるのよね。この2人。
「いや、だからあれはお前の誤解だ」
「何がよ」
  キョンを見る。焦った顔。
「だから……」

 キョンは明らかに言葉に詰まっている。何でもないならサッサと言いなさいよ。言えるはずでしょ?
「いや、だから、そうだあれだ。SOS団の活動が大事だから女に興味持ってる暇はないって言う意味だ」
嘘 臭いわ。全然ダメじゃない。もうちょっとマシな言い訳考えられないの?
「ふ~~~~~~ん」
 一応相づちくらい打ってあげたわ。感謝しなさい。
「あんたみくるちゃんにあれだけデレデレした顔見せてたじゃない?有希のことも気にしてたし。 あれは全部ポーズだったのね。本命は古泉くんか」
 睨み付けてそう言うと、キョンはますます焦った顔になった。間抜け面だわ。わかってるのかしら?
「古泉なんかに興味はねぇよ。てか、俺は男に興味はない! 断じてない!」
 あれ、ちょっと真剣な顔をしてるわね。でもそれじゃ昨日の言葉と矛盾があるわ。ちゃんと説明しなさい。
「何? 男にも女にも興味が無いってわけ?じゃ、何に興味があんのよ」
 そのとき、キョンの表情が変わった。前に見たことがある。本気で怒った顔。

「男だろうが女だろうが、俺が誰に興味があろうがお前には関係ねえだろ!」

 怖かった。どうして?
 キョンが怒ったくらいどうってことないわ。あたしに勝てる訳ないじゃないの。前もこうやって怒鳴りつけられたわね。あのときは殴られそうだった。
 でも、あのときより怖い。どうして?
 あたしには関係ない?そうよ、関係ないわよ。胸がずきずきするわ。頭の中もグチャグチャ。

「何よっ……! そうよ、どうせ私には関係ないわよ! キョンのバカ! あんたなんか知らない!」
 気がつくとそう言って部屋を飛び出していた。

 涙があふれそうなのを必死でこらえた。なんで泣きそうなのよ。どうってことないわよ。あいつの言うとおりだわ。関係ないじゃない。
 どうやって家に帰ったのか覚えていない。2日連続ね。たぶん走って帰ったんだわ。動悸が激しいもの。胸が苦しい。
「関係ねえだろ」
 キョンの言葉を思い出すと、我慢ができなくなった。
「うっ ぅうっ キョンのばかぁ……」
 枕に顔を押しつけてあたしは泣いた。

 何で泣くことがあるのよ。そうよ、怒ってるんだから。怒りのあまり泣いてるのよ。
 下っ端のくせにあんな口聞くなんて許し難いわ。罰が必要ね。

 どれくらいそうしていたか解らない。ずいぶん時間が経ったような気もするし、ほんの数分だったような気もする。
 だけど、あたしは今考えていることが言い訳だって感じ始めていた。
 昨日の話と今日の喧嘩。あたしに気付かせるのに十分だった。
 ほんとにとんだ精神病だわ。笑っちゃうわね。涙を流したまま笑ってみる。

 そのとき携帯が鳴った。

「え? お? あ?」

 キョンからだ。予想外のことに1人で焦る。どうしよう、出られないわよ。でも逃げてるみたいに思われても嫌だわ。
「何よ」
 泣いてたなんて悟らせるわけにはいかない。自然と不機嫌そうな声になる。
「ハルヒ。話したいことがある」
 キョンの声。ちゃんと話すとやっぱり泣きそう。今はダメだわ。
「私には関係ないんでしょ。もう切る……」
「ハルヒ! 頼む!」
 あたしが切ると言おうとしたのに、大声で遮られた。
「な、何よ、大声を出さないでよ」
 びっくりするじゃない。今はダメよ。話せないわ。話したら……。
「……謝らせてくれ」
 真剣な声。何よ、謝る必要なんてないじゃない? あんたの言うとおり、関係ない話だもんね。悪態をつこうと思っても声が出ない。
「直接会って謝りたい。北口のいつもの場所に…来れるか」
 何よ、謝りたいなら直接来なさいよ。呼び出すなんて失礼な話じゃない?
「俺はまだ学校だから……1時間後、北口で待ってる。頼む」
 どうしよう。会うのが怖い。怖い? あたしらしくもない。
「わかったわ。遅刻したら罰金だからね」
 何とかそう言って、電話を切った。

 鏡を見てみる。思ったよりは腫れぼったくない。
 顔を洗ってみた。まだ目が赤いわね。泣いてたってばれるかしら? たぶん大丈夫ね。あいつは鈍いもの。
 あたしは急いで家を出た。

「遅い! 罰金!」
 あたしの方が早かった。そりゃそうよね。うちの方が近いし。まだ約束の時間に30分はあるわ。キョンは学校から急いで来たに違いない。でも照れ隠しにそう言うしかできなかった。
「で、何よ?」
 キョンの顔をまっすぐに見れない。
「さっきはスマン!あんな言い方をして……怒鳴るつもりなんかなかったんだ」
 キョンが謝ってきた。
「ふうん」
 どうしよう。嬉しいのに素直に言えない。それに、まだ聞きたいこともあるわ。
「言いたいことはそれだけ?」

「全部話すから聞いてくれ」
 そういってキョンはしばらく黙っていた。何から話すか悩んでいるのかしら?それとも……。
「昨日……部室で、あいつらに聞かれたんだ。 俺がハルヒをどう思っているか」
 キョンの話は予想外だった。あのとき話していたのは有希よね?
「は?何それ?何でそんなこと聞くの???」
 有希がそんなこと聞くなんて信じられない。
「俺のハルヒに対する態度が気に入らないらしい。そうだよな。今日もこうやって怒らせた。 ……いや、傷つけた」
「傷ついてなんかいないわよっ。バカじゃない?」
 そうよ、傷ついてなんかいないわ。バカバカしいじゃない。でも、有希がそんなこと気にしてくれているなんて知らなかった。
「俺もそんな質問には直ぐに答えられなかった。でもなんだかんだで誘導尋問されて……結局言っちまったんだ」
 ここでまた黙る。言おうか言うまいか決めかねているようだった。思い切った顔してあたしを見て、ようやくキョンは言った。

「『俺はハルヒ以外の女には興味がねえ』、ってな」

 あたしはしばらく言葉が出てこなかった。今、キョンは何て言ったの?
 あのときあたしが聞いた言葉。「女には興味がねぇ」って……。
「じゃあ……え? 女には興味ないって……え?」
 どうしたのかしら、全然意味がわからない。キョン、もう一回言ってよ。
「お前は前半が聞こえなかったんだろう。だけどな、俺もゲイ扱いは勘弁して欲しかった。 特に、ハルヒにはな」
 前半部分。「俺はハルヒ以外の」。
 後半部分。「女には興味がねぇ」。
 それって……つまり……??
「昨日、3人の前で言わされて、今日またお前に言わされるのかと思ったら頭に血が上った。 それであんな怒鳴りつけるような言い方を……本当にスマン!」
 キョンが謝っている。どうして?

「ねえキョン」
「何だ?」
「どういう意味よ。」
「何が?」
 あたしはどうなっちゃったの? 簡単な言葉なのにわからないなんて。
「だから……その……あたし以外の女には……?」
 やっとわかった。わからなきゃ良かった!
「ってあんた、な、何言ってんのよ!? それをみくるちゃんと有希と古泉くんに言ったの!? な、何考えてんのよバカキョン!」
「スマン」
 またキョンが謝る。でもニヤニヤ笑ってるわよ間抜け面!
「な、何よ、もう遅いわよ、言っちゃったんでしょ! って何笑ってるのよ、私はまだ怒ってるんだからねっ! そんなへらへら笑って謝られたって、誠意がないわよ誠意が!」
 顔が熱いわ。何よもう、キョンのくせに! 団長にこんな思いさせるなんて罰金よ罰金!
「いや、ほんとスマン」
 やっとニヤケ面を止めたわね。

「ハルヒ」
 声も真剣になる。
「何よっ!!」
 格好付けようったってそうはいかないわよ。
「どういう意味かって、1つしかないだろ?」
「1つって……」
 続きが出てこない。キョンは何を言っているの? ああもう、あたしの頭はどうなっちゃったのよ!

「俺はハルヒが好きだ」

 耳から入った言葉が頭に届くまでに時間がかかった。
 今、キョンは何て言ったの?
 あたしのことが好きだって言ってくれたの?
 本当に?
 どうしよう。すごく嬉しい。
「キョン……」
 嬉しいのに言葉が出てこない。何か言わなくちゃ。

 気がつくと涙が出てきた。今日は泣いてばかりだわ。でも、不思議と涙を見られることに抵抗はなかった。涙と一緒にこみ上げてくる気持ち。
 嬉しい。幸せ。

「キョン!」
 あたしはキョンに抱きついた。
「うぉっ!?」
 何よ、変な声出しちゃって。びっくりしたの?
 あたしはしばらくキョンに抱きついて泣いていた。キョンは黙ってあたしの肩を抱いていてくれた。

 少し落ち着いてから、あたしは顔をあげた。キョンが言ってくれたから。あたしもちゃんと言うわ。

「あたしも……あたしも、キョンが好き!」

 あたしを見下ろすキョンは、何故か呆然としている。信じられない? でも本当よ。あたしは精一杯笑った。

 キョンが顔を近づけてくる。いつかの夢と同じね。
 あたしは目を閉じた。夢じゃない、初めての──キス。

 あたしから離れると、キョンは急に落ち着かなくなった。きっと周りが気になるんでしょ? 小心者。
「ハルヒ」
「何?」
「腹が減った。飯喰いに行かないか?」
 全くキョンってば! でも、キョンらしいわね。
「何よ、その誘い方! ムードがないわねぇ!」
 少し怒ったように言ってから、笑って付け加えた。
「いいわよ、もちろんキョンの奢りでね!!」
 当然よ、罰金払って貰わなきゃならいんだから。


 ご飯を食べている間、私たちは無口だった。2人でいるなんて、今までに何度もあったのに、今日は何だか照れくさい。いつも何を話していたのかしら。
「キョン」
 ふと思いついて、ようやくあたしは声をかけた。
「何だ?」
 返事をするキョンはいつも通りに見えた。
「言っとくけど……SOS団の活動が最優先事項よ!」
 あたしは怖かった。キョンとの関係が変わって……今までとは違うSOS団。あたしの居場所。
「そんなの当たり前だろ」
 キョンはあっさり言った。
「SOS団あっての俺たちだからな」
 そう言ったキョンの表情は凄く優しくて、あたしはまた泣きそうになった。
 キョンも同じ気持ちでいてくれた。それが、凄く嬉しい。


「家まで送りなさい」
 ダメね。素直に送って欲しい、なんてあたしには言えない。
「ああ、もちろんいいぜ」
 キョンはあっさり了承してくれた。
「キョン」
「何だ?」
「手」
 おずおずと手を差し出したあたしに、キョンは間抜けな返事をした。
「へ?」
 何よそれ。キョンを睨み付けると、笑い返してきた。
「いつも俺の手首をひっつかんで引っ張っていくハルヒからは想像もつかなかったぜ」
 そう言ってあたしと手をつないでくれた。
「バカキョン」
 何だか悔しくて、でも嬉しくて、あたしはそうつぶやいた。

 またしばらく黙って歩いた。つないだ手が熱い。キョンはあたしのどこが好きなのかしら? いつも引っ張りまわしていて、みくるちゃんみたいに可愛くもないし、有希みたいに大人しくもない。キョンは嫌々ついてきているようにも見えた。
 そんなあたしの心がわかったかのように、キョンはゆっくりと話し出した。
「ハルヒ」
「何よっ」
 照れくささから、つい荒い返事になってしまう。
「俺はお前が楽しんでるのが好きみたいだ。」
 キョンは別に照れてもいない。明日の天気でも言う感じで話している。何よ、あたし1人でバカみたいじゃない。
「だから、これから楽しいと思ったことをどんどんやってくれ。 俺はそんなハルヒと一緒にいたい。SOS団でできること、まだたくさんあるよな」
 恥ずかしいセリフを言ってるんじゃないわよ。でも、そう言ったキョンの顔はどこまでも優しい。ちょっとの間、キョンに見とれていた。内緒よ?

「あったりまえでしょ! これからもめいっぱい楽しむわよ!  まずはGWの予定かしらね。古泉くんは合宿場所押さえてくれるかしら?」
 照れ隠しから必要以上に元気に言ってみた。いつものあたしってこんな感じだった?
「GWじゃ海外には短いわね、それじゃ夏休みは海外合宿よ! キョン、あんたパスポートは取ったでしょうね!」
 話しているうちに楽しくなってきた。そうよ、まずはSOS団の活動が大事!
 あたしも、そしてキョンもそれを望んでいる。

 やれやれ、なんてセリフが聞こえた気がしたけどいいわ、気がつかないふりをしてあげる。今日はあたしは寛大なのよ。

 あたしはキョンの手を離して前に出た。
「キョン、これから忙しくなるわよ!」
 そう言うと振り返ってまっすぐにキョンを見て言った。
「でも大丈夫よ! あたしとキョンが一緒だったら、SOS団は無敵なんだからね!」


 キョンは何も言わず、あたしを抱きしめた──。


  おしまい。