憂鬱な殺人 3章 学校にて
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 俺が不元気全開で足を引きずりながら教室に入ったのは、一時限目の授業がすでに半ばを過ぎた頃だった。まったく、自転車がないことを忘れていつも通りに家を出ちまったおかげで遅刻の憂き目に遭うとは。
 思った通りだが、ハルヒはまだ来ていない。今日は来れないかもしれないな。
 寝不足から今更ながら襲ってきた睡魔にあっさりと降伏したまま、一時間目の授業は終わった。遅刻の上に居眠りなのはこの際お許し願いたい。

 休み時間になって、俺は好奇心に満ちたクラスメイトに質問攻めに遭うこととなったが、逆に俺の方が知らないこともあったために情報収集に徹する事にした。と言っても、朝のニュースの内容は母親から聞いているわけで、それ以上目新しい話は出てこなかった。解ったことは、この事件はすでに学校中に知れ渡っているということだけだった。まったく、いくらハルヒが校内一の有名人だからって、何でこんなに伝播が速いんだ。

「昨日涼宮の家で死体が発見されたって!?」
 こんな風に好奇心丸出しで聞いてこられるのは、正直言って不愉快だ。そりゃ、事実を知っている奴なんているわけがないのはわかっているが、それでも朝比奈さん(大)の死をそんな風に軽く扱わないでもらいたい。

「それにしても、怖いよね。涼宮さんに何もなくて良かったね」
 こんな風に心配してくれるのは主に女子である。後は国木田か。そして、それは俺が考えてみなかった事でもあった。俺はハルヒからの電話の時点で、すでに宇宙的未来的あるいは超能力的な事件を想像していて、当たり前の殺人事件ではないと思いこんでいた。そしてそれが事実だっただけに、例えばハルヒが犯人と遭遇して危害が及ぶといった考えがまったく浮かばなかった。

 俺もアホだ。
 ちゃんとハルヒを安心させてやれたのか? なあ、俺。
 
 午前中の残りの授業もほぼ睡魔の勝利で飾り、俺は昼休みに入るやすぐに教室を飛び出した。行き先はもちろん部室だ。睡眠の合間に古泉を呼び出してある。長門はデフォルトでそこにいるだろうが、念のためにメールを送信しておいた。
 部室に到着すると、すでに2人は待っていた。古泉はいつもの定位置で、長門は窓際で本を広げてはおらず、長机の端に椅子を引き寄せてちょこんと座っていた。

「呼び出して悪いな。用件は解ってると思うだんが」
 古泉はもちろん知っているはずで、一応長門に向かって聞いてみる。長門はわずかに頷いた。
「そうか、なら話は早い」
 とにかく今回の事件は裏がややこしそうだし、万が一にもハルヒが本当の事実に気がついてもまずい。ある程度口裏を合わせておきたい。
 本音を言えば、朝比奈さん(大)が死んだなんて事実をどうすれば覆せるかまで考えたかった。だが、今、俺にそれができるか? と問われれば、情けないが否である。
 とりあえず飯を食いながら話そうぜ、と前置きしてから、俺は古泉に聞いてみた。
「古泉、朝の時点でニュースになってたようだが、大丈夫なのか?」
 内密に処理した方が良かったんじゃないかと思う。警察の手を経ていない事件なのだから、大々的に報じると後で厄介なことにならないのか?
「確かに内密にできればそれに越したことはないのですが、涼宮さんからしてみればこのような事件がニュースに出ない方がおかしいでしょう」
 確かに、言われてみればその通りだ。もう、俺はSOS団的不思議事件になれちまって、異常事態は全て隠し通さなければならないという固定観念が出来上がっていたようだな。
「ですから、この事件自体、ある程度警察の手に渡しています。警察の内部にも機関の人間や外部協力者がいますので、問題は起こらないでしょう」

 ……ついに機関は国家権力も手に入れたか。日本の民主主義にまったくの懐疑心を持ってなというわけではないが、それにしてもこれじゃある程度は機能していると思っていた民主主義自体を疑いたくなってしまう。
 俺のデモクラシーに対する疑念を知ってか知らずか、古泉は少し顔を曇らせた。
「検死や司法解剖も機関の人間がする予定でしたが……邪魔が入りましてね」
 邪魔だと? 俺は機関がどんな組織だか、実態はほとんど知らないと言っていいが、それにしても簡単に邪魔が入るような組織ではないと何となく解っている。どんな奴らだ、機関に堂々と横やりを入れられるのは。
「お分かりじゃないですか。被害者はこの時代の人間じゃないんですよ」
 古泉は意外だ、とでも言いたげな表情で言った。悪いな、俺はそこまで頭の回る人間じゃないんだ。
「てことは、他の未来人が朝比奈さんを引き取りに来たってことか?」
「そういうことです。我々としてはこちらですべて処理をしたかったのですが、仕方がないでしょう。これは間違いなく彼らの事件であり、本来はこんな風に涼宮さんを巻き込むこと自体許されることではない。未来人のいざこざは未来で解決して欲しいものです。事態がこうなっている以上、機関としては協力せざるを得ませんがね」
 古泉は相変わらずの笑顔だったが、それにしてもかなり怒っている様子だ。何か背後からオーラが出ているぞ。笑っているだけに逆に怖いが、森さんといい、機関の人間は笑顔で凄む訓練でもしてるのか?

 いや、そんな現実逃避的などうでもいいことを考えている場合ではない。とりあえず今分かっていることを把握して、今後どうするかを検討しなければならない。
「で、結局機関の方の捜査はどうなってるんだ? それに、世間に公表した以上、どう収拾をはかるんだ? シナリオは出来てるんだろ?」
 俺は立て続けに質問した。
「シナリオは出来ていますよ。涼宮さんが納得出来そうな結末を考えています。早々に決着をつける予定ですのでご心配なく」
 ここまでは0円スマイルを振りまいていた古泉だが、突然真顔になった。
「しかし、実際の捜査となりますと、難航しております。我々の時代の技術では捜査など出来ない可能性が高いですからね」
 大げさに首を振り、苦笑を浮かべて俺を見る。何だその仕草は。俺に何か期待しても無駄に決まってるだろうが。
 そんな心の声が伝わったのかどうかは知らないが(古泉と以心伝心なんて気持ち悪い)、古泉は長門の方に向き直った。
「ですから、我々としては長門さんがどの程度事実を把握しているかに期待をかけてしまうのですが」

 ここまで黙々と大盛りの弁当を食べていた長門が、始めて顔を上げた。長門を知らない奴が見たら話を聞いているのか不安になるところだが、その心配がないのは俺も古泉もよく分かっている。
「昨夜午後十一時二十三分と二十五分、二十七分に涼宮ハルヒの居住する住宅でわずかな時空振動が観測された」
 長門はそれだけを言うと、他に話すことなんかないと言うような無表情で口をつぐんで古泉を見つめた。古泉もこれには少し困ったようで、
「それで?」
 と先を促した。
「現在把握している事実は、それだけ」
 今度は本当に困ったらしく苦笑を浮かべたが、更に食い下がった。
「それで、あなた方は今回の事件はどういうものだと考えているのですか?」
 長門はわずかに首をかしげた。
「結論を出すには情報が不足している。ここから推測できることもわずかしかない」
「つまり、三回の時空振動のうちの一回は朝比奈さんで、もう二回はおそらく犯人だということですか」
「そう」
 ならば、やはりこの事件は未来人同士の争いで間違いないんだろう。俺はあのいけ好かない未来人野郎を思い出した。あいつ、今度会ったらただじゃおかねえぞ。
「その時間振動とやらがあったとき、何が起こっているかは確認しなかったのか」
 まあ、見ていたとしても行われていたことは推測できる範囲だろうが。
「即時的に得られた観測結果ではない」
 後から確認したってことか。どういう方法かは聞かない方が俺の頭にやさしいな。
 そういや朝比奈さんが、時間移動をすると時間平面に痕跡を残すようなことを言っていた気がする。多分、そういうことなんだろう。

 俺は夜中に考えたこと、つまり今回は朝比奈さんと別の未来人との間で異なる「規定事項」があったために起こった事件なのではないかということを話してみた。
「さすがですね」
 お前に褒められても嬉しくない。だいたい、この程度のことはお前も機関もとっくに考えついてるだろう。
「確かにその通りです」
 しれっと言いやがった。褒められたのが嫌味にしか感じられないぞ。古泉は俺の恨みがましい視線などものともしていない。
「朝比奈さんのお仲間は、遺体を引き取らせてもらう見返りにある程度の情報は提供すると約束してくれました。もっとも、こちらが期待するほどはもらえないと踏んでいますが。その規定事項の内容だけでも分かるかもしれませんね。ただし……」
 俺を見て、また苦笑を浮かべると、
「情報は朝比奈さん自身からのみ伝えられる、ということです」
 と続けた。その顔にはまさにやれやれ、という表情が浮かんでいた。
 朝比奈さん(小)から? 未来人はふざけてんのかよ。
「おそらく、朝比奈さんに伝えられる程度の情報しかよこさない、という意味でしょう。そしてまた、その情報は主にあなたに伝えられることになると思います」
 まさか、未来人は朝比奈さん(小)に事実を話したりしないだろうな。
「それはないと思いますよ。この時間に生きる我々でも、自身の未来を予言することは禁則事項だろうことくらいは考えつきますからね。だから、尚更得られる情報はたいしたものではない、ということです」
 何だか未来人にいいように使われているようで面白くない。いったい、未来人はこの事件をどうするつもりなんだ? 何だって俺たちが未来人の抗争に巻き込まれなくちゃならないんだ。

 だが、ごちゃごちゃ考える前に確認しておくことがあるな。
「俺たちも、この件は朝比奈さんには言わない方がいいよな」
「当然です」
「同意する」

 この事件を解決することで、朝比奈さんの未来を取り戻せるのか?
 その答えはまだ得られないまま、昼休みが終わった。

「異時間同位体との同期ができれば、真相も分かるはず」
 部室を出るとき、長門は俺を見て、少し後悔しているような顔をしてぽつりと言った。事件を解決する手がかりが少ないことを、こいつなりに気にしているようだ。
「大丈夫、今のままでもきっと解決出来るさ」
 気休めかもしれないがな。それでも、こいつが自分のなりたい方向に向かっているのなら、未来と同期なんか出来ないで、今のままの方がいいに決まってる。

 その後は適当な話をしながらそれぞれの教室に戻っていった。


「遅い! どこ行ってたのよ!」
 教室に戻るとハルヒが登校していた。驚いたな。今日は来れないかもしれないと思っていたのに。
「もう登校して大丈夫なのか」
「大丈夫だから来たに決まってるでしょ。家にいても仕方ないし」
 それもそうだ。親御さんは帰ってきたのか?
「あんたが出て行ってからすぐ帰ってきたわよ。でもごちゃごちゃ説明したり掃除したりしてたから家を出られなかったけど。警察の連中に色々聞かれるし、窓も割れちゃってるしさ」
 窓も割れている? それは初耳だな。あれ、でもさっきの話からすると、誰も窓からなんて出入りする必要はないはずだよな。とすると、犯人は機関か。古泉は何も言ってなかったな。後で問いつめるとするか。
 俺は昨夜の捜査を思い出していた。家で事件が起こるとその後の掃除がたいへんになるとは思ってなかったな。
「で、あんたはどこに行ってたのよ」
 ああ、それ聞かれてたんだっけな。悪い。
「部室にいたんだよ。昨夜の件、長門にも話しておいた方がいいと思ってな」
「ふうん、有希と二人で?」
 ジト目で睨むな。
「古泉もいたよ。どっちかというと説明はあいつがした」
「そりゃ、あんたよりうまく説明できるでしょうね。でも、みくるちゃんは?」
 あいつは説明がうまいんじゃなく、ややこしくするのが得意なだけだ。そもそも、三人とも事情が分かっていたわけで、誰も説明なんてしていなかった気がするが。
「朝比奈さんは聞いたら卒倒しそうだからな。生々しい部分はいないところで話した方がいいと思ったんだよ」
 あながち嘘でもない。朝比奈さんはこういう事件は苦手なんじゃないだろうか。どっちにしても、関わってもらわなくてはならないようではあるが。
「それもそうね。みくるちゃんにはこんな事件似合わないわ」
 それには心の底から同意する。だからこそ、この事件はなかったことにしたい。なんせ、こうしてハルヒと話していると嘘みたいだが、その似合わない朝比奈さん自身が被害者だ。
「それよりキョン! この事件、何が何でもあたしたちで解決するわよ!」
 言い出しそうな予感はしていたが、やはりハルヒはこれは自分の事件だと思っているらしい。しかしそう簡単にはいかないんだよ、この事件は。
 あまり深く関わって欲しくないという気持ちから反論しようとした俺は、五限の授業のために入ってきた教師によって結局黙ることになってしまった。

 反論したところで結果は同じだったろうけどな。


 窓際という場所柄、外からの熱気を容赦なく受けつつ午後の授業を終えた俺は、ハルヒに引っ張られるように部室へと向かわされた。
「やっほー!! みんないるー!?」
 勢いよくドアを開けて部室に飛び込んだハルヒに引っ張られるようにして、俺も中に入った。朝比奈さんは来てはいたが、到着したばかりらしく、まだ着替えてもいない。くそ、後少し遅ければ着替えを見てしまったとしてもハルヒのせいに出来たのに。
 ……こんなときでもこういうことを考えてしまうのは健全な高校生としては当たり前だよな?
 長門は窓際で本を広げており、古泉はいつもの席で無意味に笑みを浮かべていた。
「うんうん、偉いわね。みんなちゃんと来ているわ」
 何が偉いんだかわからんが、ハルヒは満足そうにうなずくと、団長席へ向かった。俺は溜息をついて自分の定位置に着く。
「こんな大事件があったんだから、授業が終わったらすぐに部室に集合するべきだと思ってたのよ。みんなちゃんと分かってるじゃない!」
 団長席の椅子に立ち上がったハルヒは、高らかに宣言した。
「この事件はSOS団で解決するわよ!!」

 あれ? 何か違和感を覚えた。ハルヒはこの事件を自分の事件と思っているわけだし、今のもいかにもハルヒが言い出しそうなことだ。何だこの違和感は?
 その正体はすぐに分かった。ハルヒはこういう思いつきを言うとき、間違いなく熱帯の温度が移ったような笑顔なのだが、今はそれがないのだ。どちらかと言うとセリフとは裏腹に不機嫌そうにもみえる。
 ああ、そうか。まだこいつは完全に立ち直ったわけじゃないんだな。遺体発見のショックか、それとも家で事件が起こったということに対する不安か。どっちもかもしれない。事件を解決したいというのも、早く不安から解放されたいという思いからかもしれない。
「こらぁ! キョン、ボサッとしてないで話を聞きなさい!」
 いや、話は聞いているんだが。
「解決するって言ったってなあ、警察が捜査情報をくれるわけがないし、俺たち素人がでしゃばったってどうにもなるもんでもないだろ」
 実際、被害者が誰であるかっていう情報も分からないことになってるんだ。何をどう解決できるっていうんだよ。
「そのことなんですが、実は今回の捜査陣に知り合いが居まして……。僕の状況を聞いて、情報を流してくれることになったんですよ」
 またお前は余計なことをしてくれる。そんな気持ちを視線に込めて古泉を睨み付けたが、いつもの笑顔で返されただけだった。
「古泉くん! いつもいい仕事してくれるわね! さっすが副団長よ!!」
「恐れ入ります」
 しかし、普通に考えれば事件の関係者かもしれない人間に捜査情報を流すのってかなりヤバイことなんじゃないのか? もちろん今回は情報を流すどころか、もしかしたら犯罪のシナリオ自体を古泉が書くことになってるかもしれないわけで、ヤバイことなんか何もないわけが、ハルヒは疑問に思わないのか。
「じゃんじゃん情報貰って来なさい! この事件を解決してSOS団の名を世に知らしめるのよ!!」
 まったく疑問に思っていないらしい。変なところで単純なやつだ。
 しかし、そう言うセリフを言うときのお前は全開の笑顔でいた方がいいぜ?


 その後は、まだ情報不足ってことで、殺人事件について話し合われることはなく、いつも通りの時間が過ぎていった。長門は窓際で本を読み、俺と古泉は何故かタイムリーなことに、殺人事件の犯人が誰かをあてるなんていうボードゲームをやっていた。ゲームをやる気分ではないのだが、いつも通りに振る舞わないわけにいかないので仕方がない。
 しかし、変わったことがなかったわけではない。
 それは、お茶を入れてくれた朝比奈さんが、ハルヒに聞こえないようにこっそり耳打ちしてくれた言葉だった。
「あの……何故か伝えるように言われたんですが……。その、指令みたいな形で」
 自分でも何でこんなこと言っているのか分からない、と言う顔をしていた。そうだろうな。この事件が未来と関わりあることではない、と朝比奈さんは思っているはずだ。
「その、今回の殺人事件は規定事項ではありません。起こるはずない事件です。本当なら、こんなことを言うのは禁則事項なはずなんですけど」
 ああ、未来人が伝える情報ってのはこのことか。俺は古泉を見た。古泉も軽くうなずいたところを見ると、同じ考えなんだろう。
 朝比奈さんは伝えるだけ伝えると、そそくさと自分の席に戻った。明らかにハルヒの目を気にしている。ハルヒのいないところで伝えればいいものを、きっと急いで伝えないといけないと思ったに違いない。

 しかし、これは結構重大な情報なんじゃないのか? 規定事項じゃない? 起こるはずのない事件だった?
 俺は自分が安堵していることに気がついた。規定事項じゃないんだ。朝比奈さん(大)が死ぬのは。ってことは、何とかして助ける方法もあるってことじゃないのか。朝比奈さん(小)にこの情報を伝えたってことは、もしかしたらこの後、時間を遡って朝比奈さん(大)を助けに行くことになるかもしれない。
 そんな考えを口にすると、古泉も同意した。
「そうですね、少なくとも朝比奈さんにとっての規定事項ではないのでしょう。しかし、別の未来人からすると、かなり重大な規定事項だったとも考えられます」
 ああ、そうか。わざわざハルヒの家での事件。いったい犯人が執着したのは、朝比奈さん(大)を亡き者にすることだったのか、それともハルヒの家に遺体を置いておくことだったのか。どっちにしても、相当の理由がなければここまですることはないはずだ。
「それにしても、おそらく時間遡行することになるでしょう。今度は僕も連れて行ってもらいたいものですが」
 相変わらず古泉は時間旅行に憧れているらしい。何度もやるもんじゃないぞ、あれは。少なくとも酔い止めは用意しておけ。
「そりゃ朝比奈さん次第だろ」
 そう言いながら俺はゲームに終止符を打つべく、「告訴宣言」なるものを行った。こういうミステリ要素の大きいゲームなら古泉の方が強そうなものなのに、なんだってまた俺が勝ってるんだ? 最近、こいつがゲームに負けているのはわざとなんじゃないかという疑念がつきまとっているのだが、俺は更に疑いを強めている。
「これは参りましたね」
 古泉はあっさり負けを認めた。
「実際の事件も、こうやって活躍してくださるといいのですが」
 知るか、とは言いたくないがな。だが、俺の手に負える事件じゃねえよ。

 しかし、このときはまだ分かっていなかったのだが、実際のところ俺が何とかするしかなかったのだ。


 いつもの通り、長門が本を閉じて相変わらずよく分からない団の活動が終わり、俺たちは学校を後にした。
「実は、今朝から閉鎖空間が発生していました」
 帰り道、前を歩く三人娘から少し距離を置いて歩く俺の隣で古泉が言った。どうでもいいが顔が近い。
 しかし、そうなのか? 初耳だ。お前が普通に学校に来ているから何もないのかと思っていたんだが。
「たいした規模ではないので、朝のうちに処理できたんですよ。警察の捜査にイライラしていた、というとこでしょう。僕としては昨夜のうちに発生するものと思っていましたが、そうでなかったのはあなたのおかげでしょうね」
「だからそういう言い方は止めろ」
 いちいち冷やかしてんじゃねえよ。それはともかく、昨夜は発生しなかったのか。遺体発見のショックは閉鎖空間を発生させるようなものではなかったのか。
 俺はハルヒの穏やかな寝顔を思い出した。俺が居たから安心出来た、何て考えるほど自惚れちゃいないつもりだが、閉鎖空間をわざわざ作るほどの不安は紛れたのかもしれないな。いや、これも自惚れか?
 そんな俺の思考を読んだように、古泉はニヤニヤ笑っている。
「あなたが涼宮さんの精神的なフォローをしてくれるおかげで、僕のバイトも随分減っているんですよ」
「とりあえずその顔は止めろ」
 ニヤケ面五割り増しかよ。どういうつもりか知らないが、からかわれているとしか思えん。
「すみません、この表情はもう癖みたいなものでして」
 そう言って古泉は、朝比奈さんにちょっかいかけながら歩くハルヒに視線を移した。
「この事件は涼宮さんの精神を不安定にさせてしまう可能性が大きい。今はまだ思い当たっていないようですが、遺体が朝比奈さんと似ていると気付く可能性もあります。あなたにばかり押しつけるのも心苦しいのですが、なるべく涼宮さんが心穏やかに過ごせるようにして頂きたいところです」
 安心しろ、もう押しつけられているとは思っていないからな。俺が望んでやっていることが、たまたまお前らと意見があってるってだけだ。
 俺だって、ハルヒには笑っていて欲しい。そう思ってるさ。