谷口のミニ同窓会
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【涼宮ハルヒの憂鬱】涼宮ハルヒを語れ その62(DAT落ち)に投下したものに加筆。

 いつも通り学校が終わって家に帰る途中、懐かしい顔に声をかけられた。
「よう谷口! 久しぶりじゃねぇか! 元気か?」
「お~! 久しぶりだな! 俺は相変わらずだよ」
 中学時代のクラスメイトだった。かなり仲が良かったが、最近は連絡取ってなかったな。
「ちょうど良かったよ、さっき他の連中にもちょっと会ってさ、週末会わないかって話になってたんだ」
 こいつが上げた名前は中3のクラスメイトで、いつもつるんでいる仲だった。全員別の高校に行って、最近はとんとご無沙汰だ。
「電話しようと思ってたところなんだ。土曜日開いてるか?」
 どうせ俺はいつも暇だ。たまには旧交を温めるのもいいよな。
「ああ、暇だぜ。どこで会うんだ?」
「とりあえず飯でも食おうぜ。11時に北口でいいか?」
「ああ、11時な」
「じゃ、土曜日に!」
 そんな会話をして久々に会った友人と別れた。

 土曜日、約束通りに行くと、すでに話に上がった3人が揃っていた。久しぶりの挨拶を交わし、近所のファミレスに移動する。ドリンクバーもある場所だから、ゆっくり話もできるってもんさ。
 俺たちはしばらく中学時代の話や近況で盛り上がった。当然彼女のいるいないなんて話もした。全員フリーらしい。キョンじゃないけどやれやれだな。
 去年のクリスマスのことを思い出して、俺は憂鬱な気分になった。
「そういや、お前北高だったよな。あの涼宮と一緒だろ?」
 誰かがそんなことを言い出した。まあ、東中一の有名人だったからな。気になるのも無理はない。一緒も何も、何が嬉しくて5年も同じクラスにいるんだよ畜生。
「また同じクラスだよ」
 うんざりして返すと、他の3人は興味を持ったようだった。
「相変わらずなのかよ?男取っ替え引っ替えしてるのか?」
 俺は中学時代の涼宮を思い出す。そりゃ当時しか知らなきゃそう思うだろうよ。
「いや、1年続いてるぜ」
「えっ!?」「嘘だろ!?」「マジかよ!?」
 見事に3人同時発言だ。わかるぜ。俺だって信じられん。まあ、続いてるというよりは、本人曰く「何でもない」らしいが。それこそ信じられねーよ!
「どんなやつだよ、あの涼宮を落とした男ってのは」

 そのときだった。

「ちょっとキョン、待ちなさいよ!」
「ぶっ!」「うわっ! きったねぇ!」
 良く通る聞き慣れた声が聞こえてきて、俺は飲んでいたソーダを吹いちまった。どういう偶然だ!?
「あんたはみくるちゃんが心配じゃないの!?」
「古泉がここで待ってろって言ったんだ。今から行ってもすれ違いになるだけだろうが」
 わざわざ確認するまでもないよな。キョンと涼宮が店員に案内されながらこっちに向かってきた。
「やっぱり今から行くわ! みくるちゃんが怪我したなんて放っとける訳ないじゃない!」
「だったら最初から古泉にそう言え。一旦了承したのはお前だろうが。いいから座れ」
 そんな会話をしながら……って隣の席かよ! しかも無視かよ!
 あー畜生、教室だけにしてくれよ。こんな所でも見せつける気かお前ら。

 2人なのに6人がけの席に座ってるし、話の内容からすると、朝比奈さんと長門も来るようだな。あの朝比奈さんと会えるなら、それだけで今日は得したぜ。
 思わずニヤニヤ笑って自分の席に視線を戻した。涼宮とキョンには悪いが朝比奈さんに比べればどうでもいい。
 しかし……。

 ( ゚д゚)( ゚д゚)( ゚д゚)ポカーン

 どうやら三人とも凍り付いているらしい。
 いや、その気持ちよ~~~く解るぜ。涼宮が気付いたら「こっち見んな!」なんて言われそうだけどな。

「長門と古泉が大丈夫だって言ってるんだ。ちょっとは信じてやれ」
「……そうね。わかったわ」
 2人の会話が聞こえてくる。俺たちの座席の空気は凍ったままだ。何とかしてくれよ。
 飲み物を取りに2人が席を立って、ようやく一人が口を開いた。
「あれ……涼宮だよな?」
 その言葉でようやく他の2人も溶けたらしい。
「なんか……涼宮、感じ変わったよな」
 わかる、わかるぜその気持ち。俺だって最初はびびったもんな。まさに驚天動地だ。そもそも、涼宮があんなに感情を表して話すことなんてなかったよな。
 常に不機嫌そうで、滅多に話さない。俺以外の3人は、そんな涼宮しか知らない。
「なんか、今、友達を心配してなかったか?」
「俺の……聞き間違いだよな?」
 相変わらず豆鉄砲を食らった鳩と同じ顔をして俺に聞く。聞き間違いじゃねーよ。

「あれか?さっき言ってた1年続いてる男ってのは」
 興味津々、といった具合に別の奴が聞いてきた。キョンもあれ扱いかよ。
「つーか、涼宮を落としたってんだからどんないい男かと思ったら、すげー普通だよな」
 言われたい放題だな、キョンよ。だが俺も同感だ。
「俺だってわけわからん。いつの間にかキョン……あいつだけどな、しゃべるようになってたんだよ」
 2人とも戻ってきているのでひそひそ声になる。しかし、まだ俺に気づかねぇのかよ。2人の世界ってか?このヤロー。
 中学時代の奴らは、やはり涼宮の変貌ぶりに興味を持ったようだ。自然と2人の様子を観察することになった。

「おかわり! キョン、取ってきなさい!」
「断る。自分で行け」
「あんたは団員その1にして雑用係なんだから団長のために取ってくるのは当たり前でしょ!」
 相変わらずそんなことやってるのかお前ら。
「俺はまだ飲んでるんだよ」
 キョンのグラスにはまだ半分以上残っている。
「ふ~~~ん」
 ニヤリと笑った涼宮は、電光石火でキョンのグラスを奪うと一気に飲み始めた。
 て、それキョンのストローだろ!
「おいっ! 何勝手に飲んでやがる!」
 キョンは手を伸ばして奪い返そうとするが、それをかわして涼宮は全部飲んでしまった。
「ふふ~ん、これでグラスは空よね。ついでに私のも取ってきなさい。団長命令よ!」
 勝ち誇ったように笑う涼宮。
「やれやれ、わかったよ。何を飲むんだ?」
 キョンはため息を1つつくとグラスを2つ持って立ち上がった。相変わらず尻に敷かれてるよな。

「す……涼宮が……笑った……」
 拾った宝くじが実は1等3億円当たってたなんてことがあってもここまで驚かないだろうな。
 あいつらのせいでこっちの座席は盛り下がりまくりだ。なんせ3人そろって真っ白だ。灰になるのかよ。
「あいつ笑えるんだな……」
 一人がぼそっとそう言った。そういやこいつは涼宮に告白して3日で振られたクチだ。
「そう言う谷口は5分だろ」
 おいっ!それを言うなって!

 そんなこんなで盛り下がってる間に、涼宮の他の仲間が到着したようだ。
 朝比奈さ~~~~ん!! 谷口はここですよ~~~~!!
 めいっぱい手を振ったんだが、あなたもスルーですか! それに羽織っているそれは男物のジャケット! どういうことですか? 古泉か? 許せん!!
「あれ誰だ?」
 朝比奈さんを見たとたんにニヤニヤ笑いながら一人が聞いてきた。そりゃあの方を見れば気になるのも当たり前だ。
「朝比奈みくるさん……高校の先輩だよ。ミス北高と言ってもいい人だ」
「もう1人は?」
「長門って言って隣のクラスだな。いつも本読んでる」
「なんか涼宮の友達としては変わった取り合わせだな。まあ、あいつに友達がいるってこと自体が驚きだが」
 言われてみればそうだな。共通点は全員Aランクだってことくらいか。しかし、古泉を見事に外す辺り、お前も俺の友達だな。

「遅くなってすみません」
 古泉がにこやかに笑って涼宮に言った。こいつはいつも笑ってるような気がするな。疲れねーのか?
「いいわよ、別に。それよりみくるちゃんの怪我は大丈夫なの?」
 キョンも大丈夫なんですか、と心配しているようだ。
「怪我は大丈夫なんですけど……。ミュールが壊れて歩けなくなっちゃったんです~」
 朝比奈さんが申し訳なさそうに言った。
「それで仕方なく新しいのを買って……。遅れて済みません~」
 はたから見ても気の毒な程に小さくなっている。
「いいわよ別に。そんな事情なら仕方ないわ! あたしは心が広いからそんな小さなことで怒ったりしないのよ!」
 涼宮が笑いながら言った。
「自分で言うな。だいたいお前は俺が遅刻してないのに怒るだろうが」
 キョンが口を挟んだ。
「あんたは事情もないのに一番遅いから悪いのよ! 事情があるのとたるんでるのは訳が違うわ!」
「おい……」
 キョンが何かいいかけてたのを涼宮が遮る。
「なんでみくるちゃんはジャケット羽織ってるの? それ古泉くんのよね」
「あ、転んだときにお洋服もやぶっちゃったんです。それで古泉くんが……」
「どこ?」
 涼宮は隣に座っている朝比奈さんのジャケットをめくってなにやらチェックをした。
「これは確かにこのままじゃダメね。でもそのジャケットじゃご飯食べにくいわよ。大きすぎるわ」
「お洋服も買おうと思ったんですけど……時間が掛かりそうだから午後にしますね」
 にっこり笑顔の朝比奈さんはめちゃめちゃ可愛い! あのお顔をいつも間近で見ているキョンと古泉に殺意を覚えるぜ。
「ちょっと待って」
 そう言って涼宮は来ているカーディガンを脱いだ。
「みくるちゃん、ちょっと立ちなさい!」
「ほえぇ??」
 驚いている朝比奈さんを立たせると、カーディガンを腰に巻くように袖を結んで、古泉のジャケットを脱がせた。
「これでいいわ。これならスカートの破れ目も見えないし……はい、古泉くん」
「ありがとうございます」
 古泉は相変わらずの笑顔でジャケットを受け取った。
「す、涼宮さん、いいですよ、それならあたしのボレロでやりますし……!」
 焦っている朝比奈さんも可愛い。
「ボレロじゃ丈が足りないわよ。あたしのなら大丈夫でしょ。後で返して貰うんだからいいわよ」
「ありがとうございます」
 ニコニコという擬態語がこれ以上似合う顔はない、と言った笑顔で朝比奈さんは礼を言った。まさに天使の微笑み。
「……何ニヤニヤしてるのよ!」
 涼宮が言って気がついたが、キョンがにやついて涼宮を見ている。朝比奈さんしか見てなかったぜ。
「……別に」
 キョンが言うと涼宮は焦ったような顔をして言った。
「だ、だって仕方ないでしょ!  古泉くんのじゃ大きすぎるし、有希は制服だし、あんたは上着がないし、あたしのしかないじゃない!」
「いや、だから何も言っとらん」
「う~~~」
 涼宮はキョンを睨んでだまった。何だそのいかにも照れ隠しですって睨みは。キョン、はたから見ればいかにも見守っている彼氏です、としか見えないぞ。
 古泉と朝比奈さんは笑顔で2人を別の意味で見守っている。
 ちなみに長門はず~~~っと本を読んでいた。いろんな意味ですげぇヤツだよな。

 さて、何故ここまで隣の座席ウォッチばかりしてるかというと、俺の座席はまた衝撃が走って固まってるからだ。
 だってよ、涼宮が、あの涼宮ハルヒが、他人に気遣いをみせているんだぜ?
 しかも自分の服を犠牲(ってのは大げさか)にしてだぜ?
 ありえねえよな。
 たぶん、俺以外の3人は涼宮に別の人間が乗り移ったくらいには感じているだろう。
 俺? 慣れたぜ。だてに1年同じクラスじゃねぇ。
 ま、結局涼宮はSOS団にしか気遣いできてないみだいだけどよ。

「なんか、あれだけの美人が笑うとすげーいいよな」
 立ち直りの早い奴がそれでもまだ呆然といった顔で言い出した。まー同感ではあるな。あの奇人変人ぶりがなきゃ、俺的美人ランキングでも上位に入るだろう。だがな、俺は普通の女がいいんだよ。
「お前の意見はどうでもいいよ」
 ってそれひどくねーか?
「随分丸くなったみたいだしなー。あんな涼宮なら付き合って見ても良くねーか?」
 とんでもない!
「止めてくれ、とばっちりが俺に来るだろ!」
 絶対「谷口の差し金!?何考えてんのよ!」なんて言われるに決まってるんだ。
 そんな会話をして、ようやく俺の座席も2度目の凍結から解放された。もう氷河期はごめんだぜ。
「あんな普通なやつと付き合えるなら、俺だって行けそうだ」
 自信があるのかないのかわからんセリフだ。
「いや、無理だろ」
 俺は断言した。
「何でだよ」
   俺はため息をついた。
「上手く説明できんけどな。1年同じクラスで見てりゃ嫌でもわかんだよ。涼宮をあしらえるのはキョンくらいだ」
 尻には敷かれてるけどよ。

 そんなことを話しているうちに、あいつらはまた飲み物の取り合いを始めた。そんなことやってるんだったら、もう1回取りに行った方が早いだろうが。
 つーか、それをただ笑って見守っている朝比奈さんと古泉は、慣れてるのか人間ができてるのかどっちだ? って、朝比奈さんはもちろん人間がおできになられてそれはもうすばらしい慈悲の心があふれた笑顔だ、間違いない!
「あんたがちんたら飲んでるから貰ってあげるっていってるのよ! ちょっと寄越しなさいよ!」
「お前いい加減にしろよ!」
 言い合いながら、キョンは取られないようにグラスを頭の上まで持ち上げた。涼宮は立ち上がって奪おうとするが届かない。
 業を煮やした涼宮は、キョンの襟首をつかんで自分の方に引き寄せる。
「おい、こぼれるって」
「だったらつべこべ言わずに寄越しなさい!」
 お前ら顔近いよ!
 つーかもう我慢の限界だああああ!!

「うがあああああ!!もうお前らよそでやれえええええ!!」

「谷口?」
「やっと気付いたか」
 よう、とキョンは手をあげた。涼宮はジロっと俺たちを一睨みすると、フンっとばかりに顔を背けやがった。元級友もいるんだが挨拶もなしか?
「いつからいたんだ?」
「お前らが来る前からいたよ!」
「こんにちは、谷口くん」
 朝比奈さんが挨拶をしてくれた!! むかついていた心もすっかり洗われるってもんだ!!!ひゃっほぅ♪
 いえいえ、朝比奈さん、あなたが気付いてくれたならもう言うことはないです! できれば涼宮と席を替わりませんか? キョンと好きにやってればいいんですよあいつは。
 と言うのは涼宮が怖くて言えねぇ。情けない。
 長門は一瞬目を上げたが直ぐに本に戻した。
「そりゃ悪かったな。で、何叫んでるんだ?病気か?」
 キョンはえらい言い草だ。誰のせいだと思ってるんだ!
「お前ら毎日毎日なぁ……。休日まで見せつけるんじゃねぇよ」
「は?何の話だ。ハルヒのやつが人のもん横取りしやがるから阻止してただけだ」
 毎回思うけどな、ほんとに自覚ねぇのかよ。
「あんたの物をあたしがどうしようが勝手でしょ!」
 涼宮が口を出してくる。
「おい、そりゃねーだろ!」
「うるさいわね!口答えする気?罰金よ!ここの支払いもキョンの奢りね!」
「無理だな。俺の財布はもう底が見えている。古泉に払わせろ」
「僕ですか? 構いませんが……それでいいんですか?」
 謎めいたセリフを笑顔で言う古泉。
「何いってんのよ、副団長に払わせるなんて! あんたは雑用なんだから率先して財布を出さなきゃダメでしょ!」
「だから金ねぇっていってんだよ」
 また俺の存在は無視ですか……。もう泣いていいですか……。
「ま、このドリンクバーくらいなら払ってやらなくもない」
「仕方ないわね!」なんて言いながら涼宮も嬉しそうに笑ってやがる。
 ムカムカするぜ。

「よそでやれって言ってんだろ!!」
「だから何の話だ」
 ほんとに勘弁してくれよ。くそぅ、涙があふれてくるぜ。
「あーもうやってらんねえ!!」
 結局俺は他の3人に言って店を出た。せっかく旧交を温めていたのに邪魔しやがって。
「じゃあまたな」
 キョンは何事もないような顔をして挨拶してくる。
 もう少し朝比奈さんを眺めていたかったんだよ!!
 キョン、殴っていいか?

「何となく、お前が言ったことがわかった気がした……」
 店を出ると、涼宮と付き合ってみてもいいなんて妄言を吐いたやつがボソッと言った。
「あいつ……絶対俺らのこと覚えてないよな」
「谷口に気付いた瞬間、中学時代に戻りやがった」
「あの朝比奈さんって人、めちゃめちゃ可愛いな」
 口々に感想を言う。なんか関係ないところに重点を置いているヤツもいるな。
「あのキョンってやつ何者だ」
 俺が聞きたい。
「お前『毎日』って言ってたな。ほんとに毎日あんな感じなのか?」
 聞かれて俺は海より深いため息をついた。
「そうだよ……。あれで付き合ってないって言い張るから参るぜ」
 俺のセリフを3人は即座に否定した。
「嘘だろ!?」
「あれでか!?」
「どう見てもバカップルです。本当に(ry」
 キョン、今日初めてあったやつにまでそう思われてるんだぜ。いい加減自覚してくれ。
 そんでサッサとくっついちまえ!!
「ま、お前も苦労してるんだな……」
 旧友たちは、深く同情してくれた……。


  おしまい。