インフルエンザ
短編 | 編集

このショボイSSから面白いネタを展開してくださった方がいたので紹介しておく。
ある日の「SOS団団長のブログ」 その6
はっきり言って、俺の書いたSSよりよっぽど面白かった。

 頭が痛い。ボーッとする。身体の節々も痛い。気持ち悪い。
 畜生、宇宙人や未来人や超能力者と知り合って、非常識に振り回されることに慣れちまった俺も、結局ただの人の子だったってことか。つーか、あの団体で唯一“ただの人の子”と言えるプロフィールを持ってるのは俺だけじゃねーか。

 現在の体温は39.4℃。そう、インフルエンザに絶賛罹患中である。当然、学校からは出席停止命令をくらい、熱があろうが這ってでも来いと言われそうなSOS団の活動は自主的に休ませてもらうことにしたわけだ。

 学校を休めるなんてのは、普段なら嬉しい反面暇をもてあます、なんてことになるはずなのだが、こう体調が悪いとそんなことも言ってられない。高熱は俺の頭をはっきりさせることを拒むように靄を発生させ、身体に睡眠を要求する。
 俺は朝から朦朧としたまま意識の境界線を行ったり来たりしていた。幸い妹は俺の部屋に出入りすることを禁止され、朝起こしに来た以外は邪魔しに来ることもなかった。

 意識が境界線の上に浮上したのが何度目か。時間の感覚もなくなった俺の目に、この部屋にいるはずのない人物が飛び込んできた。
「おい、なんでお前がいるんだよ」
 まだぼんやりした頭でなんでこいつが来たのか考えてみるが、よくわからん。ぼんやりしていなくても、こいつの行動が分かった試しがないような気もするが。
「あんたが休んでるから団長自ら様子見に来てあげたんじゃない!」
 お前の声は頭に響く。もう少し小さな声で話してもらえないのか。
 悪いがせっかく来てもらってももてなしなんて出来ないぜ。俺は起きあがるのも辛いんだよ。いや、そんなことより……

「早く帰れ」
「何よ、せっかく来てあげたのに!!」
「いいから帰れよ」
「何よ! その態度!」
 怒らせちまったな。はなからそのつもりだったからいい。 団長様は俺の部屋を出ると大きな音を立ててドアを閉めた。
 これでいい。俺はインフルエンザで出席停止の身分だ。こんな感染しやすい病気を煩っている人間の部屋に健康な人間が来るもんじゃない。
 そんなことを考えながら、俺の意識は薄れていった。


…………
……



 あれ、俺目が覚めてるのか。それとも夢でも見てるのか? さっきより朦朧としているような……
「あれ、起きた?」
 誰かの声が聞こえた。……ハルヒ? お前、さっき怒って帰ったんじゃなかったのか? それとも、やっぱりこれは夢なのか。
「帰ろうかと思ったけど、あんたのお母さんに買い物行きたいからよろしくってお願いされちゃったから仕方がないじゃない」
 何か言っているな。頭がボーッとしている。心臓の鼓動も早い。さっきより熱が上がっているのかもしれない。
 そうか、夢じゃなければ幻覚だろう。高熱のせいで頭がやられているのかもしれない。
「ほら、ちゃんと水分とった方がいいわよ。これ、飲める?」
 やっぱり幻覚だ。ハルヒが俺に対してこんな気遣いをするわけがない。何だろう。俺の願望が幻覚として現れているのか。いつもこき使われてるからな。幻覚くらいは優しくしてくれてもいいだろう。だったら、俺もつまらん意地を張る必要もないな。
「ありがとう」
 礼を言って、ハルヒが差し出したスポーツドリンクに口を付けた。喉を通り抜ける冷たい感覚が心地いい。
「何か食べられる? 欲しい物があれば持ってくるわよ」
「いや、いい」
 さすがに食欲はない。飲み物を飲んだだけで、胃に不快感が残る。
「病人が遠慮することないわよ」
 遠慮じゃねーよ。
「食いもんは欲しくない」
 俺はハルヒの手を掴むと、そのまま引き寄せた。
 バランスを崩しかけて、慌てて俺のベッドに反対の手をついたハルヒに俺は言った。

「ハルヒがいれば、他に何も欲しくない」

 夢か幻覚じゃなきゃ絶対言えないセリフだな。それとも熱で俺の頭がどうにかなっちまってるのかもしれない。
 まあいいさ。どうせ幻なんだから。
 ハルヒは真っ赤になって口を金魚みたいにぱくぱくさせている。幻覚でもこいつは照れるのか。そういう顔も可愛いよな、お前は。

 繋いだ手は病気に対する不安をかき消してくれるようで、また俺の意識は消失した。


…………
……



 妙な夢を見た気がする。
 随分頭がすっきりしていた。汗もかいている。平熱かは分からないが、だいぶ熱も下がったのだろう。
 ふと、手を握られている気がして、慌てて身体を起こす。

「……ハルヒ?」

 ハルヒが俺のベッドに突っ伏して寝ていた。その手は俺の手を軽く握って離さない。
 というより……ちょっと待てよ。さっき、起きたときは夢だと思ったんだが。この部屋にいるハルヒは幻だと思ったんだが。
 ……あれは、現実? だとしたら、俺が言ったセリフは……。

「……んー……」
 ハルヒが小さくうなってもぞもぞと動いている。ヤバイ、起きるかもしれない。
 俺は慌てて布団に潜りこんだ。今、ハルヒと顔を合わせられない。寝ちまえ、俺。大丈夫、明日になれば忘れるだろ。忘れたふりをしておけばいい。あれは熱に浮かされた戯言だったと思わせておけばいい。
「ちょっと、キョン」
 やっぱりハルヒは起きたらしい。で、なんでいきなり俺に話しかけるんだよ。聞こえないぞ。俺はまだ寝てるんだ。
「起きてるんでしょ」
 起きてねえよ。俺はまだ熱があって寝てるんだ、起こすなよ。
「ねえ、ちょっと、手、離しなさいよ……」
 抜かった。俺はいつの間にかハルヒの手を握り返していた。
 いや、それに深い意味はない。断じてない。もう少し握っていたいとか離したくないとか断じて思ってないぞ。
「いや、その、もう少しこのままでいいか?」
 って、俺は何を言っているんだろうね。
 もう頭ははっきりしているのだが、きっとインフルエンザで脳がやられちまったんだろう。そうに違いない。
「し、仕方ないわね。あんたがそうしたいって言うんだったらいいわよ。団員の体調を気遣うのも団長の役目なんだから!」
 ハルヒは早口で一気にまくし立てると、俺の手を強く握った。


 さて、これでもうごまかしはきかなくなっちまった。この後、俺はどう言い訳をすればいいのかね。
 まあ、もう少しだけハルヒと手を繋いでいてもいいだろう。

 俺はこの後言うべきセリフを思案しながら、繋いでいる手に更に力を込めた。


  おしまい。