欲しければ欲しいほど ~バレンタイン編~ その1
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ハルヒスレに投下した前哨戦↓
あー、もう、今年はどうしようかしら?
普通に渡すなんて面白くも何ともないじゃない。
やっぱりイベントなんだからめいいっぱい楽しまなくちゃダメよね!
 
去年は宝探しにしたのよね。
そりゃそうよ。あたしたちSOS団の女の子から貰うチョコレートがお宝じゃなくてなんなのよ!
それ相応の苦労はしてもらわなくちゃダメに決まってるわ!
もちろん、義理だけどね。当たり前でしょ! 義理よ、義理!!
 
でも、去年あれだけ派手にやっちゃったから、きっとバカキョンは期待してるわよね。
去年より喜んでもら……じゃなかったわ、びっくりさせるにはどうすればいいかしら?
 
あーもう、いい案が浮かばない!
別に、あたしがチョコを渡したいわけじゃないわよ。
世間でこれだけ認知されているイベントをみすみす見逃すなんてあたしには許せないだけよ!
去年も有希とみくるちゃんと一緒にケーキ作ったのは楽しかったんだから!
今年だって楽しいに決まってるわ!
そう、あたしが楽しむためにやってるだけなんだからね!
 
それに、キョンだってどうせ誰にももらえないんだろうから、一応団長として気を遣ってあげなきゃいけないわよね。
 
 
それにしても、今年はどうやって渡そうかしらね……?
 
(以下無限ループ)


 今日が何の日であるか、なんてことはおそらく一部の男子学生にとっては本来は忘れることなんかないわけで、まあ俺は去年未来的なあれやこれやで忘れていたのだが、その方がどうかしていた。さすがに去年、あれだけのインパクトを持ってチョコを渡されたのだから、今年は嫌でも期待してしまうというものだ。朝比奈さんが受験まっただ中、という不安はあるけどな。
 ハルヒの態度は去年同様、どこか不機嫌でメランコリーな日々を過ごしているように見えた。しかし、この「シーズン毎にオンタイムな行事をしめやかに実行する組織」と言った方がいいのではないかと思うSOS団の団長様が、みすみすこの行事を見逃すとも思えない。
 どうせ、また宝探し的なイベントを企んでいるんだろ。

 さて、短縮授業を終えた放課後、俺はある種の期待と、期待を裏切られたときのための心の準備をしながら部室のドアをノックした。しかし、俺が期待する朝比奈さんのエンジェルボイスで「ふぁ~い」なんて返事もなければ、俺より先に行ったはずのハルヒの声もなく、あまり聞きたくない超能力者の「どうぞ」という声のみが聞こえてきた。
 畜生、なんでこいつの声に出迎えられなくてはならないんだ。ハルヒのうるさい声の方がまだマシだ。あれでも一応美少女だからな。
 ドアを開けて中を見ると、声が聞こえない朝比奈さんとハルヒはもちろん、部室のオブジェと化しているはずの長門の姿さえ見えなかった。
「あれ、お前だけか」
 俺は相も変わらず微笑みをたたえたハンサム面に声をかけた。
 9組という俺なんか頼まれても行きたくない、と言っても俺の成績で行けるわけはないのだが、そのクラスにいるこいつはこの時期になると来年に向けて進路指導とかそういうのがうるさくなってきたらしく、遅刻が多いのだが、今日は何もなかったらしい。
「ええ、僕が来たときには既に誰もいませんでしたよ。その代わりにこれが置いてありましたが」
 部室に入ったときから、俺の目にも入ってはいた。
 長机の上、古泉が座っている目の前と、いつも俺が座っている席の辺りに、それぞれ派手な包装紙でラッピングした包みが置いてある。もちろんリボンもしっかり付いている。
「何だ?」
 俺は後ろ手でドアを閉めながらも首を傾げた。ハルヒがこんな認知度の高いイベントを見逃すとは思っていなかったが、それにしてもこんなあっさり渡すとは思えない。しかも、手渡しでもなくただ放置するとは。
「これは何かの罠か?」
「さすが、すぐにお分かりですか」
 どういうことだ? やっぱり罠なのか? 古泉が知っているということは、一枚噛んでいるのか?
 いや、そんなはずはないだろう。バレンタインの元の意義はともかく、今のこの国で行われている習慣はハルヒだってよく解っているはずだ。他のイベントならともかく、これに関して古泉に何かさせるとは思えない。
 しかし、席について包みを良く見たとき、俺は納得した。これなら俺だってすぐに理解できるさ。包みには張り紙がしてあり、見覚えのある字が躍っている。
『団長命令! 家に持って帰ろうなんて考えちゃダメよ! 今すぐここで開けなさい!』
「なるほどな」
 古泉はニヤニヤ笑っている。
「先に開けても良かったのですが、あなたが来るのを待った方がいいかと思いまして」
「まさか爆弾が入ってるわけじゃないだろうな」
「さすがにそれはないと思いますよ。持ってみれば分かります」
 古泉に促されて持ち上げてみると、なるほど包みの大きさから考えても随分軽い。まさか空っぽなのか? と思って振ってみると、わずかにカサカサと渇いた音がした。
「一体何を企んでやがる」
 箱を睨んでその場にいないハルヒに毒づいてみたが、それで何かが分かるわけでもない。俺はあいにく透視能力なんか持ち合わせちゃいないし、俺の前にいる超能力者も残念ながら持っている能力も発揮できる場所もきわめて限定的で、この箱の中身を開けずに見ることなんか到底出来るはずはない……はずだ。超能力者のことはいまいち俺にはわからんが。
「ま、開けたから死ぬってことはないだろう」
 ハルヒがこのイベント自体を楽しもうってんなら、この箱を開けたとたんに閉鎖空間へようこそ、なんてことにもなるはずがない。
 ええい、ごちゃごちゃ考えていたって無駄だ。さっさと開けることにするか。
「少なくとも、チョコが入っているとは思わない方が良さそうですね」
 古泉が箱にかかっているやけにファンシーなリボンを解きながら呟いた。同感だ。

「「…………」」
 箱の中身は、空ではなかった。
 確かに空ではなかったのだが、空であることと変わりないぞ。
「なんだこりゃ」
 箱の大きさの割に軽いと思ったのも道理で、中にあるのは1枚の紙きれであった。
「どうやら手紙のようですね」
 古泉は折りたたんだ紙を広げている。俺もそれに倣うことにしようか。
『残念でした! こんな簡単にお宝が手に入ると思ったら大間違いよ! バカキョン!!』
 ……あのアマ。
 俺だって高校2年の男子だぞ。この日にチョコがもらえるかどうかってのが気にならないわけないだろうが。ああ、期待したさ。期待したとも。これがチョコじゃなくても、ヒントくらいはあるかと思ったさ。
 見事に手玉に取られたな、畜生!
 古泉は俺の落胆を察したのか、ニヤケ面を3割増しにして俺を見ている。
 ていうか、古泉も同じ文面なのか?
「そちらに何が書いてあったのかは知りませんが、僕の方は僕とあなたの両方に当てた手紙のようです」
 古泉はそう言って俺に手紙を差し出した。

『古泉くんとキョンへ。
 宝物が欲しければ、あたしたちを捕まえてみなさい。
 欲しい物を手に入れるためには、それ相応の努力と犠牲が必要なのよ!
 期限は下校時間まで。範囲は学校の敷地内。
 それじゃ、頑張りなさい!!』

「何だこの扱いの差は」
 思わず文句を言ったのも無理はない。古泉は俺宛の手紙を見てニヤニヤ笑っている。
「おそらく、あなたに期待させないと言うことを主眼に置いているようですね」
「何でまたそんなことを考えるんだあいつは」
「去年と同じですよ。あなたが期待していると思ってわざと素知らぬふりをしたり、こうやって期待を裏切ったりする。あなたをヤキモキさせる計画なのは同じですが、どうやら今年は成功したようですね」
 地味に腹が立つぞ。これなら去年同様忘れていた方が良かったじゃないか。いや、忘れていてもこの包みを見たら思い出しちまっただろうから一緒か。
 ったく、相変わらず部分的に普遍的なことを嫌うやつだ。
「で、俺とお前はハルヒのかくれんぼに付き合わなきゃならないってことかよ」
 俺の問いに古泉は手紙をもてあそびながら答えた。
「僕が涼宮さんの考えたイベントに参加しないわけはないでしょう」
 まったく、たまにはハルヒに逆らって度肝を抜いてやればいいじゃないか。いつもいつもイエスマンじゃ疲れるだろう。
「考えておきます。ですが、僕も1男子学生であることをお忘れなく。機関も世界の安定も関係なく、このイベントは参加したいと思ってまいすからね」
 お前なら山ほどチョコを貰ったんじゃないのか、と確認するのは俺のプライドが許さなかった。

「とにかく、学校全体が範囲となると時間が足らないかもしれません。早く探さないと涼宮さんがしびれを切らすことになります。早速始めましょう」
 古泉は席を立つと、さっさとドアに向かった。
「待てよ、探すって、どっから探せばいいんだよ」
 手当たり次第探してたら時間なんかあっという間に経っちまうぞ。何か効率のいい方法を考えなければ。
「今のところ手分けをする以外に方法はありませんね。僕はこの部室棟から探します。あなたは本館をお願いします」
 古泉はにこやかに範囲の広い方を俺に押しつけると、今度は本当に部室を出て行ってしまった。
後で覚えてろよ。

 ここで恨み言を呟いていても仕方がない。あの3人を見つけないと、今年もらえたチョコはお袋と妹のみ、なんて悲しい(中学まではいつも通りだが)結果が待っているわけだ。
 しかし、学校中探索しなきゃならんのか。
 俺は溜息を1つつくと、薄暗い廊下を階段に向かって歩いていった。


 皆さんご存じの通り、北高は1学年9クラスもある。それが3学年分あるわけで、教室だけでも27部屋あるわけだ。更に職員室、生徒会室や一部の特別教室もあり、全部回るのは一苦労だ。
 しかし、よく考えれば、部室棟を回るには部活動中の各部室にお邪魔しなくてはならないわけで、目的を考えるとそれも恥ずかしい気がする。古泉がそっちを回ってくれて良かったと考えるべきか。
 などと考えながら、本館の4階、つまり最上階に到着した。探索するのに上から下に降りる方が楽だろ。俺って頭いい。
 と、その前に階段の一番上、屋上に通じるドアのところも探しておかなくてはならない。後からまた登ってくるのはごめんだからな。
 だが、そこにはやはり誰もいなかった。そんな簡単には見つけられないってことか?
「まったく、なんでこんなこと思いつきやがったのかね」
 文句の1つも吐きたくなるってもんだ。まあ、そのうち見付かるだろう。
 そう高をくくって、俺は一番端の教室から虱潰しに調べることにした。

 ああ、畜生、めんどくせえ。
 各教室のドアを開けて覗くだけなら楽なんだが、去年のバレンタイン前を思い出し、いちいち掃除用具入れを確認したり教卓の中を覗き込んだりしているので、思ったより時間が掛かる。
 はたから見たら単なる怪しい奴だよな。何やってるんだろう。
 そう思いながら次に開けた教室は、去年、いやほとんど一昨年だが、俺が毎日通っていた教室、つまり、1年5組の教室であった。
 まさか、ここにはいないよな。

 その、まさかだった。

「何だよ、ここにいたのかよ」
 1年のときだってSOS団で唯一のクラスメイトと言えばハルヒしかいないわけで、この教室の中程後方という中途半端な席で偉そうに腕を組んで入ってきた俺を睨み付けているのは、間違いなくハルヒであった。しかし、こいつならもっとわかりにくい場所に隠れるかと思ったんだが。
「とりあえず見つけたからな。貰えるもんは貰えるんだろ」
 俺は声をかけながら近寄った。だが、ハルヒは俺を睨み付けているだけで、微動だにしない。

 何かおかしい。

 この2年間、嫌と言うほど体験した異常事態のおかげで、俺の非日常に対する感覚は鋭敏になっていると言っていいだろう。先ほどまでオールグリーンだった非日常センサーが、今は黄色点滅だ。
 このハルヒは、本当にハルヒなのか?
 俺の懸念は当たってしまった。
 俺がハルヒに近づき、俺を見つめるだけで微動だにしないハルヒの肩を掴もうとしたとき、

 ────ハルヒが消えた。

「なっ……!?」
 声を上げてしまったのも仕方がないだろう。確かにおかしな物を感じていなかったわけではないが、だからと言って目の前で消えるとは思わなかったのだから。
 俺はしばし呆然とハルヒがいたはずの空間を見つめていた。

 いやいや、落ち着け。おかしいってのはハルヒを見たときから感じていたはずだ。あのハルヒはハルヒではなかったのだろう。
「何が起こってやがる?」
 自問自答してみるが、俺に答えが分かるわけもない。こういうときに頼れるのは、長門か古泉か。
 多分、未来的な何かは関与していないと見ていい。
 と思ってふと窓際のいつもの席、進級しても俺とハルヒの定位置となっている窓際の座席を見ると、今度はそこにハルヒがいやがった。
 そのハルヒは、やはり不機嫌そうに俺を睨んでいるだけで、まるで石像のように動こうとしなければ言葉を発しようともしない。
「何がしたいんだよ、お前は」
 おそらく届いていない文句を呟きつつ、俺はそのハルヒに近づいていった。
「……やっぱりそうか」
 俺がすぐそばまで近づいたとたん、再びハルヒは雲散霧消とばかりに消えてしまった。
 果たして、これはハルヒが望んだことなのか、それともあの雪山のように誰かが仕組んだことなのか。どちらにしても、こうなると俺の手には負えない。
 ひとまず古泉と連絡を取るしかあるまい。


 以心伝心、なんて言葉があるが、これが朝比奈さん相手だったらとても嬉しい、という意味が含まれていてもいいだろう。だが、古泉と以心伝心なんて冗談じゃねぇ。
 ……なんて思わず文句をたれたくもなるようなタイミングで携帯が鳴った。ディスプレイに表示されている文字は、言うまでもなく『古泉一樹』となっている。まあ、こちらから掛ける手間が省かれたと思うことにしようか。
『もしもし』
 この2年間でハルヒと1,2位を争うほどによく聞いた声が聞こえてきた。
「どうした? もしかして、お前の方でも何かあったのか?」
 このタイミングで電話をかけてくるということは、古泉の方にもこの幻のようなハルヒが現れている、そう思ったんだが。
『ええ、長門さんを発見しました。部室棟の方は手早く済まして、もしかしたらと思って図書室に行ってみたんですよ』
 古泉の声には不審さも不安さもまったくない。てことは、古泉は何の問題もなく探索が進んでいるってことなのか。それにしても、まだ開始してから30分程度しか経ってないぞ。それで本当に部室棟を終わらせたんだろうな。
『ところで、僕の方でも何かあった、とわざわざおっしゃったと言うことは、そちらで何かあったんですか』
 さすがに勘がいい。
「大ありだ。悪いが一度合流したい。長門の意見も聞きたいしな。今どこにいるんだ?」
 古泉から場所を聞き出すと、俺は教室を飛び出し、そのまま階段を駆け下りた。


「それで、一体何があったんです?」
 本館1階の廊下で長門と古泉は待っていた。
 辺りは他に誰もいない。まだ昼前で、下校時刻までには相当の間があるが、教室のある校舎にわざわざ居残っている奴はそれほどいないのだろう。
「ハルヒがいたんだが……」
 俺は言葉を切って長門を見たが、この寒い季節を溶かし込んだような瞳は、今のところ何も物語ってはいない。
「涼宮さんがどうかしましたか?」
 いつもの微笑が少し影を潜めた。
「あれが何だか俺にはよくわからん。ハルヒがいたと思って近づいたら、消えちまった」
「それはそれは」
 古泉もさすがに驚いたらしく、わずかに目を見開いたが、すぐに元の微笑をたたえた顔に戻った。
「驚きましたね。涼宮さんは本当にそこにいたのか、それとも幻か何かの類だったのか。それは分かりますか?」
「わからん。触る前に消えちまったからな」
 俺の返答に少し考え込んでいるようだ。考えて答えが出る物なのか?
「今の話で長門は何かわかるのか?」
 長門は先ほどと同じ瞳で俺を見つめていたが、
「改変されている」
 と一言発した。何がだ。
「2人とも」
 は? 2人?
 長門は俺と古泉を交互に見ると、1ミリほど首を縦に動かした。2人って、俺と古泉のことか。
 っておいハルヒ! 一体俺に何をしやがった!!!
「涼宮ハルヒを認識する情報経路が遮断されている」
 すまんがよくわからん。
「つまり、僕と彼は今、涼宮さんの姿を見ることも出来なければ声を聞くことも出来ない、と言うことですか」
 俺が何も言えないうちに、古泉が口をはさんだ。
「そう」
「困りましたね」
 そう言うわりには全然困っていない顔をしている。
「それでは僕たちは涼宮さんを捕まえることが出来なくなってしまいます」
「ちょっと待て」
 あいつが何がしたいのかさっぱり分からんが、それにしてもおかしいだろうが。
「俺はさっきハルヒを見たぞ。あれは本物のハルヒじゃなかったんだろうが、それにしても見ることは出来たはずなんだが」
 長門は俺の質問を予期していたように即答した。
「それは、涼宮ハルヒがあなたに送信している視覚情報。本物ではない」
 えーと、つまりだな。
「涼宮さんは彼にのみ、自分の姿を情報として送っている、ということですね」
 割り込んでくるんじゃねえよ、この解説魔が。
「そう」
 長門は相変わらず俺を見つめている。いつの間にかその瞳には、案じているような色が浮かんでいた。
「何がしたいんだ、あいつは」
 今日何度目かになる同じ質問を発してみたが、答えなんか見付かりゃしねえ。
「あなたはどこで涼宮さんを“見た”のですか?」
 突然そんな質問をされた。そう言えば、俺は自分が何処にいたのかは言っていなかったな。
「1年5組の教室だ。最初は教室の真ん中辺りの座席で、次に窓際のいつもの席に突然現れた……ように見えた」
 実際にそこにいたわけではないらしいから、現れた、というのは間違いか。
「1年5組ですか。なるほど」
 古泉は興味深げに俺を眺めると、
「窓際はともかく、最初に現れた座席に思い当たる節はありませんか」
 いつの間にかニヤニヤ笑いが増している。
 最初に現れた席? 1年5組の……
 何となく、俺にも分かってきた気がする。いや、ハルヒが何をしたいのかはますます分からなくなってはいるのだが。

 俺が最初にハルヒを見つけた、と思った場所。
 それは、入学式の日、俺が一生忘れないであろう自己紹介をハルヒがした、まさにハルヒの最初の座席であった。

「どうやらお分かりになったようですね」
「全然分からねえよ」
 入学式の日にいた座席から、その後の席替えで移動した座席。
「なんだ? 席替えのたびに変わった席を追いかけりゃいいのか? だったら次は2年5組の窓際に行けばいい」
「そう簡単にはいかないと思いますが」
 何でだよ。
「僕たちに自分の姿を消した上で、あなたにだけ偽の情報を送っている。しかも、何かしらの法則がありそうだ。なぜだかわかりますか?」
 分かるわけねえだろ。そもそもバレンタインにかくれんぼなんてネタを思いついただけじゃ、あいつは不満足だったっていうのかよ。
「結果から言うと、そういうことになるんでしょうね」
 古泉は苦笑を浮かべて首を振った。
「とにかく、涼宮さんは最後まで見つけられたくない、とは思っていないはずです。ただ簡単には見付かりたくない、と思ってはいるようですが」
 少し思案しているような顔になる。
「おそらく、涼宮さんを見つけられるのはあなただけでしょう。あなたは涼宮さんの影を追いかけるしかないですね。次に現れるのはどこでしょう?」
「知るか」
 そういや、長門はハルヒがどこにいるのか知っているのか?
「知っている」
 そうか、やはりな。事態がこうなっちまった以上、出来れば教えて欲しいんだが。
「拒否する」
 長門の目が先ほどとうってかわって絶対零度の瞳になっている。なんでそんな冷たい目で俺を見ているんだ? 俺、何か悪いことしたか?
「別に」
 おーい、長門さん?
「あなたは、自分で涼宮ハルヒを発見するべき」
 古泉がくくっと喉の奥を鳴らした。
「長門さんのおっしゃる通りですね。涼宮さんはあなたに発見されたいと思っているはずです」
 ええい、ニヤニヤするな。
「僕は朝比奈さんを探します。あなたは涼宮さんを」
「わーったよ。しゃーねーな」
 古泉にハルヒがまったく見えてないってのなら俺が探すしかないのだろう。しかし、なんでこんな面倒なことになっちまったんだか。
「長門はこれからどうするんだ?」
 そういや、全員一度に発見できるわけもないんだが、見つかった奴はどうするんだ?
「部室へ行く。そういうルール」
 おい、ルールは参加者全員に伝えとけ、ハルヒ。隠れる側にだけ伝えるんじゃ公平とは言えないだろう。
「ルールと言えば、もう1点確認しておきたいのですが」
 まだなんかあったっけか?
「あなた方、隠れる側は移動されるんですか? 1ヶ所に留まっているのですか?」
「涼宮ハルヒからは部室から出て学内のどこかに潜伏するという以外、特別な指示は受けていない」
 それで図書室か。かくれんぼになってねえぞ。
「朝比奈みくる、涼宮ハルヒ両名とも既に移動はしていない。これからも移動する予定はないと思われる」
 もう移動はしていない。それは俺たちにとって有利な話だな。もっとも、ハルヒはどこにいようと今のところ見えないわけだが。

 とにかく、さっさと探すとするか。どうすりゃいいのかさっぱりわかんねぇけどな。

「わたしはあなたたちにチョコレートを贈呈したい。期待してる」
 そう言った長門は、1ミクロンほど微笑んだ気がした。