天体観測 月と火星編
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【涼宮ハルヒの憂鬱】涼宮ハルヒを語れ その80より
537 名前: 名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日: 2008/02/16(土) 20:17:58 ID:w3CEqcwY
ハルにゃんと天体観測したい

この日、火星と月が視覚的に接近していたので書いた話。

「天体観測をするわよ!」
 いつもの通りの放課後、今日もいつも通りに朝比奈さんのお茶を啜りながら古泉と将棋を指していると、突然ハルヒがそんなことを言い出した。ハルヒが突然何かを言い出すのもいつものことで、それに対して俺以外が反論しないこともいつもの通りである。
「こんな季節に天体観測なんて冗談じゃねえぞ。へたすりゃ氷点下だ。風邪でもひいたらどうする」
 もちろん、俺の反対意見が却下されるのもいつもの通りだ。
「何言ってんのよ! 本当は去年の12月にやりたかったのに、あんたが怪我をして入院なんかしてるからやりそびれちゃったんじゃないの!」
 何で俺のせいなんだ。いかにも今思いつきましたって言わんばかりなくせに。
「去年の12月19日! 火星が地球に一番接近している時期だったのよ。一番近いんだからもしかしたら火星人が見えたかもしれないのに、見そびれちゃったわ」
 今回の火星接近はいわゆる「大接近」と言われる物ではなかった気がするし、第一接近したから火星人が見えるんだったら、とっくの昔に見付かってただろう……なんて言いながら発見しかねないのもハルヒなのではあるのだが。
「非常によろしいかと。夜空はやはり、冬の方が綺麗ですからね」
 団長の意見に反対するということを知らない副団長がにこやかな顔をしてお追従を言いやがる。たまには反対しろ、と突っ込む気すらもう起きなくなっていた。
「ええと、暖かい飲み物が要りますねぇ」
 お茶くみメイドさんは、すでに飲み物の心配をしてくださっている。う~ん、寒い夜に朝比奈さんのお茶を飲む。朝比奈さんが入れてくださるだけで甘露と化すお茶は、夜空の下で飲むことで、ワインに変えられた水よりもっと奇跡的な味になっているに違いない。
 そんなことを考えていると、
「なーに鼻の下伸ばしてるのよ。マヌケ面」
 なんてハルヒに言われてしまった。うるせえ、マヌケ面で悪かったな。
「じゃ、今日夜8時に有希のマンションに集合ね!」
 おい、長門、意見も聞かれずにマンションが使われることになったんだがいいのか。
「いい」
 答えは予想通りであった。

「やっぱり寒いわね」
 言い出しっぺがそれじゃ、ワガママに付き合ってる俺たちが浮かばれない。
 長門のマンションの屋上、夏休みと同じように古泉が用意した望遠鏡で、やはり夏休みのときのように地球のお隣さんの赤い星を覗き込んでいたのだが、15分もしないうちにハルヒが寒さに文句を言い出したのだ。
「それに、何かやけに明るくて良く見えないし」
「月と火星が接近していますからね。星だけを観測するなら、月明かりはない方がいいのですが」
 確かに火星を見るには月が近すぎる。だいたい地上にこれだけ明りがあるのだから、星なんてたいして見えるわけもないのだが。
 ハルヒはすでに飽きてきてるのか、と思って見てみると、望遠鏡は覗かずに直接空を眺めている。ハルヒが見ている方向に目をやると、そこには半月より少し太った月と、申し訳程度に赤く光る火星があった。
「月があれだけ明るいと、火星は目立たないよな」
 別に意味はないのだが、なんとなく呟いてみる。
「そうでもないわよ。これだけ月に近いと、普通の星なら見えないはずだもの。月の近くにあってあれだけはっきり見える星なんて滅多にないわ」
 そういうもんなのか。俺にはよくわからん。
「ま、あんたもあの火星程度には認めてあげなくもないけどね」
 なぜかハルヒはいきなりそんなことを言うと、
「寒いから有希の部屋に戻りましょ! キョンは望遠鏡片づけるの手伝いなさいよ!」
 と言って、長門と朝比奈さんを伴ってさっさと降りてしまった。俺も早く暖かい部屋に戻りたいぜ。
 そう思いながらももう一度月と火星を見上げる。月の明かりに圧倒されている火星は、なぜか「やれやれ」とでも呟いているように見えた。
「ま、あの火星は月から離れて行けるんだろうけどな」
 何も俺が心配してやる必要はないよな。
「おや、あなただって離れようと思えば離れられるはずですが」
 俺の独り言を聞いたニヤケ面がそんなことを言い出す。何を何に例えている気だ……なんてわざわざ聞く必要もない。
「離れる気があればな」
「驚きましたね。それを自ら認めるとは思いませんでした」
「あのとき、こっちを選んだのは俺だからな」
 そのころ火星が地球に接近してるなんて気づく余裕もなかったな。きっとそのときの火星は今より明るかったんだろう。今より明るくても、自分より圧倒的に存在感のある奴なんて隣にいなくて。
「なるほど。あれは大変なことだったのかもしれませんが、あなたにも長門さんにも良い変化をもたらした、とも言えるかもしれませんね」
「長門はともかく俺はどうかね」
 そうなのかもしれないが、古泉の言うことを認めるのはシャクだ。
「寒いからさっさと片づけて長門の部屋に戻ろうぜ」
 無理矢理話を逸らすと、俺は片づけの続きを始めた。古泉のニヤケ具合が増しているような気もするが、気がつかないふりをしておく。古泉に本音を悟られていると思いたくはない。
 まだしばらくは、団員その1としてあいつのそばにいていいだろ。少なくとも、月明かりに負けない程度の存在とは認められたわけだからな。

 そのうち、月も火星も関係なく、いつでも隣にいる存在になってやるさ。
 それがいつかはまだわからないけどな。


  おしまい。