素直になる頃
短編 | 編集

「さぁ~て、今日もミーティング始めるわよ!」
 我らがSOS団団長涼宮ハルヒは、机の上に立つとそう宣言した。
「おいハルヒ、下りろ。パンツが見えt……ぐはっ」
 せっかく人が忠告してやろうとしているのに容赦ないケリが入った。
「エロキョン! な、何見てるのよ!」
 情けないことにハルヒのケリで床に転がった俺は、それでも上半身を起こして反論した。
「見たんじゃなくて見えた……ぐぇえええ!」
 フライングボディーアタックは妹だけで十分だ!
「いってえなあこの野郎!」
 机の上から勢いつけられたので結構なダメージだ。頭もぶつけたらしくかなり痛い。

「……ちょっとあんた、何してんのよ」
「え?」
 どうやら俺は飛んできたハルヒをとっさに抱き留めたかっこうになっていたらしい。
「サッサと離しなさい!」
 ああそうだな。て、すみませんが離せないんですがハルヒさん?
「何やってんのよ!」
「俺だって訳がわからん! 何でかしらんが腕が動かん!」

「おやおや、これは見せつけてくれますね」
 自分の状況に手一杯で忘れていたが、そういやこいつらいるんだよな。朝比奈さんは愛らしい目をまん丸にして、赤面したままこっちを見てるし、長門も本から目を上げて俺たちを見つめている。
「僕らは退散した方がよろしいようですね」
 おいおい、このままハルヒと残されたらヤバイ! いろんな意味でヤバイ!
「頼む古泉! 何とかしてくれ!!」
 俺は必死に懇願した。体の一部が動かないという異常事態もさることながら、この後ハルヒの鉄拳制裁を想像すると死にたくなる。というより、今のこの状況ですでに死にたい。
「それでは今日は失礼します」
「あ、あの、わたしもこれで……」
「帰る」
 三者三様の挨拶を残して、本当に帰りやがった。朝比奈さん、メイド服のまま帰る気ですか? なんて人の心配をしてる場合ではない。

 俺の腕の中には未だにハルヒがいる。て、お前何真っ赤になってるんだよ。
「ううううるさい!」
 おい、この距離でそんな怒鳴るな、耳が痛い。
「も、もう、本当に腕が動かせないなら仕方ないわね。しばらくこのままでいなさい!」
 これはこれは、団長様にしては随分寛大な処置ですね。
 いつもと調子の違うハルヒを見ていると、俺も頭の調子が狂ったらしい。
 離すことはできないくせに、力を込めることはできる腕でハルヒを抱きしめた。

「ちょっとあんた……」
 ハルヒが真っ赤になって睨んでくる。
「ああ悪い、何故か勝手に腕に力が入るんだ」
 ニヤニヤ笑って返してやると、「う~」と言って俯いた。
「……後で覚えてなさいよ」

 後の罰ゲームを考えると怖いが、俺はそんなに悲観していなかった。
 だって、この状況はお前が望んだんだろ?ハルヒ。
 だったら、俺もそろそろ素直になる頃合いかね。やれやれ。

----------
他人様のレスから続きを書きました。
754 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/21(日) 11:48:12.98 ID:xpyl1D7B0
2ヵ月後、ミイラ化した二人の死体が文芸部室から見つかった。
二人は仲睦まじげに抱き合った格好で発見されたとの事である。
----------

 しかし、いつまで俺はこうしていればいいんだ?
 ハルヒを抱きしめながらも、だんだん冷静になってきた。体制的にも辛いし、>>754が現実になっても困る。いや、さすがに2ヶ月誰も来ないなんてことはないだろうが。
「ハルヒ」
「何よっ!」
「いい加減、何とかしないといかんと思うんだが」
 この状況がハルヒのせいだとしたら、ハルヒに何とかしてもらうしかない。
「あんたが離さないのが悪いんでしょ!」
 それはそうなんだが、どうしたら離れるのかね。こういうときに解説するのは古泉の役目なんだが、とっくに帰ってしまった。やれやれ、俺は古泉ほどハルヒの精神分析に長けている訳じゃないんだぜ。

 この状況はハルヒが望んだんだよな、たぶん。未だ離れないということは、ハルヒが離れたくないってわけで……
 いや、止めよう。この体制でそれ以上考えると色々ヤバイ。ただでさえ密着しているんだ。
 さて、2人で身動きできない状況と言うと、やはりあの閉鎖空間を思い出す……

 ちょっと待て。
 あれか? あれなのか?

『白雪姫』『sleeping beauty』

 おい、ベタにも程があるだろ! それにこれを試しても夢オチにはできんぞ!
 とはいえ、この状況を打開するのに他にいい策も思いつかない。いいんだな、俺。

 ま、いいんだがな。さっき思っただろ。そろそろ素直になる頃合いだって。さあ、覚悟を決めようかね。

「ハルヒ」
「だから何よっ!」
「お前、こうしてるの嫌か?」
「えっ?」

 また真っ赤になっている。可愛いじゃねぇか畜生。
「い、嫌っていうか……仕方ないじゃない、離れられないんだから……」
 おいおい、それじゃ答えになってないぞ。素直じゃないのは俺以上か?
「俺は嫌じゃないぜ」
 俺は更に腕に力を込めた。
「ハルヒが好きだからな」
 そう言うと目を見開いて俺を見つめているハルヒにキスをした。
 体制的にハルヒの頭を押さえられないので、ハルヒが顔を背けたら終わりだ。
 だが、ハルヒはそのまま動かなかった。

 そのときようやく腕が動いた。それでも俺はハルヒを離さず、片手でハルヒの頭を軽く押さえてやる。
 しかし、そこでハルヒが跳ね起きて俺から離れた。

「な、なな、何すんのよあんたは!」

 真っ赤になって口を押さえながらぷるぷると震えている。ヤバイ、やりすぎたか? 先に謝っておくか。
 俺も立ち上がりながら、謝罪の言葉を口にした。

「とりあえずすまん」
「謝るのに『とりあえず』なんてないでしょ!」
「ああ悪い、でも返事を聞かせて欲しいんだが」
「返事って……!」

 ハルヒはしばらく俯いてなにかごにょごにょ言っていたが、顔を上げて俺を睨み付けてきた。
「キョンのくせにあたしにこんなことするなんて……! 罰が必要だわ!」
 おいおい、やっぱり罰ゲームか? 見通しが甘かったのか、俺。
 ハルヒは俺のネクタイを引っ張るとにやりと笑って言った。
「覚悟しなさい!」
 あー、さよなら俺の人生。やっぱり辞世の句くらいは用意するべきだったか。
 などと思ったとき。

 ハルヒの唇が俺の唇と重なった。
 ああ、そういうことですかハルヒさん。
 俺はハルヒの背中に手を回すと、再び唇の感触を味わった。

「……そう言うことだからっ」
 唇を離して、目をそらしたままハルヒは言った。
「まあ、これからよろしく」
 今更照れくさくなって、俺も目をそらしたまま言った。


 後から聞いた話だが、俺の腕が動かなくなったのは俺の演技だと思っていたらしい。
「あんな回りくどい方法で告白されるとは思わなかったわ」
 いや、演技でも何でもなかったんだがな。望んだのはお前だろうが。

 ……やれやれ。


  おしまい。