欲しければ欲しいほど ~ホワイトデー編~ その3
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 有希曰く。
「これはシーザーの暗号と呼ばれる極めて原始的な秘密鍵暗号。元の文章からアルファベットを鍵の数だけずらして対応させる。この文章の場合、逆方向に14ずらせば『HAIR SALON GREENGRASS』となる。1から25のすべての鍵を適応させたときに意味のある単語を生成するのは14のみ」
 普段無口な有希が一気に説明してくれたのは、こういうの好きなのかしらね。それにしてもすべての鍵を適応って、一文字ずつずらして全部当てはめてみたのかしら? 頭の中だけでそんなことが出来るなんてさすが有希、すごいわ!
 『シーザーの暗号』。ヒント1はそれを教えるための物、そしてヒント2の『14』という数字は暗号化の鍵そのものだったワケね。
 ふうん、割と考えたじゃない? これを考えたのは古泉くんだと思うけど、有希には敵わないわね!
「ここから見えるって書いてあるわよね。じゃ、外に出ましょう」
 2人を促して席を立った。会計は必要ないけど、どうせ奢られるんだったらこんな形じゃなくて、またキョンが眉間に皺をよせながら情けない顔をしてブツブツ言いながら払っているところが見たかったような気もするわ。


 店の外に出て辺りを見回してみる。通りに面して軒を連ねる洒落たお店の中に、確かにその看板が見えていた。「HAIR SALON GREENGRASS」。ヘアサロン、美容室ね。わざわざそんなところに連れて行くなんて、何を企んでいるのかしら?
 考えていても仕方がないわ!
「じゃ、あの店に向かってしゅっぱーつ!」

「やあやあ! ハルにゃんたち、来たね!」
「「鶴屋さん!?」」
 同時に声を上げたのはもちろんあたしとみくるちゃん。有希はこんなときでも驚いて叫んだりは絶対しそうにないわよね。
「あははっ ここあたしの行きつけの店なのさっ! キョンくんと古泉くんに紹介してくれって頼まれたんだよ。それで、せっかく綺麗どころ3人が着飾るって言うから見に来なくちゃ損! ってわけ!」
 鶴屋さん御用達だったのね、ここ。あの長さの髪を綺麗に保っているのだから、きっとかなり手入れをしているんでしょうね。
「さあさあ、そう言うわけだから、ちょろ~んっとやっちゃってくれるかなっ!」
 まさに鶴の一声、美容師さんと思われる人があたしたちを引っ張って奥の部屋へと連れて行ってしまう。
「えっ? ちょ、ちょっと、どうなってるの!?」
「ふぇぇ、何するんですかぁ~?」
「…………」
 あたしたちの反論する声なんて誰も聞く耳持っちゃいないわ。もしかしたら、鶴屋さんはここでは権力者なのかもしれないわね。
「今日は若い女の子3人~♪」
「いいわね、若いって。肌キレイ~♪」
 あの、お姉様方、テンション高いわよ。

 先ほどの店で受け取った服に強制的に着替えさせられたあたしたちは、今度は鏡の前に座らされた。こういう役目はみくるちゃんだけでいいんだってば!
 美容師さんたちは手慣れた手つきであたしたちの髪の毛をアレンジしている。みくるちゃんは緩くまいてもらってる見たいね。もともと巻き毛だけど、ああやって整えるとお姫様みたいだわ。
 有希はムースをつけて、髪の毛の流れを無造作に変えたような髪型になっていた。普段とはまた趣が違って可愛いわ。
 あたしは一度高い位置でまとめてから、毛先を散らして飾りつきのピンであちこちとめたような髪型。
 言っておくけど髪型の説明が下手なのは書いた人の責任だからね、あたしに責任はないわよ!
 あたしたちが髪とメイクをしてもらっているあいだ、鶴屋さんはご満悦で眺めていた。
「おっ 完成かなっ!?」
 ようやくヘアメイクが終わったあたしたちを見て、鶴屋さんは笑顔を更に明るくした。
「うんうん、いいねっ! 3人とも可愛いよっ!」
 鶴屋さんじゃないけどみくるちゃんも有希もとても似合っている。もともと見栄えのするみくるちゃんは、レースの生地を使ったAラインのワンピースに、少しくすんだピンクのコートを羽織っている。ゆるく巻いた髪には大きな花を飾りにつけてあって、もうこれで惚れない男がいたらガチでゲイ確定よ! ていうくらい似合っていた。
 有希も可愛いのにいつも制服だったけど、今日は柔らかい生地のやっぱりワンピースで、ハイウエストの切り替えが可愛い。ワンピースの上から、ロング丈のカーディガンを羽織っている。
「2人ともすごく似合うじゃないっ! かっわいい~!」
 思わず2人とも抱き寄せて叫んじゃったわ。
「ふふ、そう言う涼宮さんも素敵ですよ」
「そう、ハルにゃんもすごく綺麗だよ! きっとキョンくんもめろめろさ!」
「ちょっと鶴屋さん、何言ってるのよ!」
 だからキョンは関係ないでしょ!
 それはともかく、あたしの服はタイトなラインで、スカートの裾で切り替えて拡がっているワンピースに、短めのコート。普段のあたしなら着ないような服なんだけど、悪くはないわね。誰が選んだのかしら? きっと、店員さんだと思うけどね。
 ええ、そうよ、服の説明が上手く出来ないのもあたしじゃなくて作者の責任だから!

 洋服だけじゃなく、靴もコーディネートされていて、ちょっと驚いた。ここまで気を回すのは古泉くんかもしれないけれど、キョンはよく同意したわね。また財布が軽くなるなんて泣いているんじゃないかしら。

 それはともかく、いきなり着せ替えのようなことをさせられて、いったいどういうことかしら?
「きっと、このお洋服がプレゼントなんでしょうね」
 ニコニコ笑ってみくるちゃんが言っているのは、多分正しいわ。まさかプレゼントをこんな渡し方されるなんて思ってなかったからびっくりした。
 うん、まあ考えたんでしょうね。それは認めてあげなくもないわ。

 それより、あの2人はどこにいるのよ?

「んじゃ、お姉さんからこれをあげるよっ!」
 あたしの質問に、鶴屋さんは封筒を渡すことで答えた。
「何よ、まだ出てくる気がないってわけ?」
「あはは、むくれないむくれない。大丈夫、すぐ会えるにょろよ」
 鶴屋さんの言うとおりかもね。封筒の表にはこう書いてあったから。
『これで最後だ』
 急いで封筒を開けようとしたあたしを、鶴屋さんは止めた。
「まだ時間はあるにょろよ。お姉さんがお茶奢ってあげるから、一緒に行こっ!」


 ここも鶴屋さん御用達なんでしょうけど、ちょっと高そうなティールームに招待された。
「うん、可愛い娘っこ3人も連れて歩けるなんてあたしは幸せものさっ」
 そんなお父さんみたいなことを言っている鶴屋さんだって充分素敵なのにね。
「それ」
 そんなあたしたちの会話に呆れているのか、有希が先ほど渡された封筒を指さした。そうね、早く開けなくちゃね。
「これで最後ですかぁ。キョンくんたち、どこにいるのかなぁ」
 ほんと、どこにいるのかしら。だからこういうイベントはみんなでやりたいんだから、会ったら文句言ってやるんだから!
 それに。

 早く、キョンに会いたい。


『彼女は1981年に生まれた。
 世界は彼女の中にある。
 たまには世界に背を向けて、テレビでも見たらどうだ?
 
 時間は午後5時。』

「……何、この意味不明な文章は」
「1981年、ですかぁ?」
「あははっ 考えたねっ!」
「鶴屋さんは、これの意味がわかるの?」
「意味というより、キョンくんたちがどこにいるか知ってるだけさっ!」
「…………」
 これも一種の暗号よね。1981年。あたしが生まれるより前だわ。何かあったかしら。それとも、この数字自体が何かの暗号?
「あんまり難しく考えることないよ」
 鶴屋さんがニコニコ笑って言う。うーん、高見の見物されているみたいだわ、って実際そうなのよね。
「5時まで、って制限つきよね。今はまだ2時半かぁ。後2時間半でこれを解いて、これが示している場所まで行かなくちゃならないのよね」
「1981年」
 有希が呟いた。
「何があった年?」
「始めてマウスES細胞の作成に成功したとの記事がネイチャー紙に載せられた」
 それ、あんまり関係ないような……。
「江本孟紀が監督批判の後、阪神を引退」
 知らないわよそんな昔の選手なんて。
「フランスでTGV運行開始」
 一度乗って見たいわね……じゃなくて。
「史上初にしておそらく最後の同一本拠地チームがリーグ優勝を果たし、いわゆる『後楽園対決』が実現した。当時の監督は読売ジャイアンツが藤田、日本ハムファイターズは大沢親分。日本シリーズを制したのは読売ジャイアンツ」
 えーと、何でそんなことに詳しいのよ。
「福井謙一博士、日本初のノーベル化学賞受賞」
 誰? それ。
「……遺憾を覚える。湯川秀樹(物理学)、利根川進(生理学・医学)、川端康成(文学)、佐藤栄作(平和)などの各賞最初の受賞者は、『名前くらいは聞いたことがある』と言われることが多いのに、福井博士は何故か名前すら覚えられていないことが多い。彼の功績は偉大。彼は一般人にももっと評価されるべき」
 わかったわよ、悪かったわよ。だけど今は関係ないわよね、多分。他にないの?
「この市において日本初の新交通システムが運行開始。世界初の無人運転システムを採用」
 まあ、この市には関係あるけどね。
 さっきから鉄道ネタと野球ネタと科学ネタばかりじゃない?
 ウィキペディア辺りから興味のある出来事だけ抜き出してるんじゃないでしょうね。
「ぎく」
 ぎくって。

「あーもうわかんない! それに世界って何よ。世界が彼女の中ってワケわかんないわよ!」
「なんか、涼宮さんのことみたいですね~」
「みくるちゃん、それどういう意味?」
「へっ あっ いや、何でもないです~! ただそう思っただけです~!」

 もう、こんなことやっていたら時間がなくなっちゃうじゃない!



やっちまいました実在の場所ネタ。
クイズ的には実在の場所を指していますが、SS的には実際にない場所です。
意味不明?
というのは、これから先の展開は、現地を知っている人なら「そこにそんなもんねーよ」と言いたくなるに違いないからですw
ただ、このクイズ自体は実在の場所として考えてもらってもいいのですが、簡単なようで一部難しいかとも思います。

ヒントはハルヒのモデルとなった場所、その県庁所在地。
1981年、といえば、そこに住んでいる人である程度の年齢の人ならすぐにピンとくるようです。
で、まあそこにある世界を探してくださいってことで、多分地元の人じゃなきゃ分からないクイズかもしれないwww

後は最初に出てきたブランド名「Unlimited」の名前は、実は「UNTITLED」ってブランドがあるなーと思ってつけただけってのが実はヒントになってたりなってなかったり。
あ、これで分かった人が多いに違いない。特に女の人。