Happy End! おまけ~どういう状況かはご想像にお任せする
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第1話第2話 その1 その2 その3 その4おまけ

 世の中には面白い奴がたくさん居るはずなのに、あたしより面白い経験をしている奴もたくさん居るはずなのに、どうしてあたしの前には現れないの?

 いつからか心にあった疑問は、大きな苛立ちとなってあたしの中で渦巻いていた。どうせ面白いことなら人間以外の何か。そう決めて色々やってみたけど、面白いことなんか何も起こりはしない。
 それでもあたしはひたすら走り続けたわ。
 立ち止まることも忘れていたのかもしれない。
 何も見付からないことに焦ってすらいたのかもしれない。
 普通の人間なんて面白くも何ともない、なんて頑なになっていたのかもしれない。

 あたしの中学時代は、そうやって心を閉ざしたまま過ぎていった。

 中学1年生の時の七夕。あれが唯一の不思議体験。
「ジョン・スミス」なんてふざけた名前で名乗った北高生は、ついに見付からなかった。
 え? 何それって、あたしだって分からないわよ。匿名希望だなんて言ってたわ! まったくふざけてるわよね。
 あいつが何ものなのか、未だに分からないわ。あれだけ探しても見つからない、なんてどう考えても不思議よね。
 でも、もういいの。何でって、だって見つかってしまったらきっとそれは不思議じゃなくなってしまうから。

 そしてジョンの面影を追って入学した北高で、あたしはキョンと出会ったの。

 最初はこいつもつまんない、普通の奴じゃないって思ってたのよ。
 でも、あたしの髪型の法則に最初に気づいたのはキョンだった。正直言って、意外だったわ。髪型に関して声をかけてきた奴がいなかったわけじゃない。でも、そういう奴はみんな言うことが同じ。「髪をいじるのが趣味なの?」とか「その髪型似合ってる」とか。
 それなのに、キョンだけは違った。こんな普通で面白みもなさそうな奴が気がつくなんてね。

 あたしにとってはこれがきっかけだったの。

 その後、SOS団を作ることを思いついたのもキョンのおかげだった。面白いことがなければ作ればいいんだって。

 そんな風に過ごしていく中で、キョンの存在があたしの中で少しずつ変化していった。

 SOS団を結成してから最初こそ楽しかったけど、やっぱり何も起こらないことにイライラしていたわ。
 ううん、何も起こらないことにじゃなかった。そう、今では分かっているわよ。
 イライラしていた本当の理由はキョンよ。
 みくるちゃんにデレデレしてばっかりいるキョンにむかついたの。笑えるでしょ? 当時は絶対に認められなかったけどね。

 でも、だんだんそんな気持ちとも折り合いが付くようになってきたわ。
 このあたしがよ? 妥協してるみたいじゃない。
 きっかけ? うーん、多分、あの夢だと思う。たかが夢なんだけど、あたしには今でも夢だと思えないのよね。
 え? 夢の内容? それはダメよ、内緒! ダメダメ、絶対教えないんだから!

 まあ、それはともかく、あたしはいつの間にか普通の日常さえ受け入れるようになってたわ。これも気がつくのは随分と遅かったけど。
 あたしはいつだって非日常的なことを求めていると思ってたし、そういうことが起きないと満足出来ないと思っていたわ。でも、今考えると、何も起こらないのにSOS団で過ごす毎日に結構満足しちゃってたわよね。うん、今思い出しても楽しかったわ。

 中学時代のあたしは、安らぐなんてことを知らなかった。休むことなんて大切じゃない、むしろ怠惰くらいに思ってたし。
 でも、そういう幸せっていうのもあるんだな、って今は思ってるの。あたしに安らぎを与えてくれる、あたしが誰かに安らぎを与える、そういうのも大切なことなのかなって。

 キョンがずっと前に青い鳥って知ってるかって聞いたわよね。そうよ、良く覚えてるでしょ? キョンの言ったことだもの。それ、今は何となく分かるような気がするわ。冒険に出て追い求めるんじゃなくて、家に帰って普段の生活の中にある幸せ、みたいなもの?
 え? そういう意味じゃない? じゃあどういう意味よ!

 ……まあいいわ。

 とにかく、結局あたしは完全に“普通”を受け入れたわけよね。キョンのせい? キョンのおかげ? 今でもどう思っていいか判断しかねるわね。
 何よ。あたしは今でも全然普通じゃないって、失礼ね! 何笑ってるのよ!

 もう、言おうとしてたこと忘れちゃったじゃない。

 そうそう、キョンがあの時あたしの前に座って、振り向いてあたしを見たときから、あたしは見ようとしていなかったものが見え始めていたのよ。それまでは本当に子供だったと言っていいわね。
 やっぱりキョンには感謝してるわ。

 あの時、キョンと出会ってキョンが話しかけてくれて、そうして今までキョンと過ごしてきたからこそ、あたしは1つの幸せの形を見つけたんだと思うの。
 それは、今、ここにある。

だから────


──────────

「色々言ったって、結局理由なんて要らないのよ。ただ、あんただけなの」

 ハルヒは柔らかな笑顔でそう言った。
 俺が何となく聞いた、
「本当に俺でいいのか? 何で俺なんだ?」
 なんてヘタレな質問に真摯に答えてくれた。

 ああ、そうだな。理由なんて要らなかったな。ハルヒは本当にこんなに真剣に俺を思ってくれているのに。
 俺は胸を締め付けられるような気分を味わった。
「変なこと聞いて悪かったな。ただ、明日から……」
「恋人同士じゃなくなるから?」
「まあ、そういうことだ」
 バカね、と言ってハルヒは俺の胸に頬を押しつけた。
「そういうキョンは? あたしでいいの?」
 もちろん本気で不安になっているわけではない証拠に、くすくす笑いながらハルヒは聞いてくる。
「まあ、実のところ理由は色々あるんだが……」
「何よそれ」
「今更言う必要なんてそれこそないよな。俺もお前だけだ、ハルヒ」
 そう言ってハルヒの頬に手を当てると、ハルヒは俺の手に自分の手を重ねた。そのまま顔を近づけて唇を重ねる。
「だから、明日からもよろしくな」
「こちらこそ」

 数年続いた俺たちの恋人同士という関係は今日で終わる。

 明日から新しい関係が始まっても、この気持ちだけは変わらないだろう。でも、最後の夜だからこそ確認しておきたい気持ちでもあった。


 明日は俺とハルヒの結婚式なのだから。


  おしまい。


実を言うと、この話が「Happy End!」を書こうと思ったきっかけでした。
結婚生活を描いたものや、恋人同士のSSはたくさんあるけど、結婚を決めてからのいろいろな思いを書いた物はないんじゃないかなーと思っただけですが。
まあ、成功しているとはとても言えないけどなw