涼宮ハルヒの感染 プロローグ
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ハルヒが顔に怪我しちゃった保守の続編
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 地球上で人類を始めとする生物たちが生きていけるのは、様々な条件が偶然にも好都合に揃っているからで、そのうち何かが欠けても生きていけないのは、今更俺が言うまでもない常識以前の問題だ。
その条件の中でも最重要といえる位置にあるものの1つが太陽だろう。太陽がなければ気温も上がらず、地球はひたすら不毛の地でしかなかったと言うのは過言でも何でもない。
しかし、地球はそのありがたい太陽の周りをぐるぐる回りながら尚かつ自分でもぐるぐる回っており、しかも回る面に対し傾いて存在しているわけだからタチが悪い。
つまり、季節があり、昼夜があると言うことだ。極地は一定期間太陽の恩恵自体受けられなくなる。
 12月──今の季節は冬。楕円形の公転軌道から言うと太陽に近くなっているにもかかわらず、太陽の恩恵が少ない季節だ。

 まあ、こんな読み飛ばされることを前提とした誰でも知っている蘊蓄なんざどうでもいいことだが、
街がキリストの生誕に浮かれる季節の早朝6時過ぎという、太陽の登る直前──つまり最低気温が記録されるだろう時間に自転車を飛ばしている俺としては、文句の1つも言いたくなるわけだ。

 寒い。夏が恋しいね。

 すでに日課になってしまった早朝サイクリングも、まだ始めた頃は良かった。
 俺たちの住んでいる街は、全国的に言ってもさほど寒い地域ではなく、したがって少々着込めば多少の寒さは凌げるわけだ。
しかしここ最近は頂けない。
着込んだダウンジャケット越しに冷たい空気が肌を刺す。
露出している顔はすでに痛み以外の感覚がなく、おそらく赤らんでいることは間違いない。

 それでも、ここ2ヶ月続けている早朝サイクリングを止める気はない。
 放課後、文芸部室に行くのが当たり前のように、毎朝俺はこの時間に自転車に乗って登校する。
別に運動部に入って朝練をやっている訳でもない。
では何故──と言われると困る。こんなに早く行く必要性は全くない。

 強いて言えば、あいつが怒るからか。

 そんなことを考えているうちに、第1中継点に到着した。

「キョン! おっはよ~~!!」

 冬だと言うのに、笑顔とパワーは真夏なみの我らがSOS団団長、涼宮ハルヒが挨拶とともに出迎えた。
「朝早いんだからあんまり騒ぐな。近所迷惑だ」
「何よ。朝だからこそでしょ! 1日だって最初が肝心なんだから!」
相変わらずのテンションで言った後、アヒル口になって文句を言った。
「それより挨拶返しなさいよ」
ああ悪い。おはよう。

 そう、俺はハルヒを迎えに行って、一緒に登校しているのだ。しかも朝早くから。
 こんなことになるとは、数ヶ月前の俺なら全く思いもしていなかった。
世の中何が起こるかわからん、ということだけは身に染みていたにもかかわらず、だ。

 というわけで、少しだけ回想してみよう。

──────────

 ことの起こりは2ヶ月ほど前だった。
 何のことはない。ハルヒが怪我をした、ということだ。
決して俺のせいではない。ハルヒが勝手に転んだだけだ。
俺は近くにはいたが、手の届くところではなかった。
それなのに、ハルヒは俺の責任と宣言したあげく、登下校の送迎を命令しやがった。

 何故? Why?

 結局ハルヒが俺に反論の余地をくれるはずもなく、俺はアホみたいにハルヒの足と化していた。
例によって遅刻は罰金だそうで、ハルヒに負けまいと早く行ったのが仇になり、未だにこんな早朝登校を続けている。
母親が弁当を作ってくれなくなったが、冷食と残り物を使うのを認めてくれたので、自分で冷食を放り込んだだけの弁当を用意している。
 財布が厳しいからな。

 ハルヒの怪我は、10日ほどで治った。別に続ける必要もない。
なのに、俺は何の気の迷いかハルヒの傷が癒えてからも、続けていいかと聞いてしまったのだ。
せっかく早起きが身に付き始めたのに終わらせるのが勿体ない──というのは建前だ。
 本音を言おう。
 俺は結構楽しかった。
 朝早くからハルヒを迎えに行き、一緒に登校して、部室で茶を飲みながらしゃべる。
ただそれだけなのに、楽しかった。
こんな時間がずっと続けばいい、本気でそう思った。

 ハルヒはどうなんだ?

 そんな疑問もあったが、それは解消済みだ──と思う。
2週間か、もっと前か。いつもの早朝の部室で、ハルヒが突然お礼を言ってきた。
ハルヒに礼を言われるという珍しい体験をしたうえ、あろうことがハルヒは俺に

──キスしてきた。

 礼、なんだそうだ。あくまでも。欧米かよ。
いや、嬉しかったさ。ハルヒが黙っていれば美少女とかそういうことじゃなくて、ハルヒ自身がキスしてくれたってこと自体が。
『お礼』じゃなければもっと嬉しかったんだけどな。
そう思った俺は例の閉鎖空間で行ったことをそのまましてやった。
セリフもそのままだ。そこ、笑うな。

──────────

 恥ずかしい回想はこの辺にしておこう。

 まあ、そういう訳で俺は今朝もハルヒとともに早朝の学校に向かっているわけだ。
付き合っている、という訳ではないと思う。
第一、俺たちはお互いの気持ちを口に出した訳ではない。──行動には出したが。
それに、あれから何かあったか?と聞かれると何もない。
いつも通りの俺たちであり、いつも通りのSOS団であった。

 こんな中途半端な関係だが、今のところ俺はこのままでもいいと思っている。
ハルヒが側にいるしな。枯れてるとか言うなよ。
俺だって普通の男子高校生だ。そりゃいろんな欲求がないとは言わないさ。
でもな。相手はあのハルヒだぜ。急いては事をし損じるなんて生易しいもんじゃないだろ。
急いては世界が滅びる。誇張でもなんでもなくな。
今はまだゆっくりやればいい。俺は本気でそう思っていた。


 結論からいうと、俺は間違っていた。
 こんな悠長な思いで毎日を過ごしていたかと思うと腸が煮えくりかえるね。


 これからの1週間がとても長く、あんなに苦しい物になるなんて、このときの俺は思ってもいなかった。