休日
捧げ物 | 編集

R254様からカウンターキリ番(22222)ゲット記念としてお題を戴きました。
『頭をクシャクシャっとされるキョンハル』
まったくこなせてませんorz

 この1年を表すのに最もふさわしい形容詞は何かといわれても咄嗟に思いつかないが、ふさわしいかはどうかはともかく、非常に慌ただしかったということだけははっきりと言える。
 とにかく俺は北高に入学してハルヒに目をつけられてしまい、それに伴って宇宙人や未来人や超能力者からその非常識なプロフィールを以て自己紹介されてしまうという、中学時代では考えられなかった目に遭ったわけで、これで普通に学生生活をエンジョイしましょうなどと言われても不可能だったんだからしょうがない。
 そんな慌ただしい1年を振り返りつつ、俺は2年になる前の春休みを謳歌していた。
 とは言え、ハルヒが「どうせ宿題がないんだから暇でしょ」などと決めつけて、毎日のようにSOS団の活動をスケジュール帳に無理矢理記入するもんだから、そうそう休んでもいられない。

 今日は、そのSOS団の活動すら休みという、本当の意味での貴重な休日であった。
 天気予報は晴れのマークで埋め尽くされ、春らしい1日になるなんて言っているのは俺の気分を反映しているのかもな。
 しかし、せっかくの気候だが、普段の活動で疲れている俺は休養にでもあてようと、部屋でごろごろすることに決めた。毎日あいつに付き合って奔走してるんだから、たまの休みくらいゆっくりしたっていいだろ。

「キョンくーん、シャミいる?」
 何だ、妹よ。せっかく人がゆっくり寝ころんで本でも読もうと思ってるのに、シャミの所在が分からない? 俺の部屋にはいないぞ。
「あれー? シャミ、どこにもいないよ?」
「お前、窓開けっ放しにしていないだろうな」
 そんなに外が好きじゃないはずなんだが、この陽気に誘われて散歩でもしよう何て気を起こしたのかもしれない。
「1階の窓あいてるよー。お掃除してたもん」
 どうやら換気のために窓を開放していたらしい。それじゃ、外に出たのかもな。仕方がない。
「ちょっと探しに行ってくる」
 この陽気じゃ上着も要らないな。

 なるほど春らしい日である。歩くなら長袖Tシャツ1枚くらいで調度いいかもしれない。
 少し風が強い。空を見上げると、晴れた空に白い雲が誰かに追い立てられるように走っていく。瞬間的に雲に隠れた太陽は、あんた邪魔! と言わんばかりに雲をどかしてすぐに顔を出した。おいおい、少しくらい雲に隠れてゆっくり休んでもいいんじゃないのか?
 春の空に誰かを重ねている自分に思わず苦笑しながら、シャミセンが行きそうな場所を適当に歩いて近所の公園に着いた。その辺で昼寝でもしてるんじゃないかと思ったんだが。
 俺が公園で最初に見つけたのはシャミセンではなかった。

 どういう風の吹き回しでわざわざうちの近所の公園まで遠征してきたのかは分からないが、ベンチに腰掛けている横顔は間違いなくハルヒの物であった。そして、その膝の上でシャミセンらしき猫が丸まっている。
 こんなところで何やってんだ? あいつ。
 俺は立ち止まって、しばらくその横顔を見つめていた。
 ハルヒはいつもコロコロ変える表情とは少し違った思い詰めた表情をしていて、どう声をかけていいか分からなかったからだ。
 入学したての頃の不機嫌な表情とも違う、その何か心配したような表情はあまり目にしないもので、ハルヒがそんな顔をしていることに俺は────なんだって言うんだ? そこにいるのはハルヒであってハルヒでしかないのだから、何も声をかけるのに躊躇する必要はないだろう。
「こんなとこで何やってんだ?」
 先ほど思った疑問をそのまま口にすると、ハルヒはハッとしたように顔を上げて俺を睨み付けた。おいおい、俺何か悪いことしたか? さっきまでの表情が嘘みたいじゃねえか。
「キ、キョン!? あんた何でこんなとこにいるのよ!」
 おい、聞いてるのは俺だ。だいたいここは俺の家のすぐ近くなんだから、俺がいるのはおかしくないだろ。むしろお前がいることの方がよっぽどおかしい。
「うるさいわね! いいでしょ、そんなこと!」
 何がいいのかさっぱり分からん。それより、シャミを連れて帰らないとな。
「シャミセン見つけてくれたのか。家から勝手に出ていっちまってたんだよ。助かったぜ」
 そう言ってシャミセンを抱き上げる。
「連れて帰るの?」
「ああ、飼い始めてからは外に慣れてないからな。危ないかもしれない」
 元野良猫だから平気かもしれないけどな。
「そうね」
 そう言ったハルヒの表情は一瞬寂しげに見えた。お前はそんなにシャミセンと遊びたかったのか、それともさっき1人で居たときの表情と関係あるのか。
 とにかくそんな顔をされると黙って帰る俺が悪者みたいじゃねえか。
「まあ、シャミも外の空気が吸いたくて出たんだろうし、少し散歩でもしてから帰るかな。お前はどうする」
 俺がそう言うと、みるみる笑顔になりやがった。ほんと単純だよ、お前は。
「行くに決まってるでしょ!」
 それから俺はハルヒに引っ張り回されるのかと思ったのだが、意外なことにその予想は外れ、ハルヒは俺の隣に並んでシャミセンにちょっかいをかけながら楽しそうに歩いていた。よっぽどシャミセンと遊ぶのが嬉しいらしい。そういやこいつを拾ったのはハルヒなんだよな。

 1時間ほど近所を散歩した後に家に帰ることにしたのだが、何故かハルヒは「のど渇いたから何か頂戴」と言って俺の家まで上がり込んで来た。こいつの辞書に「遠慮」という文字はないのだろう。少なくとも俺に対しては。
 妹の大歓迎を受けた後、俺の部屋にまで勝手にやって来たハルヒは、その辺に転がっていた猫じゃらし(エノコログサのことではない)でまたシャミセンと遊ぼうとする。しかしシャミセンは遊ぶ気がおこらないらしく、面倒くさそうな顔をしてハルヒからするりと逃げ出し、俺の膝の上にやって来た。
「あ、キョンずるいわよ」
 何がずるいだ。猫は気まぐれだからな、遊びたくない気分の時に構われるのを嫌うんだよ。
「だってキョンは毎日シャミと遊んでるじゃないの」
 お前が拾って俺に押しつけたんだろうが。だったら最初から自分で飼えばよかったじゃねーか。
「そうすれば良かったかもね」
 意外にあっさり認めたハルヒは、その後何も言わず、俺の膝で丸まっているシャミを撫でていた。こいつでも動物を慈しむときには柔らかな表情ができるようで、目の前のハルヒから何故か俺は一瞬目をそらす。
「動物っていいわよね」
「何がだ?」
 まあ、時々シャミセンのように丸まって眠るだけの怠惰な生活に憧れないわけでもないが、ハルヒがそんな生活をよしとするとは思えんのだが。
「和むじゃない。ちょっとモヤモヤすることがあっても」
 そっちか。まあアニマルセラピーなる言葉もあるくらいだからな。て、なんかモヤモヤすることでもあったのか?
「……何でもないわよ」
 なんだ、言いかけてやめるなよ。気になるじゃねーか。
 俺の問いかけにも答えず、ハルヒはしばらく黙っていたが、やがてぽつりと呟いた。
「あんたはさ、楽しかったって言ったわよね」
 何の話だ?
「もう、忘れたの? この1年、楽しかったって言ったじゃないの!」
 ああ、その話ね。確かに言ったさ。そう、楽しかったからな。楽しかったと言い切るのに相当腹をくくらねばならなかったなんてことはハルヒには解るまい。
「みんなも楽しかったわよね」
 みんなってのは言うまでもなくSOS団の連中のことだろう。SOS団以外の人間を気にかけるとしたら、鶴屋さんと阪中くらいなもんだ。
「そりゃそうに決まってるだろ。あいつらが楽しくなかったなんて言ったか?」
 これは俺には確信がある。長門も朝比奈さんも古泉も、最初の頃よりよっぽどSOS団に馴染んでいるし、それぞれが所属する組織よりも、SOS団の一員であることを望んでいるように見える。実際、古泉はそう明言してすらいるんだ。
「あんたに言われなくても分かってるわよ」
 分かってるのかよ。じゃあ何で聞くんだ。
「……ちょっと夢見が悪かったのよ」

 別に、深い意味はなかった。ハルヒがちょっとらしくない顔をしているのが気にかかっただけだ。
 俺は夢見が悪かった、と少し暗い顔をして言うハルヒの頭を、まるで妹にしてやるようにクシャクシャと撫でていた。その夢はSOS団に関わるもので、しかもあまりいい結末ではなかったのだろう。
「ちょっと、髪の毛が乱れるじゃないの!」
 何故か少し赤くなりながらも文句を言うハルヒの頭をなおもクシャクシャ撫でまわしながら、俺は言った。
「変な夢を引きずってそんな顔してるバカにはこれくらいやらなきゃ治らんだろ」
 頭の中も一緒にぐしゃぐしゃにかき回して、いらん不安なんか感じないくらいになればいい。
「俺たちが楽しくなかったなんて、俺たちの団長がそんな風に考えちまったら、団員はどうすりゃいいんだよ。お前だって楽しかったんだろ」
 ハルヒはもう文句を言うのもやめたらしく、目を閉じて俺のなすがままになっていた。なんかお前も猫みたいだな。
「「あ」」
 なんて考えながらハルヒの頭を撫でていたら、カチューシャがずれた。
「もう、バカキョン、何すんのよ」
 少し拗ねたように言ってカチューシャを外し、手櫛で髪を整え直したハルヒは、
「もう帰るわ」
 と言って、立ち上がった。相変わらずいきなりなやつだな。
「まー元気出たなら良かったさ。またなんかあったらシャミセン貸し出すぜ」
 貸し出す、ってのも変か。こいつはうちの猫でもあり、SOS団の猫でもあるからな。
「いいわよ、別に」
 ハルヒはそう言ってドアノブに手をかけると、俺を振り返って言った。
「シャミセンよりはあんたの方が役に立つわよ」
 玄関くらいまでは見送ろうと思って立ち上がりかけた俺は、その言葉に一瞬、フリーズ。猫よりはマシ、てのは結構ひどい比喩だよな。
「おい、どういう意味だよ」
 俺をお前専用のセラピーアニマルにする気じゃないだろうな。とうとう動物扱いかよ。

 固まっている俺を尻目にさっさと部屋を出て行ったハルヒを慌てて追いかける。
 ま、どうせ暇だし、家まで送って行ってやってもいいだろ。

 お前の言うとおり、猫よりは役に立ってやるさ、団長様。