日だまり
捧げ物 | 編集

以下SSについて。
休日のハルヒサイド。
もちろんこれもキリリクということで、R254様に捧げます。
要らなければゴミ箱でも東京湾でもお好きなところに捨ててしまってくださいw

時系列は同じなので、どっちを先に読むとかないんだけど、まあ取りあえずこっちを後に出した。
というか、休日が先に書き上がっていただけどいうか。

基本的に休日と同じ流れなんで、同じ話を2度読むのが嫌だという人は最後だけ読んでください。

 とても嫌な夢を見た。夢なんて、寝ているときははっきりしていても、起きていくと頭からサラサラと音を立てるかのようにこぼれ落ちてしまって、その輪郭もぼやけていくって言うのに、嫌なところだけははっきり記憶に残っていたりする。
 その記憶。ずっとあたしのそばにいてくれると思っていたみんな、SOS団のみんなが、あたしに背を向けてそれぞれが別々の方向に歩いていってしまう後ろ姿。
 そう遠くない未来、そのときが来るのはあたしにも分かってる。高校だって卒業するし、それぞれが自分の進路を決めて自分の道を歩いていく。その道は1本道じゃないから、みんなそれぞれの道を曲がって行ってしまう。あたしを置いて。
 それでも、そのときが来るのを先延ばしにしたいあたしがいて、自分の弱さにイライラしてしまう。

 あーもう、何だかモヤモヤするわね!
 夢から始まった憂鬱な気分はあたしにつきまとって離れず、朝食を食べた後もまだ引きずっていた。
 もう、あたしらしくないわよ、こんなの!
 外を見ると穏やかに晴れた春の光に溢れていて、あたしの憂鬱を払ってくれそうな気がした。
 うん、家でじっとしてても仕方がないわね。こんな日は外の方が気持ちいい物よ。出かけるわよ!

 目的地なんて決めていないんだから、どこに行こうとあたしの勝手。そうなんだけど、気がついたらこの辺りに来ているなんて自分でも不覚だわ。
 ぶらぶらと陽気に誘われるままに歩いているうちに、いつの間にかキョンの家のすぐそばまで来ていた。別に、たまたま歩いてきた方向にキョンの家があっただけで、ここに来ようとしたわけじゃないわよ。まあ、それでもせっかく来たんだからキョンの顔でも見に行ってやってもいいかしら? どうせ休みだからってだらけているに違いないんだから、団長として活を入れてやらなくちゃね!
 誰に向かって理由付けをしているのか分からないまま、あたしはキョンの家に行く近道の公園へと足を向けた。

「あれ? あの猫……」
 見覚えのある三毛猫が、公園のベンチで丸くなっているのが目に入った。
「シャミセンよね?」
 辺りを見回してみたけど、キョンや妹ちゃんどころか、誰の姿も見あたらない。確かにここはキョンの家からすぐだけど、勝手に出てきちゃったのかしら? 公園の日だまりで昼寝なんて、いい身分よね。
「シャミー」
 ベンチに座って声をかけると、のそりと起きあがってあたしの膝の上にやって来た。うん、偉いわね、ちゃんとあたしのこと覚えてるわね。
「あんた、勝手に出てきちゃったの? キョンが心配してるんじゃない?」
 話しかけるとしっぽをパタっと振っただけで、後は我関せずと目を瞑っている。
「あたしが見つけたからいいけど、もし家に帰れなくなったらどうする気よ」
 キョンは心配するかしら? そりゃ当たり前よね、結構可愛がってるみたいだし。勝手にいなくなったりしたら、きっと探し回るに違いないわ。
 勝手にいなくなったりしたら────。
 その言葉に、また今朝の夢を思い出してしまった。ああもう、せっかく忘れかけてたのに!

「こんなとこで何やってんだ?」
 まさに今考えていた人物の声が頭の上から降ってきて、あたしは驚いて顔を上げた。やだ、考え事してたとはいえ、こんな近くに来るまで気がつかなかったなんて!
「キ、キョン!? あんた何でこんなとこにいるのよ!」
 もう、何言ってるのよあたし! むしろ何であたしがここにいるかの方が疑問じゃない!
 思った通り、キョンはあたしがここにいる方がおかしいなんて言ってきた。別におかしくはないでしょ、同じ市内なんだから。
「うるさいわね! いいでしょ、そんなこと!」
 そうよ、別に意味なんてないんだから。たまたま散歩していたらここに来ていただけよ。
 キョンはそれ以上追求することはせず、あたしの膝で丸まっているシャミセンに視線を移した。
「シャミセン見つけてくれたのか。家から勝手に出ていっちまってたんだよ。助かったぜ」
 そう言ってヒョイとシャミセンを抱き上げた。連れて帰るの、と聞くあたしに肯定で答えるキョン。何よ、せっかくシャミを見てたら気が紛れそうだと思ったのに。
 そんな考えがキョンに伝わったのか、キョンはこんなことを言ってきた。
「まあ、シャミも外の空気が吸いたくて出たんだろうし、少し散歩でもしてから帰るかな。お前はどうする」
「行くに決まってるでしょ!」
 あたしだってもうちょっと気分転換したいんだから!

 キョンの家のそばには、古い神社があって、その周りが結構大きな公園になっている。その公園を、シャミを抱いているキョンの隣をゆっくりと歩いた。大人しく抱かれているシャミはそのペースが気持ちいいみたいで、すでに居眠りしてるみたい。あたしは春休みの残りの予定を色々話したり、シャミを抱っこさせてもらったりしているうちに、朝のモヤモヤした気持ちなんてすっかり忘れてしまっていた。隣を歩くキョンの顔を見上げながら、考えてしまう。楽しいのはシャミセンを見て和んだから? それとも────。
 そろそろ帰るか、と言うキョンの声に我に返ったあたしは、咄嗟に命令してしまった。
「何か飲み物出しなさい! 喉渇いた!」
 もうちょっとシャミと遊んでいたいじゃない。別に、キョンともう少しいたいとか……思ってないわよ、そんなわけないじゃない!
 キョンはあたしの命令に苦笑いで答えると、妹も喜ぶか、なんて言って承諾した。なによ、そんな苦笑いなんかしなくったっていいじゃないの。

「あ、ハルにゃんいらっしゃーい!」
 妹ちゃんの明るい声に出迎えられて、あたしはキョンの家に上がり込んだ。相変わらず素直で可愛いわね、妹ちゃんは。どうして兄妹でこうも違うのかしら。これも不思議と言えば不思議よね。同じ親に、同じ環境で育てられてるのに、兄はこんなにひねくれ者なのに。
 ひとしきり妹ちゃんとおしゃべりしてから、あたしはキョンの部屋に勝手に入る。早く飲み物持ってきなさいよ!
「まったく、お前の辞書に『遠慮』って文字はないのか」
 なんて失礼なことを言いながらも、キョンはあたしにお茶を持ってきてくれた。ほんとに失礼しちゃう。遠慮を知らないわけないけど、別にキョンに遠慮する必要なんてないでしょ。
 別にすることがないので、もう少しシャミと遊ぼうとしたんだけど、シャミはあたしから逃げてキョンの膝の上で丸まっちゃった。動物と接すると気持ちが和らぐっていうけど本当かもね。キョンが、シャミをキョンに押しつけずに自分で飼えば良かったじゃないかなんて言ってるけど、その通りだわ。もしシャミがうちにいたら、今朝の夢なんてすぐに忘れられたかもしれないのに。

「動物っていいわよね」
 そんな気分から、思わず言ってしまった。ダメじゃない、理由を聞かれたら弱音を吐くことになっちゃうわ。
「何がだ?」
 思った通り、キョンは聞いてきた。
「和むじゃない。ちょっとモヤモヤすることがあっても」
 本音を隠すことも出来るのに、あたしはなんとなくキョンに聞いて欲しい気分になってきた。もしかしたら、最初からキョンに聞いて欲しくて、ここまで来ちゃったのかしら? そんなわけないわよ、何でキョンなんかに。
「なんかモヤモヤすることでもあったのか?」
 普段は鈍感なくせに、こういうときはちゃんと聞いてくるのよね。話したら笑われるかしら。いつものあたしらしくない、あんな弱音を。
「……何でもないわよ」
 やっぱりやめておこうと思ってそう言ったあたしに、キョンは気になるから話せと言ってくる。そうね、こいつは雑用なんだから、あたしのモヤモヤも解消してもらおうかしらね。
「あんたはさ、楽しかったって言ったわよね」
 この1年、あたしはとても楽しかった。入学したての頃は、入る高校間違ったかしらなんて思ってたけど、SOS団を作ってみんなでいろんなことやって。
 中学のときだって突っ走っていたけど、あたしは1人だった。1人が嫌だとか寂しいとか思ったことはない。でも、高校に入って、同じように突っ走っていても後からついてきてくれる人がいることの幸福をあたしは知ってしまった。みんながいたから、あたしは楽しかった。
 そして、キョンも楽しかったと言ってくれた。
 みんなは? キョン以外のみんな、みくるちゃんも有希も古泉くんも、楽しかったのかしら? 嫌々ついてきているわけがない、そう思っていても、今朝の夢を思い出すと自信がなくなってくる。みんな、あたしから背を向けて去っていってしまうのかも、そんな想いが胸をかすめる。あたしらしくないのは百も承知なんだけどね。
「そりゃそうに決まってるだろ。あいつらが楽しくなかったなんて言ったか?」
 キョンはあたしの不安なんかバカバカしいといわんばかりに一蹴した。そうよね、あんたに言われなくても分かってるわよ。
「分かってるのかよ。じゃあ何で聞くんだ」
 少し呆れ顔のキョン。バカね、分かってたって確認したくなることがあるのよ、あたしにだって。
「……ちょっと夢見が悪かったのよ」
 あたしがそう言うと、キョンはちょっと驚いたような顔をして────あたしの頭に手を伸ばすと、そのままクシャクシャとかき回すように撫でまわした。
 て、いきなり何すんのよ!
「ちょっと、髪の毛が乱れるじゃないの!」
 つい口から文句が出てきちゃうけど、悔しいことにそんなに嫌じゃない。キョンの手は温かくて、少しくすぐったくて気持ちいい。
「変な夢を引きずってそんな顔してるバカにはこれくらいやらなきゃ治らんだろ」
 ちょっとバカってどういうことよ。あんたにバカなんて言われる筋合いはこれっぽっちもないわよ。
「俺たちが楽しくなかったなんて、俺たちの団長がそんな風に考えちまったら、団員はどうすりゃいいんだよ。お前だって楽しかったんだろ」
 もう、何でそんなに偉そうなのよ、キョンのくせに。
 でも、キョンがなおもなで続けてくれるのが心地よくて、しばらくこの感触に身を任せていたくなって、あたしは目を閉じた。なんだろう、心の中に暖かい物が湧き上がってくる。さっき公園で寝ていたシャミセンもこんな感じだったのかもしれない。
 あたしも、日だまりで丸くなって寝ているような心地よさ。

「「あ」」
 2人同時に声を上げる。キョンが乱暴に撫でるもんだから、カチューシャがずれてしまった。
 て、あたし今何考えてたのよ! なんでキョンに撫でられて気持ちいいって……。
「もう、バカキョン、何すんのよ」
 髪もぼさぼさになっちゃったじゃないの。ああもう、何だか照れくさいわね。
「もう帰るわ」
 ちょっとこれ以上キョンと一緒にいられないかも。
 立ち上がったあたしに、キョンはこんなことを言った。
「まー元気出たなら良かったさ。またなんかあったらシャミセン貸し出すぜ」
 確かにシャミセンを見てても和むけどね。でも、あたしだって本当は分かってるわ。
「いいわよ、別に」
 ドアを開けながら、キョンを振り返った。
「シャミセンよりはあんたの方が役に立つわよ」
 さっきので、あたしの中のモヤモヤは完全に消えてしまっている。ほんとはもっとちゃんとお礼を言った方がいいのも分かってる。でも、これが今のあたしの精一杯。
 キョンは驚いたのか立ち上がりかけた格好のまま固まってたけど、無視して部屋を出た。今、絶対あたしの顔赤い。見せるわけにはいかないわ。

「あれー、ハルにゃん帰るの?」
 1階で妹ちゃんが声をかけてくれた。
「うん、妹ちゃんまたね!」
「ばいばーい」
 挨拶をしてる間に、階段を下りてくる音がする。ヤバイわ、キョンが追いかけてきたみたい。
「おい、待てよ」
「な、何よ」
 言いながらもキョンの顔が見れない。慌てて靴を履いて、玄関のドアを開けようとしたところで、そのドアを押さえられてしまった。
「どうせ暇だから家まで送ってやるよ。歩いてきたんだろ」
 いつものあたしなら自分から送っていきなさいって言っていたところよね。でも、今日はキョンの顔をまともに見る自信がないわ。
「い、いいわよ別に」
「遠慮すんなよ」
「遠慮じゃないわよ」
 キョンはちょっとムキになっているあたしの頭をポンポンとはたくと、
「お前の言うとおりシャミセンよりは役に立ってやるさ」
 なんて言うんだもの、反論出来ないじゃない。それに、その表情は反則よ、普段は眉間に皺ばかりよせてるくせに、どうして今日は笑ってるのよ。
「わ、分かったわよ! しっかり送りなさい!」
「へーへー。最初からそう言えよ」
「うるさい!」
 そんな言い合いはあたしたちにとって毎日の物だけど、今日は何か少し違う。キョンが笑ってるから。あたしも少し嬉しい。

 キョンの自転車の後で、見慣れた背中をいつもより近くで見ながら、朝の夢をまた思い出した。
 だけど、もう不安にはならない。
 みんな、いつかそれぞれの道を進むことになっても、バラバラになるわけじゃないわよね。きっと大丈夫。今は何故かそう思える。
 そんなことを考えたら何だかまた照れくさくなって、思わずキョンに怒鳴ってしまった。
「ほら、キョン、スピード落ちてるわよ! もっとしっかり漕ぎなさーい!」
「坂道なんだよ、スピード落ちて当たり前だろ! お前は乗せてもらってるくせに文句が多いんだよ!」
 反論するキョンの顔は見えないけど、文句言ってても笑ってるでしょ? 声で分かるわよ。

 やがてみんなが離れていってしまっても、この見慣れた背中だけは、ずっとあたしのそばにいてくれるんじゃないか、そんな気がする。
 うん、決めた! この背中だけは何があっても離さないでいるわ。覚悟しなさい!

 今はまだ、内緒だけどね、キョン!



  おしまい。