ラブレター
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 あんたが好き。
 あんたに会ってから、何かが起こる気がしていた。
 つまらなかった毎日が彩りあふれてくる気がした。
 毎日見ている背中が好き。
 振り返ってくれるときの表情が好き。
 掴んだときにさりげなく握り替えしてくれるあたしより大きな手が好き。
 何も飾らないでいるところが好き。
 文句を言うくせに、あたしの思いつきに最後まで付き合ってくれるところが好き。
 普段は仏頂面のくせに、ふと見せる優しい表情がたまらなく好き。
 ぶっきらぼうなくせに本当は優しいところがどうしようもなく好き。

 あんたが好きだから、あたしは前を向いていられる。
 あんたが好きだから、何があっても動じないと信じられる。

 もうどうしようもないほど、あんたが好き。



 テスト前の放課後、どうにも眠気に負けてしまって抜けている部分のノートを何とか写させて貰おうとハルヒに頼み込んで借りたノートに見つけた走り書き。
 詩? ラブレター?
 宛名はない。
 結構前にやったところに書いてあったから、ハルヒも書いたことなんか覚えちゃいないのかもしれない。

 しかし驚いたな。これが詩だろうがラブレターの下書きだろうが、とにかくハルヒに好きな奴がいるってことだよな。

 …………。

 いや、別にショックなんか受けちゃいないぜ?そう、驚いてるだけだからな。恋愛なんて精神病、とか言っていた奴が誰かに恋しているなんて、それこそ驚天動地だろ。それでもハルヒはそれだけこの世界を肯定している、ってこと何だからめでたいんじゃないのか。まあ、そいつに振られたらもしかしたら世界を再構成するなんて暴挙に出ないとも限らないが。
 古泉や長門はこの事実を知っているのか?

「ちょっとキョン、手が止まってるわよ! 早く写さないと下校時間になっちゃうじゃないの! 今日はまだ部室にも顔を出してないんだから!」
 思わず考え込んでいた俺にハッパをかけながら写し具合を覗き込んできたハルヒは、次の瞬間そのノートを物凄い早さで取り上げてしまった。
「おい、まだ終わってない!」
「う、うるさい! あ、あんた、これ、これ見た? よよ読んだの?」
 真っ赤になって胸にノートを抱きしめる。おい、動揺しすぎだ。
 ハルヒの焦り具合に何故か暗い気分になる。何でだよ。
「ああ、丁度写してるページに書いてあったからな。悪いが目にはいっちまった」
「う……あ……」
 新緑の中に放り込んだらいい感じにコントラストを描きそうなほど真っ赤になって何やらうめき声をあげていたハルヒは、ちらりと俺を見るとプイっと横を向いてしまった。
「…………で、どうなのよ」
 は? どうって、何がだ?
「これ読んで、あんたはどうなのよ」
 横を向いたままぶっきらぼうに聞いてくる。何だ? 感想が欲しいのか?
「いや、お前に好きな奴がいるってのは驚いた。まあ、お前が好きになるなんて、どんなやつなのか興味はあるな」
 一体ハルヒのお眼鏡にかなったってのはどんな特殊な奴なのかね。やっぱ宇宙人か?
「どんなやつって……興味あるって……」
 何故かハルヒは震えながら俺を睨み付けてきた。えーと、それは怒ってるよな? すまん、何で怒ってるのかさっぱりわからん。
「あんた以外の誰がいるって……!」
 そこまで言って、ハルヒはハッとした表情をして黙り込んだ。
 何だって? 「あんた以外の誰がいる」?
 あんたってのはハルヒが使う二人称で、今ここには俺とハルヒしかいないわけだから、二人称の相手ってのは当然「俺」になるわけで……。
「なななな何でもないわよ! バカキョン! もう知らない!」
 ハルヒはそう叫んで教室を飛び出してしまった。

 もう知らないって、俺の返事は聞かないつもりかよ、バカ。
 俺は後を追うために、2人分の鞄を持って教室を出た。
 ハルヒは既に姿が見えない。部室にいなければどこを探せばいいのか検討もつかん。

 さて、ハルヒを見つけたら、まず何て言うべきかね。


  おしまい。