2度目の悪夢 序
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    おまけ

「キョン! な、何あれ!!」
 焦ったハルヒの声、と言うのはなかなか聞ける物ではない。聞ける物ではないが、今の俺だってそんなことで感慨にふけっている場合ではない。なぜなら、俺たちの目の前には見たこともない生き物が牙をむいて、今にも襲いかからんとしていたからだ。熊とライオンを足して身体も牙もでかくしたようなその生き物は、明らかにこの地球上で知られている生物ではない。
 なんだ、あれは?
 何で俺たちはこんなことになっているんだ?
 いや、待て。そもそもこれはハルヒが望んだんじゃないのか? こんなUMAなんて言ってられるほど可愛いもんじゃない生物なんざ、ハルヒが望まない限り出てきっこないだろ? それともやっぱりここは異世界なのか?
 しかし、そんな疑問についてゆっくりと検討している余裕はない。この謎の生物は明らかに俺たちに敵意をむき出している。待ってくれ、何でそんなに怒っているんだ?
『グオォォォォォォォ!』
 そいつは地響きのような咆吼とともに、俺たちの方に突進してきやがった!
 「ハルヒ!!」
 立ちすくんでいるハルヒを抱きかかえて横に転がる。間一髪、ヤツは俺たちの脇をすり抜けるように走り去った。しかし、10数メートル過ぎたところで立ち止まり、再び俺たちの方を向く。どうやら猪突猛進に攻撃することしか出来ないらしい、何て分析している暇もなさそうだ。その眼には、先ほどより強い殺気が漲っていた。
 くそっ! このままじゃ殺られる!
 どうして長門と来なかったのか、と今更悔やんでも遅い。その長門が無事なのかすら俺には解らない。最後に見た長門は何かおかしかった。
 何とかこの場を切り抜ける方法はないものか。
「キョン……あたしたち、ここで死ぬの……?」
 ハルヒが震えながら俺にしがみついてくる。いつもの勝ち気な表情はどこへやら、すっかり青ざめていて、その目に浮かんでいるのは好奇心ではなく怯えの色であった。珍しく弱気なハルヒの言葉に、俺は思わず怒鳴りつけた。
「馬鹿野郎!  何で団長が弱気になってるんだよっ! こんなとこで死ぬわけないだろ!」
 俺はハルヒの手を取って走り出した。走って逃げられる相手ではない。でもここでじっと殺られるのを待つよりはマシだ。ヤツは、まるで逃げるのは無駄だと言わんばかりに、ゆっくりと俺たちを追ってきた。

 畜生、もう後がねぇ。映画や小説でおなじみ、崖のふちに追いやられるなんてお約束事は今はいらねえんだよ! だいたいここは学校からも見られる、最高峰1000mもない山で、川もたいていV字谷になっているはずだ。こんな崖の下に川が流れてる場所なんてあるのかよ。
「こっから飛び降りるわよ!」
 ハルヒがらしさを取り戻したのかそれともやけくそになっているだけなのか、そんなことを言い出しやがった。飛び降りる? この高さからじゃ、間違いなく死ぬぞ!
「だからって、このままアイツに喰われて死ぬなんて嫌よ!」
 そりゃ俺だって嫌さ。だからと言って投身自殺するのも嫌だぞ俺は!
 そうこう言っている間に、ヤツはまたうなり声を上げて身体を低くした。今にもこちらに突進してきそうだ。ハルヒもそれを悟っているらしい。
「キョン! 時間がないわ、行くわよ!」
 ハルヒはいつものように俺の襟首を掴むと、無理矢理崖から身を躍らせた。
 おい、これ死ぬって!


 俺の脳裏には、今までのことがまさに走馬灯のように流れていった────